じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Y.Hasegawa

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[今日の写真] 文学部中庭の藤棚。花は綺麗なのだが、クマンバチが群がっていて、棚の下のベンチで読書をするには勇気がいる。ちなみに、ここ数年、藤棚の後ろにある円錐状の樹木が妙に目立つようになった。たぶんメタセコイアだと思う。



4月24日(火)

【思ったこと】
_10424(火)[心理]「働くママと子の問題行動」の関係/「血液型と性格」議論を思い出すわたし

 4/23の朝日新聞に、「子の問題行動 仕事と無関係:働くママ安心して」という見出しの小記事が載っていた。国立精神・神経センター精神保健研究所の菅原ますみ・家族地域研究室室長が日本赤ちゃん学会で発表した内容の紹介であり、「84年8月から86年2月までに神奈川県内の病院で出産した1260組の母子の協力を得て、生後6カ月、18ヵ月、5歳、8歳、10歳、14歳と追跡調査」を行い、「それぞれの時点で、注意欠陥や攻撃性、反社会的行動などの問題行動の有無、引きこもりや不安などの抑うつ傾向などを尋ねた」結果であるという。母親が働いていたグループと働いていなかったグループでは、子どもの成長後の問題行動の事例数に有意な差が無い。これをもって、「幼児期の母親の仕事の有無は、子どもの問題行動には関係しない」という結論が引き出されたということのようだ。

 新聞記事では、しばしば、結論部分の一部が強調されすぎたり、原文の「但し書き」が省略されたりするので、どこまでが菅原室長のオリジナルの見解なのかは不明であるが、とりあえず、伝えられたとおりの「幼児期の母親の仕事の有無は、子どもの問題行動には関係しない」という「結論」について考えてみたいと思う。

 まず、何はともあれ、長期間にわたる縦断研究が行われた点に敬意を表したいと思う。論文の数や短期的な成果が求められる風潮の中で、15年以上にわたる長期の追跡調査にエネルギーを投入することはなかなかできないものである。もっとも、最終的に追跡できたのは270組であったというから、やはりこの種の研究はなかなか難しい。残りの990組がどのような原因で追跡できなかったのか、問題行動の多い家庭のほうが非協力的ということはなかったのか、何らかのデータが無いと説得力に欠けるように思った。

 そうした、研究の確実性の問題とは別に、そもそも、「幼児期の母親の仕事の有無」というような大ざっぱなくくりかたで、「問題行動の発生」との因果関係(もしくは相関関係)を検討すること自体に無理があったのではないか、という気もする。
  • そもそも、幼児期に母親が仕事をするかどうかというのは、無作為な割付によって統制される実験ではない。例えば、幼児期から手がかかるような子どもを抱えている母親は、よほどの経済的事情が無い限り、それを放置して働きには出ないはずだ。逆に、子どもが幼児期の時から働きに出られる母親は、父親や(子どもにとっての)祖父母などが面倒をみてくれる環境にあるかもしれない。
  • 働きに出ない母親の中でも、放任型もあれば、何から何まで世話を焼きすぎて自立を妨げるような子育てをしている母親もある。それらをひっくるめて「仕事無群」として平均化して「仕事有群」と比較しても、問題行動の発生の原因をさぐることにはできないように思う。もっと、個別的な分析の積み重ねが必要であろう。
  • 統計学の基本として、「有意差が無かった」ということは「関係が無い」ということの積極的な証明にはならない。



 もっとも、ここで伝えられた「結論」には別の意味の情報的価値がある。それは、もし

子どもが小さい時は、母親は子どもと一緒に過ごすべきだ。幼児期から仕事に出ると、後に子どもの問題行動が起こりやすくなる。

という主張が一般に広く信じられているとするならば、今回のようなデータを示すことで、とりあえず、

子どもが幼児期のうちから母親が仕事に出たからといって、一般に信じられているほどに問題行動が起こるわけではない。現時点で、問題行動が起こるというような主張をすることは妥当ではない。

という発想の転換を迫ることができる。その点で、この発表は「意外性」という研究価値を持っていることになる。

 このことで、だいぶ昔にこの日記で連載した血液型性格判断についての議論のロジックを思い出した。例えば、1万人の人に何らかの性格検査を行い、特定の性格特徴について血液型の違いによる有意な偏りがあるかどうかを調べたとする。仮に有意差が見られなかったからといって、

血液型と性格の間には何の関係も無い

ということは「実証」はできないのである。しかし、少なくとも

血液型と性格の間には、巷で過大に取り上げられているほどの顕著な差は見られない。それゆえ、現時点で、根拠も無しに「すべてに関係がある」ような主張を展開したり、相性判断や血液型別の保育や人事配置を提案することは妥当ではない

と控えめに結論することは大いに意義がある。私が16年前に発表した研究(こちらに抜粋あり)はそういうロジックに基づくものなのだが、新聞で「長谷川が血液型性格判断を否定した」というように伝えられたり、未だに誤解をしている方がおられるのはまことに残念なことである。
【ちょっと思ったこと】

モテナイという設定

 妻と娘が東芝日曜劇場「Love Story」に熱中している。このことに関していくつかのWeb日記で、主役を演じる俳優たちを「モテナイ」という設定にすることには無理があるのではないかという意見が出されていた。このことを妻に話してみたが、「本当にモテナイ人が出演したら誰も見ないわよ」と言われてしまった。「モテナイ」役を演じながらなおかつ魅力のある俳優というのはなかなか得難いものである。

 このことでふと思い出したが、映画「幸福の黄色いハンカチ」(こちらに資料あり)の桃井かおりと武田鉄矢はモテナイ男女役をなかなかうまく演じていたと思う。彼らが中山美穂とトヨエツの代わりをやったらどうなるかなどと思ってみたが、あまり無責任なことは言えまいなあ。