じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Y.Hasegawa

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[今日の写真] 文学部のトイレの窓に白い蛾が留まっていた。図鑑で調べた所、ホソウスバフユシャク(細薄羽冬尺?)というシャクガの仲間のようだ。図鑑の解説によればフユシャクで羽根があるのはオスだけ。メスの羽根はアリのように退化しているという。冬に発生するというのも珍しい。落葉樹の葉を食べる幼虫のためにシーズンオフに交尾する必要があったのだろうか。
[3/2追記]こちらにフユシャクについての解説があった。



3月1日(水)

【思ったこと】
_10301(木)[英語]21世紀の英語教育を素人なりに考える(1)岡山大の英語入試問題

 先日2/25に行われた前期入試の問題が翌日の地元新聞で紹介されていた(代ゼミのサイトからも原版の画像を入手することができる)。

 このうちの1番目の問題は英語学習に関する話題。「reinforcement 強化」などという注釈があったために目にとまった。とにかく、入試問題に「強化」という言葉が登場したのは喜ばしいことではある。ここでは、英語問題としての解説ではなく、問題に使われた英文のロジックについて考えてみたいと思う。

 まず問題文の最初の部分をざっと訳してみよう。
Language acquisition has long been thought of as a process of imitation and reinforcement. Children learn to speak, in the popular view, by copying the utterances heard around them, and by having their responses strengthened by the repetitions, corrections, and other reactions that adults provide. In recent years, it has become clear that this principle will not explain all the facts of language development. Children do imitate a great deal, especially in learning sounds and vocabulary; but little of their grammatical ability can be explained in this way.
言語の習得は、長いこと模倣と強化のプロセスであると考えられてきた。子どもは、身の回りで聞き取った発話をそっくり真似ることによって、また、自分たちの反応を繰り返したり、修正したり、その他大人たちがどう対応してくれるかにより強められることで、話し言葉を学習していくと考えることが一般的であった。近年、この理論では言語の発達の事実を説明しきれないことが明らかになってきた。特に音声と語彙に関しては確かに模倣によるところがきわめて大きいが、文法能力に関しては模倣によって説明できる部分はあまりない。
 そして、この「模倣説」を否定する事例として2つが挙げられている。そのうちの1番目は
子どもの発話の中には、「wented」、「taked」、「mices」、「mouses」、「sbeeps」 というようなミスがある。これは不規則形を学ぶ前に、規則的な文法ルールを「a reasoning process known as analogy(アナロジーとして知られる推論のプロセス)」によって自発的に拡張しようとする段階があることを示す証拠だ。
というものだ。もし子どもが、単語やフレーズを大人のしゃべる通りに個別的に真似していたのなら、こういうミスは起こらない。なぜならここでは、大人が決して使わない言葉が勝手に発明されているからである。

 もう1つは、大人が何度か訂正させてもなかなか身につかない表現があるという事例。次のような母親と子どもの対話が挙げられていた。
CHILD: Nobody don't like me.
MOTHER: No, say 'Nobody likes me.'
CHILD: Nobody don't like me.
(Eight repetitions of this dialogue .)
MOTHER: No, now listen carefully: say 'Nobody likes me.'
CHILD: Oh! Nobody don't likes me.
問題文によれば、この事例は、「...children seem unable to imitate adult grammatical constructions exactly, even when invited to do so. 」という証拠であり、「'single negative' pattern」を使う段階に達していないこと、それゆえ「....language acquisition is more a matter of maturation than of imitation. 」であることを示唆していると結んでいた。

 以上が入試問題第一問本文の概略であるが、論じられている点をこの文脈だけで判断するといくつか不満が残る。

 例えば、冒頭で「言語の習得は、長いこと模倣と強化のプロセスであると考えられてきた。」とされているが、これを読んだだけでは、まるで「模倣された反応が個別的に増えること」イコール「強化」であるかのように思われてしまう。しかし実際には
  • 強化されるのは個別的な反応ではない。何らかの共通性をもった反応クラスが強化されるのである。反応クラスが強化され、後に分化強化や分化弱化により不規則形が習得されていくというのはオペラント強化ではごく普通の現象であって、「文法能力」を持たない動物でも観察することができる。大人が決してしゃべらない「wented」や「mices」を口にしたからといって驚くにはあたらない。「a reasoning process known as analogy(アナロジーとして知られる推論のプロセス)」が必要であるとも言えない。
  • ここでは細かい議論は避けるが、般化模倣、刺激般化、反応般化、ルール支配行動、刺激等価性など、過去に強化されたことのない行動が生じる仕組みについてはいろいろな説明が可能である。「はじめに文法ありき」という前提を作るべきではない。
  • 『スキナー以後の行動分析学:(3)S-R条件づけ理論との混同.』(岡山大学文学部紀要(第20巻)、1993年)で論じたように、強化理論とは決して「S(刺激)-(R)反応」理論ではない。このあたりについて誤解があるのではないか。
 後半に挙げられている「Nobody」の誤用は、別の意味で興味深い。問題文の文脈だけからは、「don't」使用の分化弱化がうまくいかない事例と見なすこともできるが(←と言って、こんなことを答案に書いても正解とは見なされないだろう)、その根底には昨年11/20の日記に書いた、英語の名詞は「もの」という特徴が深く関わっているように思える。これはまた別の機会に考えることにしたい。




 余談だが、こちらによれば、岡大の英語の問題は「大学ランキング」のなかでも評判がよいらしい。
  1. 記述式の問題が主であるか。
  2. 解答時間に対して問題量が適切か。
  3. 出題の英文や語彙が適切なレベルか。
  4. 設問がよく練られ、洗練されているか。
  5. 出題の分野が幅広いか。
という基準で各項目別にを5点満点で評価して合計すると、発売中の「大学ランキング 2001年版」では
1 岡山大学     23
2 東京工業大学   22
  東京都立大学   22
4 横浜市立大学   21
  愛知教育大学   21
6 東京大学     20
  横浜国立大学   20
  大阪大学     20
  広島大学     20
となり、しかも岡大は2年連続で1位となっているそうだ。今回問題文の内容について多少の不満を述べたけれども、試験問題としてはなかなか妥当であった。来年度のランキングでも上位をキープされることを期待したい。
【ちょっと思ったこと】