じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Y.Hasegawa

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[今日の写真] 妻が育てている鉢植えのヒヤシンスが見頃となった。娘の活け花(チューリップ)と合わせ、一足早い春の感触。



1月28日(日)

【思ったこと】
_10128(日)[心理]和田秀樹氏の『痛快!心理学』と行動分析(1)

 毎週月曜日に出講している「生きがい論の行動分析」というテーマの授業がいよいよ1/29で最終回を迎えることになった。最終回の授業では、シラバスには含まれていなかったが、昨年10月に刊行された『痛快!心理学』(和田秀樹、2000年、集英社インターナショナル、ISBN4-7976-7022-3)にちょっとふれようかと思っている。

 巻末に記された著者の履歴によれば、この本の著者の和田秀樹氏は1960年、大阪市生まれ。東大医学部卒業の精神科医。以前、日本行動分析学会ニューズレターで、氏の『受験勉強は子どもを救う』を取り上げたことがあった。

 今回刊行された本は書名に「心理学」が冠せられ、英文で「Global Standard・Psychology」という副題?がつけられている。まさに和田流心理学の集大成とも言えるし、見方によっては全国の大学の心理学関係者に対する果たし状と言えないこともない。

 では、この本はどういうスタンスで書かれたのか。文中のキャッチフレーズから拾うならば、それは
◆心理学は「名より実」。役立たなければ意味がない(p.16)
◆本書には「使える心理学」しか出てきません!(p.17)
ということになるかと思う。では役に立つとはどういうことか?
 この点については
...たとえ考え出されたのが昔でも、今なお治療の現場で役に立っているのであ れば、その理論には価値があると見るべきでしょう。 ............【中略】.............. いずれにしても、大切なのは「自分にとって使える心理学」を見つけること。心理学にかぎらず、学問というのは現実の生活に活かされてこそ価値があるのです。いかに有名な、メジャーな理論でも、あなた自身が「役に立つ」と思えないのでは困ります。

 そのためには、いろいろな心理学を知っていて損はありません。さまざまな心理学の中から、自分の心にしっくりフィットするものを見つけられれば、それがあなたにとって「使える心理学」になるのです。[p.16〜17]
と記されている。私はこの、「心理学は「名より実」。役立たなければ意味がない(p.16)」という点には同感だ(これに関連して、昨年の9/12の日記で「救うための科学」か「科学のための科学」かという話題をとりあげたことがある)。

 もっとも、私が考えている「役に立つ」というのは、有用性が客観的に実証できることを前提としている。和田氏の場合も「治療の現場で役に立っている」とは記しているが、単に「治療の現場で流行っている」、「治療の現場で好まれている」、あるいは「自分がフィットしていると感じる」場合とどう区別できるのか、もう少し詳しく教えていただきたいところがある。

 和田氏は、上記引用部分より少し前のところで、
たとえば、ある理論に基づいて治療を行なったとき、100人中90人の患者さんがよくなったとします。そのとき、その90人の患者さんにとっては、その理論は「正しい」と言え るかもしれません。しかし、残る10人の患者さんにとっては、そんな理論が正しいなん て、とうてい言えません。多数決で、理論のいい悪いを決めるわけにはいかないのです [p.16]
として「理論」の「実証」の限界を論じておられるが、これは、単に群間比較により平均値的に人間を扱うことの弊害を指摘だけのこと。必ずしも「客観的な検証」の限界を示したことにはならない。現に行動分析学でしばしば用いられる単一被験体法では、そのような「多数決」による仮説検証などは行わない。あくまで、ある理論がどういう条件のもとで成り立つのか、その効果はどの範囲でどこまで及ぶのかが関心事となる。

 和田氏の今回の御著書については、いずれ時間ができた時に細かく論評させていただこうと思っているが、『受験勉強は子どもを救う』のコメントにも記したように、和田氏の聡明でクリティカルな御指摘の数々には敬服するところが多い。ただ、まことに残念なことに、行動の能動的側面や、行動が結果の随伴によって強化されるという視点が殆ど取り入れられていない。ひょっとして、行動分析学については頭ごなしに無視しておられるか、もしくはマイナーな分野であるために関連書を一冊もお読みになっていないのではないかという気がする。

 そのこともあって、この本の終わりのほうで、せっかく「働くことこそ、最大の老化予防(p.213)」と説いておられるのに、どちらかというとその理由づけが体験談、あるいは都合の良い断片的事例の寄せ集めに終わっている点は否めない。強化や確立操作の考えを導入すれば、一貫性のある理論的背景やもっと具体的で内実を伴った方策を示せると思うのだが、まことに残念だ。同じことは、
どんなに立派な処方箋があったとしても、あなた自身の中に頭をよくしたいという「動機」がなければ何の意味もないです。そう考えたとき、「動機」こそがあなたの頭のよさを規定するといっても過言ではないのです。[p.204]
とか、
.....そういう意味で気力は、体力や知力を支えるべ一スになるものだと言っていいでしよう。

 だからこそ、老化を防ぐためには、意欲にあふれた「元気な心」を持って、感情を若々しく保たなければいけないのです。[p.211]
という記述にも表れている。「動機」や「気力」という精神論ではなく、どうやってそういう行動を強化するかが一番の問題だと思うのだが.....。

[※1/29追記〕和田秀樹氏のHPは 今後は上段のほうのサイトに移行されるとのことだ。