じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Y.Hasegawa

10月のインデックスへ戻る
最新版へ戻る
[今日の写真] 段菊。文字通り、段のように花が分かれて咲く。



10月5日(木)

【思ったこと】
_01005(木)[教育]最近の大学教育論議でおもふこと(30)外国から何を学ぶか(1)Robert's Rules/和魂洋才

 神戸大学で10/4に行われた「岐路に立つ日本の大学教育──外国から何を学ぶか──」という研究集会の内容について、差し障りが無いと思われる範囲で、新しく知ったこと、感じたことなどをまとめてみたいと思う。

 この集会は神戸大学大学教育研究センターが主催したもので、今年で8回目となる。今回の演題は
  1. 基調講演「学びなおしは必要ないのか」椎貝博美・山梨大学長
  2. 「アメリカの大学体験:1年生から大学教授まで」潮田資勝・東北大教授
  3. 「英国の大学における数学教育の特徴について」永田雅人・京大大学院教授
  4. 「米国の大学のTA制度とTA研修システムについて」宮尾龍蔵・神戸大助教授
となっていた。「──外国から何を学ぶか──」などというタイトルから、何となく「日本はダメです。外国は素晴らしい。ぜひとも外国の制度を見習うべきです。」という議論を想像していたが、実際の内容は全く逆で、日本の文化を考慮せずに形だけ外国の制度を導入しても骨抜きになってしまう、それゆえ:
  • 外国の制度を導入するなら3年ぐらいはつっこんで調べてみるべき。導入に際しての副作用を如何に小さくするのかも検討しなければならない。
  • でなければ、日本の伝統的枠組みの中で改善をはかるか。
  • それもダメだというなら、いっそのこと、日本の伝統を廃止して、森有礼が唱えた「日本語廃止、英語国語化」のように外国の制度を丸ごと取り入れるか。
という3つの選択肢で考えていこうというのが、ほぼ共通した論点であったと言えよう。

 まず椎貝先生の基調講演では、江戸時代の教育機関以後、西洋の教育制度や民主主義の諸制度がどう取り入れられていったか、その際にどういう問題が起こったかが詳細に論じられた。時間の関係で一部は印刷資料の提示だけであったが、私が特になるほどと思ったのは、次のような点であった。
  • 椎貝先生が在籍された外国の大学運営では、RRO(Robert's Rules of Order)が徹底しているという。他に、セカンド(動議提出に必要な支持者1名)、各自の明確な態度表明が求められた。ところが日本では、教授会や評議会の制度は導入したものの、運営の方法は導入しなかった。これにより、ボスの顔色をうかがったり、自分の意見を明確にせずにうまく立ち回るという傾向が出てきた。現在の日本の国立大学には、意志決定のプロセスをより明確に、かつ迅速に、さらにより民主的におこなう必要がある。
  • リーダーには狩猟社会のリーダーと農耕社会のリーダーがある。狩猟社会のリーダーは纏め役ではなく、狩猟の第一人者であることがまず必要。リーダーが不要となるような形で情報を公開することはない。いっぽう農耕社会では、みんなが知識を共有し円満に団結して努力することが求めら、情報は価値をつけずできるだけ早く構成員に伝える必要がある。
    これまでの日本の大学は基本的に農耕社会を反映しており、日本の国立大学長にも農村型のリーダーシップあるいは運営が要求されてきた。いっぽう、外国の大学では程度の差こそあれ狩猟民族型のリーダーシップが要求される。競争的環境、業績評価、授業評価、リーダーシップ、個性かがやく大学といったキーワードは狩猟社会型のリーダーシップを求めるもの。
  • 明治以後の技術導入に際して言われた「和魂洋才」はひとつの哲学ではあるが、多くの場合自己能力の過信に陥る。


 各講演のあとにおこなわれたディスカッションセッションで、フロアから「AO入試」、「TA」、「GPA」などについて、日本で誰が導入を言い出したのか、どういう形で中教審などの答申に盛り込まれていったのかについて質問が出された。発言者を同定せず、出された話題の中で印象に残っているものを列挙すれば、
  • ハーバード大学で行われている「AO入試」では、能力ばかりでなく家柄が重視されること、それゆえ、入学難易度に関してMITが「very competitive」なのに対してハーバードは「very difficult」(=個人の能力だけでは入れないという点で困難度が高い)という評価を受けているという話が出た。これは、「10人分の奨学金を寄附できる学生を入学させ、それで勉学できる10人の学生の中からノーベル賞学者が出ればよい」という発想だとか。いずれにせよ、日本のAO入試導入ではそういう実状が伝えられず、しかも学力を考慮せずに入学させてしまうのは非常に問題。また、AO入試のためには学長と同じぐらいの給料で雇われるプロのスカウトが必要。
  • 「TA」については、別途、宮尾先生の講演の中でも取り上げられたが、全体討論の中で、日本の現行のTA制度が、TAのための研修を行っていないこと、時間給で一律平等にばらまいていることなど、形だけの導入になってしまっている問題点が指摘された。
  • GPAについても、ごく一部の大学での導入経験だけをもとに、中間答申に盛り込まれた経緯がある(本答申では抑えた表現になっている)。
次回に続く。
【ちょっと思ったこと】

二次不等式の問題、その後/魔法陣

 10/3の日記で、息子(中3)の数学の問題についての疑問を取り上げた。元の問題を再掲すれば、
χについての2次不等式、@、Aがある。但しaは定数で、a≠1とする。
(a-1)(χ-1)(χ-a)<0..............@
χ2+6χ-a<0............A

@、Aを同時に満たす数χが存在しないように定数aの値の範囲を定めよ。
というもので、息子の疑問は、「0≦a<1の範囲が含まれていないのはなぜか」というものであった(0の後は「<」ではなく「≦」であったので訂正)。このことについてお互いを更新する掲示板およびメイルにて、3名の方からご指摘をいただき、結論として0≦a<1は該当しないことが分かった。

 まず、どうして0<a<1という範囲が出てきたのかを説明したい。@をf(χ)、Aをg(χ)と置き、頂点のχ軸が-3であることから、a>1の時はf(1)≧だけを考えればよく、従って1<a≦7が容易に導き出される。

 息子の間違いはa<1の時にあった。この時、@は上に凸となり、aのほうが1より左側の座標にくる。息子は、g(a)とg(1)が両方とも0以上であることを必要十分と考え、
g(a)=a2+6a-a=a(a+5)≧0.......B
となる条件を考えた。ここから、0≦a<1もしくはa<-5が導き出される。これが0≦a<1が出てきた理由であった。しかし、じつはg(a)とg(1)が両方とも0以上であっても必要十分条件とはならない。-3≦aの時は、Aの頂点は必ずマイナスとなり、@も値aの左側でマイナスの値をとるので、@、Aを同時に満たす数χが必ず存在してしまう。それゆえ、a<1の時は、さらに-3≦a<1の場合と、a<-3の場合に分けて考える必要があったのだ。 そして今述べたように、-3≦aの時は同時に満たす数χが必ず存在するので除外。いっぽうa<-3の場合はg(1)≧0およびBを解いて、a≦-5が導き出される。以上から、この問題の正解は、a≦-5および1<a≦7となる。ちなみに、g(1)>0およびBさえ満たせば、Aの解があるかどうかはどうでもよいわけで、a<-9の場合を考える必要は全く無かった。この問題、いっけん複雑に見える状況をどのように合理的に場合分けするかという解決能力を養うのに適した問題であると思った。

 以上は、K.Tsujiiさんからのメイルに教えられての解答。どうもありがとうございました。なおK.Tsujiiさんからは、次のような追伸もいただいている。
そういえば、以前娘さんの宿題でしたか確か「1-1/2-1/4-1/8…」というようなのがありましたよね。数直線を切って説明されていたように思いますが(もちろんそれでもいいと思うのですが)、例えば丸いケーキのようなものをイメージしてもらってそれを半分ずつに切っていくというのも面白かったのでは…と感じました。
なるほど、数直線よりもケーキのほうが具体的でしたね。

 もう1つ余談だが、昨日神戸大学で行われた「岐路に立つ日本の大学教育──外国から何を学ぶか──」という研究集会の中で、京大の永田雅人先生が、1から16までの数で4×4の魔法陣を作った場合、1行(もしくは1列)の合計はいくつになるかという話をされていた。通常これは、
  • 1から16までを足して4で割れば済むことではあるが、
  • 計算を簡単にするために、1と16、2と15というように、多いほうと少ないほうから順に並べて足し合わせると17が16個できる。
  • 元の数の2倍になっていることと、魔法陣が4行(4列)であることから8で割ると、34が正解。
という解き方をするが、永田先生が英国におられた時、ある子どもが「1+2+15+16=17×2=34」だといって簡単に答を出したという。魔法陣というのは必ずしも同じ行に1,2,15,16が並ぶわけではない(例えば、「16,2,3,13」、「5,11,10,8」、「9,7,6,12」、「4,14,15,1」という魔法陣がある)ので、どうしてこれで正解になるのかよく分からないところもあるのだが、永田先生によれば、こういう解き方をする学生を大学に入れることも必要だそうだ。私の推測ではこれは論理的思考ではなく
1行は4マスしかないんやから、いちばん小さいほうから2個、いちばん大きい方から2個取ってきて足せばいいんや。
という直感であるらしい。もちろん、「1と16、2と15というように、多いほうと少ないほうから順に並べて足し合わせると合計17の組が16個できる。1行は4マスだから...」と考えてもよさそうだが、これでは並みの学生になってしまうようだ。
【スクラップブック】