じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Y.Hasegawa


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[今日の写真] コスモス。最近は早く種を蒔けば7月から咲き始める品種もあるが、やはり「秋桜」と書かれるように、コスモスは秋が一番。



9月29日(金)

【思ったこと】
_00929(金)[一般]IT革命への不安

 このところ、国会を初め各所で「IT革命」というスローガンを耳にするようになった。少し前に政府は3000億円規模の「IT講習券」計画を打ち出していたが、バラまきとの批判を受けて断念、しかし数百億円規模にとどまる形でIT講習会を実施する方針を固めたという。中高校でのネット環境の整備も前倒しで執行されるとか、21世紀を前に今後もさまざまな企画が打ち出されることになるのだろう。

 いっぽう、こういう動きに対する危惧もいろいろな形で表明されている。9月26日の朝日新聞「藤本義一の日日日日(ひびにちじつ)」で藤本氏は、ネットが生身の人間どうしのつきあいや現実体験を失わせる恐れのあることを皮肉っておられた。ネットに常時接続しながら試合の進行に合わせてリアルタイムで交信を楽しんでいるタイガースファンを例にとって、そんなことより球場に足を運んで一体感を得るとか、仲間たちとテレビ中継にかじりつき一喜一憂したほうが自然な健康を感じると述べておられたが、これはもっともなことだと思う。

 総務庁が29日に発表した1999年の全国消費実態調査(単身世帯)によれば、30歳未満の電話代は94年に比べて男性が約2.16倍、女性が1.91倍に増加。また、40歳代のパソコン購入費は同じく10倍以上。いっぽう、一カ月平均の消費支出は、30代未満の男性で実質4.4%の増加にとどまっており、食費や衣料費を切りつめてIT支出にあてているとの見方も出ている(数値は9/30の朝日新聞記事による)。

 ネットを通じて、このWeb日記更新のほか、授業の連絡、論文の公開などをやっている私としては、原則的にはIT革命の推進には賛成するし、デジタルディバイドと呼ばれるネット弱者を作らないための対策も非常に重要なことだと思うけれども、これが政治の主要課題として推進されることには、人間をよりよい方向に変えられるのかという話になると、かなりの不安を感じざるを得ない。


 そもそも、IT革命で経済の立て直しができるのだろうか。
  • 確かに一時的に景気はよくなるだろうが、経済の根本は農業や鉱工業などの生産活動にある。これを軽視したり他国からの輸入まかせにしていたのでは国は滅びる。
  • ネットでの買い物が便利になるといっても、総消費量が増えるわけではない。ネットに集中する人が増えれば、そのぶん使われない物も増えてくる。使われない物は売れなくなって当然。
  • ネットで交流できるようになるぶん、交通の利用は減り、ショッピングに出向く機会も減る。テーマパークに行く変わりにバーチャルなゲームに熱中する人々が増えて、第三次産業の一部は衰退していく。
というような不安は杞憂に終わるのだろうか。

 けっきょくのところ、いまのIT革命論議では目先の利便性や景気回復への貢献度ばかりが強調されているだけであり、それによってどういう人間が作られていくのかについての本質的な議論は後回しにされているように思う。生身の人間どうしのふれあい、実体への働きかけ、特に地球の自然環境へのふれあいが損なわれていくようであれば、非常に危険。生身の人間の住む町にゲーム感覚で核ミサイルをうちこむような世代が生まれないとも限らない。

 サイトの主宰者、Web日記の参加者、読者などは、とにもかくにもIT文化の先取りをする人々であるとも言える。そういう人々の生活ぶりが、ネット不参加者、パソコン不使用者たちと比べて改善されていると言えるのか。その利点はadvantage、profit、benefitのどれにあたるのか、といった問題を正確に分析していけば、IT革命によって変わっていく人間の姿もある程度見えてくることになるだろう。

 もっとも、こうした論議は受け身的、傍観者的であってはならない。IT革命で人間がどう変わるかを危惧するよりも、それを通じてどういう行動を増やしていくのか、そのために我々一人一人がどのように主体的に関わっていくのかが課題となるのかもしれない。
【ちょっと思ったこと】