じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Y.Hasegawa


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[今日の写真] フンザのナガールで見た樹木。ピラカンサ?に似ているようだ。この樹木は国境を越えたタシュクルガンにも生えていた。



9月5日(火)

【思ったこと】
_00905(火)[_008PC]中国のTV事情:体脂肪計のCM、ヌード(?)、 賞品目当てのクイズ、ラブソング、証券展望、高齢者生きがい番組、.....日本に無いのは芸能界スキャンダルネタぐらいのものか


下記の内容を加筆修正して、こちらのエッセイに再掲しております。そちらのほうでお読みいただければ幸いです。


 このシリーズで前回、ウルムチや北京のあまりの変わり様に驚いたと書いた。しかしこれは建物や人々の暮らしぶりばかりではなかった。その変化を最も象徴しているのがテレビ番組の内容ではないかと思う。その一部をデジカメで撮影しこちらにアップした。

 中国国内のホテルにはたいがいカラーテレビが備え付けられており、夕食後に荷物整理などをしながらよく見たものだ。中央電視台のCCTV-1(通常のニュース主体のチャンネル)と、CCTV-2(文化・教育・娯楽主体のチャンネル)は、カシュガルでも北京でも見ることができた。

 テレビの電源を入れて驚いたのは、とにかくCMが多いこと。電化製品、化粧品などのほか、中には体脂肪測定機能つき体重計のCMまであった。食糧難の時代には考えられないことである。また番組の中には「証券之夜」という国内外の株式展望番組まであった。

 カシュガルの空港の待合所に着いた時はたまたま映画が始まるところだった。機内ので到着を告げるシーン、トランクがベルトコンベアーで運ばれるシーン...おや、これは私が高校生の時に見たことがあるぞ、と思って注視していたら、ダスティン・ホフマンの特徴ある顔が映し出される。間違いなく「卒業」だった(写真1)。

 この「卒業」という映画、主人公のベンが恋人の母親と不倫に陥る場面で、ヌード写真が数回、フラッシュのように瞬間的に提示されるところがある。中国のテレビだからそこはカットするだろうと思って注意深く画面を見つめていたが、そんなことは無い。ノーカットで放映されていた。この番組では、登場人物の声はすべて中国語に吹き替えられていた。西洋人が「ニーハオ」、「ニーメンハオ」などとしゃべっているところがまことに奇異に感じられたが、よく考えてみれば日本語吹き替えだって同じぐらい奇妙とも言える。

 テレビ局がどういう意図でこの映画を放映したのだろうか。あるいは、単なる娯楽番組の一環として1960年代の人気映画を順繰りに放映していただけなのかもしれない。しかし、多少深読みするならば、この映画の主題は、過去の出来事(恋人の母親との不倫)に囚われずに、また、既成の枠組みに囚われずに、自分の素直な気持ちをそのまま貫くという可塑的で前向きな生き方を描いているところにあると思う。映画の最初のほうで、ベンの卒業祝いに訪れた年配の男性がベンに、「これからの成功の秘訣はplasticだ」と諭すシーンがある。話の文脈から言えば「これからはプラスティックの業界が発展する」という意味であるが、おそらく「型にはまらず柔軟に生きよ」という映画の主題が込められていたのではないかと私は勝手に解釈している。そして、いまの中国の経済体制、その成長や変化こそが、この映画の主題であるplasticの精神として肯定されているのではないかと考えたが、深読みのしすぎだろうか。

 このカシュガルからの便が深夜便に変更されたため、この「卒業」を最後まで見ようとテレビの前に陣取っていたところ、30分ほど経ったところで、娘さんを連れたウィグル人の女性がつかつかとテレビの前に近づき、勝手にチャンネルを変えてしまった。娘に見せたくないと思ったのか、それとも、今述べた「plasticの精神」に対する拒絶であろうか。

 中国のテレビで一番面白かったのは「開心辞典」(「開」は門構えをとった字)という人気?クイズ番組であった(写真2〜8)。四択ないし五択の問題を次々と視聴者参加型のクイズ。「世界で一番広い島はどこか?」というように一部の問題は漢文式に読みとることができた。女性の司会者が「その答えでいいですか」というように解答者の自信の無さをユーモアたっぷりにからかうところがよかった。

 このクイズ番組で面白いと思ったのは、問題の答えが分からない時、解答者は
  • スタジオ内の3人の「先生」の討論を参考にすることができる。
  • 知人に電話をかけて制限時間内に答えを尋ねることができる。
  • スタジオ内の聴衆のアンケートを参考にできる。
という3つのオプションを選択できることだ。もっともどのオプションでもあまり信頼できる情報は得られなかったようだ。

 このクイズ番組でもう一つ興味を引いたのは、解答者が一定回数の連続正答を重ねると、(たぶん)500元から1万元相当の賞品を獲得できることであった(写真3)。この賞品は連続正答回数に応じていて、例えば500元の賞品をゲットした段階で、さらに高額の賞品をめざしてクイズを続行することができる。但し一度でも不正解を出すと失格となり、先にゲットしていた賞品を受け取る権利も失うというルールになっていたようだった。かなり「やらせ」もあると思うが、どの解答者も高額の賞品を選択し、結果的に途中で失格していた。

 こうした、賞品目当てのクイズ番組が人気を集めるというのも、いかにも今の中国らしいところかと思った。

 これより前、カシュガルに着いた日の午後に「同一首歌2000大歌会」という番組も見た(写真9)。内容はラブソング主体の歌番組。なぜか日本人からは唯一人、西条(城だったか?)秀樹が登場して「ローラ」を絶唱していた。 こういう歌が放映されるのも、北京放送から「東方紅」や軍歌ばかりが流されていた時代に中学生であった私としては驚嘆に値する変化であった。

 北京を離れる前に見た番組の中に、高齢者向けの「生きがい」番組があった(写真10〜11)。高齢者が自分の体験を語ったり、大学の先生のような人が「他人の幸福と比較してはならない」といったアドバイスをしたり、そして最後は老夫婦が「♪我們両个思愛比海深」、「♪我愛他来他也愛我...」といった歌詞で合唱をして幕を閉じた。

 前回、ウルムチ〜北京の感想を記した時に「.....貧富の差が拡大しているものの、中国の経済が確実に発展していることは確かである。21世紀の遅くない時期に、その経済力は日本を凌ぎ、日本中心のアジア経済は終わりを告げるかもしれない。」と記してはみたが、漢族の一人っ子政策がもたらす高齢者比率の増加は、21世紀の遅くない時期に日本以上に深刻な問題を引き起こすかもしれないとふと思った。

 余談だが、北京のホテルではNHKの衛星放送をそっくりそのままキャッチしていた。ちょうど大河ドラマ「葵徳川三代」で家康が亡くなるところをやっていたが、これは見ないほうがよかった。これでは日本のビジネスホテルに居るのと変わらない。一日早く日本に帰国した気分で旅情がすっかり失われてしまった。
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