じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Y.Hasegawa


7月のインデックスへ戻る
最新版へ戻る
[今日の写真] ベランダのロベヤシ(フェニックス・ロベリニィ)が花を付け始めた。一昨年の秋に、500円の処分品で買ったもの。




7月9日(日)

【思ったこと】
_00709(日)[教育]最近の大学教育論議でおもふこと(23)目標見えぬ大学教育?(その1)

 東京八王子市の大学セミナー・ハウスで開催された1泊2日の第37回大学教員懇談会「目標見えぬ大学教育-----少子化・大衆化時代の中で-------」に、岡大のFD専門委員として参加した。講師や運営委員を含めると100名以上の参加があり、大盛況であった。

 懇談会では、まず、有馬朗人・参院議員(元東大総長、元文部大臣)による「教養教育の再建」という基調講演が1時間半にわたり行われた。ついで、4名の講師から35分ずつの発表、夕食後は、講師の先生を囲んで分科会、翌日は各分科会からの報告と総括討論という盛りだくさんの内容。時間的には通常の学会年次総会と大して変わらなかったのだが、有馬先生やICU学長、私が学生の頃に教わったこともある名誉教授など偉い先生との名刺交換などもあってすっかりくたびれた。以下、数回にわたって、この懇談会に参加した感想や私なりに考えたことをまとめてみたいと思う。

 1回目の今日は、有馬先生の「教養教育の再建」について。有馬先生は、まず自分は評価主義者であることを強く強調された。国立大学が国税をもらい授業料を徴収して運営されている以上、評価を受け、その結果を公開するのは当然のことという論法だ。そのあと、メインテーマに入り、まず、戦後、われわれ(who?)は教養部に関して2回の失敗をしたというお話をされた。

 1回目は1949年新制大学発足時の失敗。本来、教員養成を目的としていた師範学校など、目的の違うもの、レベル(有馬先生は「レヴェル」と表記されていた)の違うものを研究中心の総合大学にまとめてしまったところに失敗があったという。

 当時はまた高校進学率が低く、大学で改めて復習をする必要は無かった。にも関わらず、教養部では、物理、化学、生物、あるいは歴史、地理などについて、高校時代の復習のような内容の授業が行われ学生からは不満が出ていた。しかし大学進学率が20%を超えた頃から少しずつ入学者のレベルが変わってきたという。

 2回目の失敗は、1991年大綱化の実現時の問題である。平成3年2月の大学審議会答申では一般教育の重要性が強調されていたのだが、実際には、教養部が廃止され、教養部のポストが専門に振り返られるような現象が起こってきた。

 そして、現在、進学者数は平成3年の206万人から151万人に、そして将来120万人へと減少という現実に直面している。

 こうした現実の中で有馬先生が強調されたのは、
  • 大学入試は多科目にせよ。工学部電気電子学科の学生が元素の数を知らないようでは困る。少数科目入試は高校教育を破壊する
  • アメリカではなぜliberal arts and science なのか
  • 日本の中学生の数学や理科の習得レベルは世界的に見てずっと上位をキープしている。但し「数学や理科が好きか嫌いか」と質問した場合には「好き」の比率は最低レベルにある。
  • アメリカ型の特長は、学生の能力の散布度が大きいこと。日本もいずれアメリカ型に成らざるを得ない。
  • このほか
    • セメスター制からクォーター制に切替え、このうちの夏休みは社会人向けの授業も開講。
    • 小人数クラス
    • きめ細かい教育(例えばリポートを採点したら必ず返却)
    • 主専攻と副専攻
    • 理系文系それぞれの科目をきっちり学ばせる
    • 外国人教員を日本人と同待遇で、もっと受け入れること。例えば、1/3〜1/5の比率で。この場合の外国人は、アジア系を含む。
    • 多様性重視型教育と画一志向の教育どちらも必要
    といった点が強調された。


 講演後の質疑の中で、私も一言:
講座費削減とそれに伴う科研費取得、研究業績重視の流れの中で研究活動への専念が強く求められており、大学院担当教員に対しては俸給加算もある。これに対して、教養科目担当は、いわば全学出動の中でノルマ化、いくら熱心に教育活動に従事しても、いくら教養科目をたくさん教えても何の配慮もされない。教育の基本が教えることの喜び、学生が育つことへの喜びにあることは当然としても、一人の人間の努力は時間に制約を受けており、このような状況のもとでは大学教員はどうしても「研究重視、教育は片手間」と成らざるを得ない。教育業績評価をきっちり行うことを前提として、もっと教育活動への努力が報われるように行政的な対応をお願いしたい
と申し上げたところ、「それはよい質問だ」とお褒めの言葉をいただいた。ぜひ文部行政の中で活かしてもらいたいと思う。

 時間が無くなったので、明日以降に続く。
【ちょっと思ったこと】

大学セミナーハウス
 八王子のセミナーハウスは20数年前、大学院生の頃に「人間はどこまで機械か」というセミナー参加のために一度訪れたことがあった。当時は敷地内の各所から雪をかぶった富士山や丹沢山系が見渡せたものだが、今回は、茂みの間からやっとこさ覗ける程度だった。それだけ木が成長したということだろう。

 セミナーハウスの最寄りの停留所「野猿峠」というのは、もともと、高幡不動から平山城址を通って野猿峠に抜けるハイキングコースの終着点になっており、小学生の頃に歩いた記憶がある。コースの横では多摩動物公園のアフリカ園が造成中、その後も各所で団地の造成が続いており、自然破壊の現実を強く焼き付けられたものであった。その当時から言えばかれこれ40年も経過したことになる。

 セミナーハウス敷地内は未だ自然が残されており、雨後だったこともあって、各所にキノコが生えていた。特に、大きなベニテングタケの群生が目を引いた。
【今日の畑仕事】

出張からの帰着日のため何もできず。
【スクラップブック】

  • ドイツのハノーバー万博。自然との共生をテーマにするが入場者増えず、大幅赤字。