じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Y.Hasegawa


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[今日の写真] 春車菊。私が岡山に転任してきた10年前にはすでにこの近辺で野生化していた。今年は、自生地が文化科学研究科棟新設工事の残土置き場になったため面積は大幅に縮小したが、文学部中庭でこのように咲いている。繁殖力はすこぶる旺盛。芝刈り機で刈り取られても根が残る。




7月2日(日)

【思ったこと】
_00702(日)[心理]鑑別所で虫歯を治す?

 この日記でもたびたびリンクしているように、私は、この日記中心の私設サイトとは別に、大学の公用HPを開設している。その中で特に更新頻度が多いページの1つに、「長谷川ゼミの部屋」というゼミ専用のページがある。ここでは、ゼミ構成員が、毎週、自分の読んだ文献のリビューをしたり、卒論等の進捗状況を報告することになっている。今年は、少年犯罪が大きく取り上げられてきたせいだろうか、非行をテーマに選ぶ学生が例年になく多い。

 こうした各学生の発表を通じて、私も、間接的ではあるが、犯罪・非行心理関係の現状をいくつか知ることができた。しかし、これまでに学生から紹介された研究論文を見る限りでは、なるほどそうだったのかと思わせるようなものが少ない。逆に、そのようなアプローチで大丈夫なんだろうか、と甚だ心許なく感じることが多い。

 たとえば強制わいせつで保護観察処分になった少年に対する処遇の経過を報告した論文があった。その中では、家族関係の歪みと少年自身の人格発達の未熟さに焦点を当てて、心理治療的な関わりをもったと記されている。論文の目的は家庭裁判所調査官と鑑別所技官による連携の意義を強調するところにあったのだが、それはそれとして、原因を家族関係の歪みや人格発達の未熟さに求め、芸術療法ないしは作業療法的な関わりをもつという処遇が、元の強制わいせつ行為の再発防止に本当につながるのかどうかということになるとちょっと首を傾げたくなる。

 何らかの非行を行う少年は家族関係や人格発達に何らかの問題があるに違いない、と考えることは常識的に受け入れられやすい。それだけに、実証性に問題があっても見過ごされやすいところがある。実際にはそれが原因で強制わいせつに及んだという因果関係は全く実証されていないのである。とすれば、極端な言い方をすれば、
非行少年にいろいろな検査を実施したところ虫歯が発見された。そこで技官が虫歯の治療にあたり、めでたく完治した。
という報告をしているのと何ら変わりないことになってしまう。

 似たような問題点は別の論文にもあった。そのなかでは、ある少年院でのアンケートによれば、入所者の中で「いじめ・いじめられ体験」を持つ者は89%に及ぶという結果が引用されていた。ここでも、「いじめ・いじめられ体験」が非行に結びつきやすいと考えることは常識的に受け入れやすい。しかし、同じアンケートを非入所者に行っても同じ比率になるかもしれない。つまり、入所者の中で「いじめ・いじめられ体験」を持つ者は89%という部分は、虫歯にかかった体験を持つ者は89%と置きかえても何ら変わらない可能性がある。

 それから、非行少年の自己呈示行動の特徴をさぐった別の論文によれば、
  1. 一般の少年に比べて非行少年は、自分の名声を保つために乱暴に振る舞ったり、出し抜けな態度をとりやすい。
  2. 一般の少年に比べて非行少年は、強くて攻撃的な自己イメージをもつことを好む。
  3. 一般の少年に比べて非行少年は、仲間が自分に対して持つ印象をコントロールしたがる。
とあるが、非行少年にあらずとも、似たような行為を行う人は皆無とは言えまい。「乱暴に振る舞う」以外の部分だったら、ネット界でも似たようなことをする人がいるのでは? ちなみに発表した学生も、自己呈示行動と非行を結びつける点には疑問を感じており、「自己呈示傾向を有するのは「ヤンキー」、「不良」であって、非行少年全般にこの結果があてはまるとは限らない。 」と批評している。

 もうひとつ、これはゼミとは無関係の、だいぶ昔の話題になるが、連休中に起こったバスジャック事件をめぐる識者の発言(5/16の朝日新聞記事)にも首をかしげたくなるものがあった。それは
  • 精神分析の分野では一般に、刃物や銃や『父性の象徴』『強さへのあこがれ』とされる[吉中・広島大助教授]
  • ドライブ→親に守られたい[記事の見出し]
  • ドライブは少年の人生の中で、唯一、楽しい時間だったのかもしれない。親子関係を示す一つの側面と言える。自己を確立するこの年ごろには、親離れの苦しみがあり、かっとうがある[なだいなだ氏]
という部分。
  • 刃物の収集癖には『父性の象徴』や『強さへのあこがれ』があったのかもしれないが、刃物を脅迫や殺害の手段に使うという行為まで説明できるかどうかは別問題。単に入手可能な「武器」がそれしかなかったためかもしれない。
  • ドライブについても、「親に守られたい」(同じ記事の見出し)からではなく単に遠くへ行きたくでドライブに行っただけなのかもしれない。JR線を利用した一人旅が苦手であったというなら、親子関係の歪みを問題にせざるをえないが、安易な納得は禁物だ。

     もとの話に戻るが、関連施設への入所とか保護観察処分というのは、問題行動を改善し現実への適応を促すための最善の処遇であるとは限らない。純粋に本人の問題行動の改善だけを目的とするならば、施設に収容し現実との関わりから隔離することは、逆に適応を遅らせる恐れがある。もっとも、非行や犯罪を犯した少年をそのまま野放し状態にすることは社会的には許容されない。懲罰的な意味合いを込めて、一定期間隔離し、行動を制約することもやむを得ないところだろう。要は、施設から離れたあとの復帰に対するサポート体制を充実させることにあるのだろう。

     そんななか、ゼミではつぎのような主張も紹介されていたのはせめてもの救いであるように感じた。
    • 「自分自身で何かをやらせる→勇気づけ・ほめる→成就感を味あわせる→自分に自身を持たせる」などという経験を通して、自己成就感を獲得させ、それを伸ばしてやることが必要である。
    • 「人との関係、支えられて支えてという輪の中でのみ、人間は変わりうるものだと思う...
【新しく知ったこと】

投票用紙のリサイクル

 先日の総選挙の際の投票用紙について、投票に使われた用紙や棄権のために使われなかった用紙がどのように処理されるのか疑問に思っていた。7/3朝のNHKニュースによれば、これまでは焼却処分されることが多かったが、一部の自治体では溶かしてプラスティック製品への再利用をはかる取り組みがなされているという。東京都の場合、これによって20万個のプラスティック製品が作られるという。今回からは、用紙を束ねる輪ゴム等も同じ原料で作られ、リサイクルにあたっていちいち輪ゴムを外す手間が省けるようになったとか。

 なお、投票に使われた用紙は、議員の任期中は保管されなければならないことになっているという。今回の再利用分は、前回の総選挙で使われた用紙と、棄権で使われなかった用紙ということになるのだろう。
【今日の畑仕事】

 タマネギ収穫終了。ミニトマト、インゲン、ピーマン、ジャガイモ、ナスを収穫。サツマイモの刺し芽。
【スクラップブック】