5月15日(月)
【思ったこと】 _00515(月)[一般]ディベートを読み解く(8):「特別なリスクの証拠は無い」と「危険性は否定できない」
5/12の朝日新聞文化欄で池内了・名古屋大教授が「安全は証明できない:危険を調べ尽くす努力を」と書いておられた。これは4月上旬、米国科学アカデミーが
現在のところ、害虫に耐性を持つよう遺伝子組み換えされた作物が、健康や環境へ特にリスクを及ぼすという証拠は存在しない
とする報告書を発表したことに対する感想を述べたもの。この報告書では「特別なリスクの証拠がない」と言っているにもかかわらず、ネイチャーの見出しでは
米国アカデミーの研究によって、遺伝子組み換え食物が安全(セーフ)であることが分かった....
というように、「危険の証拠が無い→安全である」という錯覚に陥りがちであることを鋭く指摘している。池内氏は、
- 人間の行為が有限である限り、人工物にはすべて、「安全は証明できない」という問題が潜んでいる
- 実質等価という視点から安全を強調するむきもある
- 欧州や日本では「安全が証明されていない」として拒否する雰囲気が強いが安全は証明できない。
- とことん実験して危険が無いと証明できる範囲を拡大することに努力すべきだ。
というように結んでいた。
一方、5/14の朝日新聞には、携帯電話の発する電磁波の人体への影響を調査した報告書が紹介されていた。これは英国政府がタイサイド大学病院・スチュワート院長を班長とする研究グループに委託したの報告書が紹介されていた。それによれば、
- 電磁波がもたらした可能性のある、わずかな生体の変化が認められた。だが病気に結びつくものではない
- 人体に悪影響を及ぼす明確な証拠はなかったが子どもへの影響は否定できない
として予防的な対応を提言したという。
以上2つの議論の中に現れてくる典型的な主張は
- 危険性を強調する立場
- 危険性を否定、もしくは現段階では無視してもかまわないとする立場
- 特別なリスクの証拠が無い
- 検討するに値するだけの緊急性が見あたらない
という形をとることになるようだ。もともと経験科学の世界では1つの実験や調査だけで断定的な結論を下すことはできない。そこでたたかわされる主張には、統計的な推論で起こりうる2つの過誤にも似通ったところがある(99年11月8日の日記参照)。すなわち、
- 本当は関係が無いことを関係ありと結論してしまうエラーと、
- 本当は関係があるのに無いと結論してしまうエラー。
これは危険性に関する議論について言えば
- 本当は安全であるのに危険であると結論してしまうエラーと、
- 本当は危険であるのに安全であると結論してしまうエラー。
ということになる。どちらのエラーを少な目に設定するかは、
- それが危険であった場合、どの程度重大な被害が想定されるか。これが最優先の課題。
- それを危険であると誤認した場合、どの程度の経済的損失が想定されるか。
- 実際にどの程度使用されどういう問題点が起こっているか、という実践的経験的な情報
を考慮して判断される。たとえば、
- 命綱の安全性を議論する時には、「本当は安全であるのに危険であると結論してしまう」エラーはあっても構わない。とにかく「本当は危険であるのに安全であると結論してしまう」リスクを最小限に押さえる検査が必要。
- 食料品店で現実に食中毒が発生した場合、「特別なリスクの証拠がない」との理由だけで残りの商品を売ることはできない。
最初に挙げた遺伝子組み換え作物の安全性の場合には、池内氏が主張されているような「危険が無いと証明される範囲を拡大する努力」のほか、その作物を導入することによって環境に有害な農薬を減らすことができるのかどうか、といった総合的な判断も求められるであろう。
いずれにせよ、危険性、安全性をめぐるディベートでは、両派が自説に有利な証拠を出し合うだけでは不毛な水掛け論に終わってしまう。想定される危険の深刻さ、緊急性、総合的な社会的要請(ニーズ)を念頭にいれて議論をたたかわせることが大切かと思う。
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【ちょっと思ったこと】
- 組長も楽ではない
アパート住人のくじ引きにより、今年度前期は我が家が町内会の組長を引き受けている。今日の夜は妻が町内会費を集めに各戸を回ってきた。大部分の家は協力的であるが、単身赴任者も多く、必ずしも理解を得られていない場合がある。ある家では
あなたは誰ですか。私はそんなもの払ったことがありません。
と言われたとか。別の家ではおじさんが下着姿で出てきて、どうぞ中へと言ったそうだが、さすがに妻は断ったとか。
町内会の組長は毎月2回ほど夜遅くまで集まりがあるほか、町内運動会、水神祭などの準備にも駆り出される。運動会は子どもたちには人気があるけれど、大人で出たがる人は滅多にいない。私はどうやら、ラムネ飲み競走に出場させられそう。以前に町内会幹事を引き受けた時は、70m競走(成人35歳以上)に出場させられたが、残念ながら最下位に終わった。ラムネ飲みぐらいならまだ負けるもんか。
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【今日の畑仕事】
雨のため一度も立ち寄れず。
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【執筆開始三周年記念クイズ正解(2)】
本日は、三周年記念クイズの2枚目の写真。じつはこの写真は一度も日記にアップしたことが無かった。となると推理するしかあるまい。ヒントとして、いずれも私がこの一年以内に訪れた場所です。となっていること、新緑の季節であることから、連休中に訪れた唯一の場所である、北九州市の響灘緑地であることが容易に推理できる。
ちなみに、湖の向こうにかすんでいる山は皿倉山。こんな大都市にも、アングルによってはアマゾン奥地か西表島を連想させるような風景があったという意外性を強調した写真のつもりです。で、当然のことながら正解者は1名もおられませんでした。
誤答としては、水郷琵琶湖八幡、小豆島、吉野川など。
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【スクラップブック】
- 森首相は5/15夜に行われた神道政治連盟の講演で「日本は天皇中心の神の国」であると発言。
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