じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Y.Hasegawa

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[今日の写真] 桃の実3兄弟。農学部農場にて。袋が被せられていないので熟していく様子を毎日観察することができる。


7月8日(木)


990708(木)[一般]やる気や意欲を測る入試と言うが

 7/9朝のNHKニュース(ローカル)で、「AO入試」というのが話題になっていた。AO入試というのは、教科の試験を課さずに面接で志望分野での「やる気」や「意欲の強さ」を判断して入学を許可するもので、日本では慶應大で初めて実施、その後、一部の国立大でも取り入れられているというが、推薦入試とはどう違うのだろうか。

 少子化が進むなかで、こうした多様な入試形態はこれからも取り入れられていくことになるのだろう。確かに、単純にセンター試験の合計点だけで合否を決めていたのでは、大学によっては第一志望を不合格になったような学生ばかりが無気力のままに入学してくる恐れがある。多少成績は悪くても、とにかくその大学を第一志望としそれなりの目的をもって入ってくる学生のほうが歓迎されるのは間違いない。

 しかし、そういった入試で本当に「やる気」とか「意欲」が測定できるのかとなれば、はなはだ疑問。この日記でも何度か書いているように、「やる気」とか「意欲」というのは、その課題に取り組むという行動に適度な大きさの結果が確実に随伴するなかで形成されていくものである。その個人の「こころ」の中に最初から潜んでいるものではない。

 また、入試の時点で本当にやる気があるのなら、志望分野に関連した科目はそこそこ好成績をあげているはず。となれば、「やる気」や「意欲」を口答で聴取しなくても、関連した科目についての出題方式・内容を工夫し、受験テクニックを身につけただけでは決して解答できないような問題を出題すれば済むことである。

 例えば、数学科に入学を希望する者が本当に「やる気」があるのなら、高校時代から数学のいろいろな定理の証明にチャレンジしていたはずである。短時間で緻密な計算を要求するような問題は解けないかもしれないが、数学オリンピックのような形で2日以上にわたって時間をかけて問題に取り組ませれば、何かしら「やる気」の痕跡のようなものが反映されるはずである。数学の問題を一切出さずに「あなたはどれだけやる気がありますか」とか「将来数学の先生になりたいですか」というようなことを聞いたって分かるはずがない。国語も英語も同様。国語に意欲のある受験生が文学作品をちゃんと解釈できないはずはないし、英語に意欲のある受験生が英文を読めないというのはおかしい。筆記による学力入学試験というのも、出題内容さえ工夫すれば、それ自体でちゃんと「やる気」や「意欲」を測れる方法になりうるはずだ。

 「AO入試」については誤解があるかもしれないが、従来の推薦入試や高校までの「専願」制度などと一緒で、ホンネとしては掛け持ち受験で他校に流れてしまう受験生を自分のところの引き留めようという意図があるような気もする。それはそれでやむを得ないとは思うけれど、心理学の立場から言えば、「やる気」とか「意欲」が入学者確保のための生き残りの方便に用いられないように願いたいものである。

<7/9追記>gooで検索したところ、AO入試について240件もがヒット。いくつか引用すると次のとおり。「意欲」や「やる気」を測るというよりも、大学と受験生との「お見合い」によりお互いの相性を探る方策であるような印象を受けた。
  • 国公立大学のAO入試情報
  • 産能大学
    AO(アドミッションズ・オフィス)入試での評価の対象は、本人の意欲と情熱。人物そのものを評価する面接、高校でどのくらい学習に打ち込んできたかの充実度が合格のポイントとなります。
  • 東海大学福岡短期大学の入試要項内のAO入試って何?[PDF文書]
    【PDF文書によれば、「一般入試・得意科目自由選択入試」は「学力に基づく選考」、推薦入試は「総合力に基づく選考」、「AO入試」は「明確な志望動機、学科コースへの目的意識などに基づく選考」であるであると定義づけされている。】

  • 中部学院大学短期大学部
    AO入試は、従来の入試とは違います。 従来の入試では評価できな かった受験生の意欲や適性を複数回 数の面談等により、本学と受験生が相互理解を深め、出願許可へと進めていく制度です。
  • 中日新聞記事
    従来のペーパーテストを改め、受験生の個性や適性、意欲などを評価して選抜するAO(アドミッション・オフィス)入試を導入する大学が増える中、名古屋学院大(瀬戸市上品野町)が十日までに、今年から受験生を夏休みに体験入学させて学習意欲などを基準に選抜したうえで、面接して合否を決めるユニークなAO入試を導入することを決めた。
【ちょっと思ったこと】
  •  文部省は8日、大学と大学院の受験・進学資格を改める方針を決めたという。大学については、従来から議論になっていた外国人学校卒業生に大検受験資格を与える形で門戸を広げる内容となっている点が注目されるが、もう1つ、大学院において22歳以上に達していれば短大や専門学校を卒業しているだけでも入学できる可能性が与えられた点が注目される。

     某文学部でも現在、こうした動きに対応する形で大学院改革の議論が進んでいる。詳しい内容は機密事項なのでここには書けないけれど、社会人が仕事を続けながら職場や職歴の特性を活かして研究を続けたり、別の学部を卒業した者がその分野で身につけた知識・技能を活かして文学研究科の大学院に進む機会を増やす方向で改革が行われるよう働きかけていきたいと思っている。その一方、大学院が大卒者のための単なるカルチャーセンターや市民大学講座のようにならないよう、教育水準を一定以上に保つ配慮も必要である(←実名日記では、この程度までしか書けないのが辛いところだ)。
【新しく知ったこと】
【生活記録】
【今日の畑作業】
  • ミニトマトいっぱい収穫。ニンジンの畑に筋をつけ、化成肥料を入れる。
【スクラップブック(翌日朝まで、“ ”部分は原文そのまま。他は長谷川による要約。)】