じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Y.Hasegawa

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[今日の写真] ムシトリナデシコ(虫取撫子)。ハエトリナデシコあるいは小町草とも言う。アスファルトの堅い道路をを突き破って根をおろしているかのような錯覚を起こす。↓で自殺の話題をとりあげているが、このようにたくましく生きる花もあるということか。


7月5日(月)


990705(月)[一般]自殺激増はホンマに不況やリストラのせいなのか

 警察庁の7月1日の発表によれば、昨年1年間の自殺者は前年より8472人(+35%)多い3万2863人で過去最多になったという。その原因として、新聞各紙は、「不況反映」や「経済苦」、世代的にも4、50代の男性の自殺が増えたことを挙げているが、これは正しい分析と言えるだろうか。7月2日の大学院の授業で各新聞社のHPを閲覧しながらこの問題をとりあげる機会があったので、ここで考えをまとめておきたいと思う。

 まず、当日の各新聞社のHPの見出しを挙げると次のようになる(順序はたまたまその時に閲覧した順番であって特に意味はない)。
  • [産経]自殺者3万人超す 目立つ経済苦
  • [読売]経済・生活悩んだ自殺が7割増/少年の自殺動機、学校問題目立つ
  • [日経]経済・生活苦の自殺7割増 警察庁昨年まとめ
  • [朝日]不況反映の自殺、70%増 昨年中の「自殺者白書」
  • [毎日]自殺激増:史上初めて3万人を突破 経済生活問題の自殺が急増
  • このほか7/5の朝日新聞社説で「これは緊急事態だ」として中高年の自殺の話題をとりあげていた。
 ここにあげた各社の見出しはいずれも経済苦による自殺が急増したことを強調しているが、実際のところはどうなのだろう。事実を確認してみよう。
  1. 昨年1年間の自殺者は前年より8472人(+35%)多い3万2863人。内訳は男2万3013人(+40.2%)、女9850人(+23.5%)。
  2. 原因・動機別では、1位:病苦1万1449人(全体の35.0%)、2位:経済生活問題6058人(全体の18.4%)、3位:精神障害5270人。
  3. 経済生活問題を抱えた自殺者は前年比70.4%(2502人)の増加。
  4. 年齢別では、65歳以上8211人、50代7899人(うち男性6103人)、40代5359人(うち男性4187人)、30代3614人、60〜64歳3283人(うち男性2379人)。40〜64歳の男性合計は1万2669人で全体の38.6%。
  5. 人口10万人当たりの自殺率は、厚生省調査と合わせて過去最高だった1958年の25.7人を上回る26.0人。
 このように数字をあげていくと、確かに経済苦による自殺が増えていることは間違いないが、その増加分は2502人。全体の増加分8472人のうちの29.5%分しか説明できていないことが分かる。残りの5970人分の増加の原因にふれずに、経済苦による自殺分だけを強調するような取り上げ方をするのは少々問題ではないだろうか。

 もうひとつ、中高年の男性の自殺者が増えたことも強調されているけれど、じつは世代別で一番多いのは65歳以上で8211人。今回閲覧した限りでは、こうした高齢者の自殺を問題にしている記事は見あたらなかった。

 では何が原因なのか。手元にある数字だけからは何とも判断できないけれど、いずれにせよ病苦による自殺35%の内訳をもう少しくわしく調べてみる必要があるだろう。これがもし、介護を受けることで周囲に迷惑をかけることを気遣ったための自殺によるものであるならば、今後の介護制度や高齢者施設のあり方についてもっと考えていく必要がある。また、病気そのものの苦痛が原因であるというならば、尊厳死問題について考えていく必要があるだろう。

 このほか新聞記事の記述にはいくつか問題となる記述があった。大学院の授業の時に出された意見を含めて箇条書きにしておく。
  • 前年からの増加を比率だけで比較するのは問題。例えば、前年2万人が2万2000人となれば10%増、1000人が1400人となれば40%の増加。比率だけを比較すれば後者のほうが大幅に増えたような印象を与えるが、実数で比較すれば2000人増えたことのほうが遙かに深刻。もともと比率による比較というのは分母に共通性がなければ殆ど無意味。慎重にとりあげてもらいたいものだ。
  • 産経新聞の記事では、「社会的な圧力が強く加わっている階層は抑うつ状態に陥りやすく、自殺者が多い。...」というような小田晋・国際医療福祉大教授のコメントがつけられていたが、そんなに単純に説明できるものだろうか。
  • 読売新聞では「少年の自殺動機、学校問題目立つ」という見出しの別記事で「警察庁が発表した自殺統計では少年の自殺も目立っている。」と述べているが、実数は720人にすぎず、65歳以上の8211人の一割にも満たない。また「その自殺の動機で最も多いのが『学校問題』」としているが、実際の比率は、20%(9歳以下)から28%(10〜14歳)にすぎない。これをもって「学校問題目立つ」と要約してしまってよいものかどうかはなはだ疑問だ。事あるごとに学校教育の問題と結びつけて持論を展開しようという意図でもあるのだろうか。
  • 「いじめ」が原因の自殺などもショッキングな話題だけに大きく取り上げられることがあるけれど、今回発表で警察が「いじめ」と断定したのは2件のみ。「いじめ」自体が深刻な問題であることは言うまでもないが、自殺に結びつくケースは意外に少ないとも言える。
  • 朝日新聞の記事では、自殺者全体の推移を棒グラフ(3万5000人を最大値とする左目盛り)、生活・経済問題を理由に自殺した人の推移を折れ線グラフ(6000人を最大値とする右目盛り)として同じグラフの中で表示していたが、これは生活・経済問題だけが増加の原因になっているような錯覚を起こす。この点では、全体数の推移とそこに占める生活・経済問題による自殺者の推移を同じ目盛りの棒グラフで表した毎日新聞記事のほうが、事実が正確に把握できるような印象を受けた。
 この日記でも何度も主張しているように、意外なできごとや急激な変化ばかりが社会現象の本質を表すとは限らない。また現象というのは1つや2つの原因だけで生じるものでは決してない。どのようなケースでも、複雑な事態を少数の理由をあげるだけで納得して思考停止してしまうような風潮は避けなければならない。
【ちょっと思ったこと】
【新しく知ったこと】
【生活記録】
【今日の畑作業】
  • トマト大2個、ミニトマト、オクラを収穫。
【スクラップブック(翌日朝まで、“ ”部分は原文そのまま。他は長谷川による要約。)】