【連載】チコちゃんに叱られる! なぜ大人になると苦い物が好きになる?
12月5日(金)に初回放送された表記の番組についての感想・考察。この日は、
- なぜ大人になると苦い物が好きになる?
- なぜ電車の音は「ガタンゴトン」?
- 泥仕合ってなに?
- 【ひだまりの縁側で…】しかるとおこるはどっちがやさしいイメージ?
という4つの話題が取り上げられた。本日はこのうちの1.について考察する。人間の味覚を研究している釜阪寛さん(甲子園大学)&ナレーションによる解説は以下の通り【要約・改変あり】。
- 大人になると苦いものが好きになるのは「命の危険がない」と心と体がわかったから。
- そもそも人間の舌は、「苦いもの・苦味=危険なもの」として認識している。
- 人間の舌は甘味、塩味、うま味、苦味、酸味という5つの味を感知できる。この味覚は「摂取してよいか?」を判断するセンサーになっている。
- 以下の3つの味は生きるために必要なものの手がかりになるので本能的に「おいしいもの」と認識される。
- 甘味を感じる糖分は脳・筋肉の活動のため
- うま味を感じるたんぱく質は筋肉を作るため
- 塩味を感じる塩分は体内の水分調整などに重要
- いっぽう、苦味と酸味を感じると人はそれらを「命が脅される可能性がある」として排除しようとする。
- 苦味は食べ物に毒がある?
- 酸味は食べ物が腐っている?
そのため「摂取してよいか?」を舌で判断している。
- 多くの子どもたちは「苦いもの=まずい」と脳が判断しているので苦いものは嫌いな食べ物になる。
- 苦いものを摂取し続けると、しだいに「体に異変が無い=安全な食べ物」と判断されるようになり、子どもの頃嫌いだった苦い野菜を久々に食べると平気になる。人は知らず知らずのうちに苦味を経験&蓄積し苦いものを克服できるようになる。
ということで放送では、ナダルさんに協力してもらい、センブリ茶を3か月飲み続けたら好きになるかどうかという実験が行われた。
- 実験開始前、センブリ茶の好き嫌いを11段階(0:大嫌い、5:普通、10:大好き)で評定してもらったところ、ナダルさんは「0」(=大嫌い)と評定した。
- 毎日飲み続けることで「センブリ茶の苦味は毒ではない」ということを体に分からせようとした。しかし21日目になっても馴れなかった。
- そこで釜阪さん直伝の方法として、
- センブリ茶の粉末をナダルさんの好物(ハンバーグソースなど)に混ぜて摂取する。
- 暑い時に走ることで水分を必要としている状態を作りその時にセンブリ茶を一気に飲む。
- ポジティブなイメージを積み重ねる。まずくても美味しそうな表情をつくる。
を実践。しかし50日経過の時点でのセンブリ茶に対するナダルさんの評定は「0.5」であり、実験開始時の「0」と比べて殆ど増加しなかった。
- しかし90日経過時のナダルさんの評定は「1」であり、わずかな上昇にとどまった。【主観や実験者に対する配慮をせず、正直に回答されたのはご立派。そもそもこのような質問紙評定で効果が検証できるとは思えないが。】
ここからは私の感想・考察を述べる。
まずこの放送は12月5日が初回放送日となっていたが、以前にも放送されていたような既視感があった。さっそく過去日記を検索したところ、
などであばれる君がセンブリ茶を飲んでいるシーンがあったことが確認できた。このほか、チコちゃん以外の雑学系番組でも取り上げられた記憶があったように記憶している。
このWeb日記で何度か言及しているように、私は大学院生の頃には食物(味覚)の好き嫌いを条件づけによって変容させる実験研究をしていた。日本語の総説&原著論文としては、
- おいしさの起源―学習心理学からの考察―異常行動研究会誌, 1991, 31, 5-13.
- 食物選択における学習の役割., 哺乳類科学, 1982. 22,29-51.
- 食物嫌悪条件づけにおける強化の遅延. 心理学評論, 1981, 24, 255-278.
- ラットの “薬の効果” に及ぼす味覚刺激前提示の効果.動物心理学年報, 1979, 297.101-104.
などがある。その時にまとめた見解からナダルさんの「実験」に関してコメントさせていただくと以下のようになる。
- 毎日センブリ茶を飲むだけ→単純接触により苦味に対する新奇性恐怖が低減。あるいは馴化。苦味に対する嫌悪反応(無条件反応)が生じにくくなる。
- センブリ茶の粉末を好物に混ぜて摂取→センブリ茶の苦味と好物のおいしさ(無条件刺激)を繰り返し対提示することで、センブリ茶の味がおいしいという条件刺激として機能するようになる。
- 暑い時に走ることで水分を必要としている状態を作りその時にセンブリ茶を一気に飲む。→センブリ茶の味の提示後に生理的な回復が伴うことにより、「嗜好条件づけ」が生じた。
- ポジティブなイメージを積み重ねる。→豪華なホテルや絶景が見える場所で食事をすれば、その時に食べたものへの嗜好性が増加することは期待できるが、果たして嫌いな味が好きになるほどの効果があるかどうかは疑問。
次回に続く。
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