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じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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 11月15日(土)、久しぶりに県北の森林公園を訪れた。写真は2本が抱擁しているように見えるブナ。
 この2本は2006年5月22日の日記でも取り上げており、19年半ぶりとなる。豪雪にも耐えて成長を続けているのが羨ましい。
 当時の日記では『夫婦ブナ』と呼んでいたが、森林公園内には他にも『夫婦』と呼ばれるようなブナがあることから、それらと区別するために今回から『ぬくもりブナ』と呼ぶことにしたい。

2025年11月16日(日)



【連載】チコちゃんに叱られる! 「童話や昔話に怖い話が多いのは「怖くないと子孫繁栄に役立たないから」という胡散臭い説明/2週連続で「気をつけよう! 脳と本能、大昔」

 11月14日(金)に初回放送された表記の番組についての感想・考察。この日は、
  1. なんで童話や昔話は怖い話が多いの?
  2. 日本人はなぜ「とろとろ」が好きなの?
  3. 劇場や映画館の座席は赤いのはなぜ?
という3つの話題が取り上げられた。本日はこのうちの1.について考察する。

 放送では、童話や昔話に怖い話が多いのは「怖くないと子孫繁栄に役立たないから」が正解であると説明された。童話や昔話の歴史に詳しい鵜野祐介さん(立命館大学)&ナレーションによる解説は以下の通り【要約・改変あり】。
  1. 童話や昔話がたくさんあるのは、たくさんの教訓が含まれている。
    • 『したきりすずめ』には、思いやりと欲張らないことの大切さという教訓が込められている。
    • ドイツのグリム童話『あかずきん』には警戒心を持ち慎重に行動する大切さという教訓が込められている。
  2. 日本だけではなく世界中の昔話や童話には人生のためになる教訓が込められ現代まで語り継がれている。『三匹のこぶた』は「地道に努力」、『みにくいアヒルの子』は「外見で判断しない」
  3. 人生の教訓を伝えるのになぜ怖い話なのか? それは平凡な出来事だと記憶に残らないから。実際街角で一週間前の夕飯を尋ねても覚えていない人が殆どだが、子どもの頃経験した怖い出来事はすらすら思い出すことができる。
  4. 子どもの頃の怖いという感情は何年経っても記憶に残る。童話や昔話も同じ。子どもの頃に聞いた怖い話は記憶に残りやすいので、その話に含まれている教訓も記憶に残る。
  5. 怖いという感情が記憶に残りやすいのは子孫繁栄に大きく関わっているから。
    • 例えば人間がまだ狩りをしていた頃、森に入ってけものに遭遇したとする。これは命に関わる怖い体験。その場所を忘れてしまったら今度は命が奪われるかもしれない。その場所を覚えていれば生き延びることができて子孫繁栄の確率が上がる。
    • つまり人間は子孫を残すために、本能的に、怖い感情を長期記憶できるように進化した。
    • 人の記憶は恐怖や驚きといった感情が伴うことで記憶をつかさどる大脳辺縁系が反応し長期記憶されやすいことが分かっている。
    • 昔話は1度だけでなく何回か読み聞かせされる。何度も聞かせることでより記憶が定着しやすくなる。
  6. こうして長期記憶された童話や昔話の教訓は生きるために重要な判断材料になる。
  7. つまり童話や昔話に怖い話が多いのは、子孫繁栄に重要な教訓を忘れないようにするためだった。


 ここからは私の感想・考察を述べる。まず11月6日の日記に記したように、チコちゃんの番組では時たま、日常生活で見られる行動現象の原因を、大昔、遺伝、本能に結びつけ、さらに脳科学の専門用語で「権威づけ」する胡散臭い解説が登場することがある。このことから私は、

気をつけよう! 脳と本能、大昔

という標語を提案した。今回も「脳」と「本能」と「大昔」の3点セットが含まれていたのはまことに残念であった。

 今回の、怖い体験が長期記憶に残りやすいと指摘されたこと自体は正しいし、また恐怖体験を記憶しやすい人とすぐに忘れてしまう人では前者のタイプの人のほうが生き残りやすく、結果的に淘汰されたと考えることもまた間違ってはいない。しかし、このことが童話や昔話にあてはまるかどうかはイマイチ納得できないところがある。理由は以下の通り。
  1. 童話や昔話の教訓が現代社会にどこまで適用できるか不明。解説では童話や昔話の教訓を身につけたほうが生き残りやすく子孫繁栄に結びついたと言っていたが、大昔も今も、生存確率を左右するほどの教訓になっているのかは不明。交通事故の防止とか、大地震の際の避難に役立つというなら別だが。
  2. そもそも子どもに読み聞かせるような童話はそんなに怖くない。昔話自体には本当は怖いという話も多数あるが、子ども向けの絵本では大幅に改変されている。
  3. 今回の放送では「怖い」体験の記憶されやすさが取り上げられていたが、怖くはないが「悲しい」体験というのもあるし、「悔しい」という失敗談もある。これらも記憶に残りやすい。


 なお、童話や昔話とはやや異なるが、2024年7月4日に取り上げたように、キャンベルの『モノミス=単一神話論<英雄の旅>』というのもある。

 今回の解説者の鵜野祐介さんは立派な業績をお持ちの方で。教育人類学の権威として知られている。今回の解説はおそらく、チコちゃんの番組の性格上できるだけ面白くすることを狙ったため、地道な研究の階段から足を踏み外してしまったとしか思えない。

次回に続く。