じぶん更新日記

1997年5月6日開設
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 妻の実家のある北九州で見かけるマネキン人形。少しだけ向かって左を(本人は右方向を)向いている。↓の記事参照。もっともこれは、お店の入口が人形の左側にあるためかもしれない。

2025年04月27日(日)




【連載】チコちゃんに叱られる! 「首をかしげるとかわいい」/ベビースキーマ、肖像画の向き

 4月25日(金)に初回放送された表記の番組についての感想・考察。なお、4月21日に記したように、この回は土曜日朝の再放送を含めて、岡山県・広島県では放送されなかった。NHKプラスを使わない限り視聴は不可能。なお私はたまたま妻の実家のある北九州にいたため、いつも通り視聴できた。

 この日に取り上げられたのは以下の3つの話題であった。
  1. 首をかしげるとかわいく見えるのはなぜ?
  2. 暗証番号が4桁なのはなぜ?
  3. 消しゴムが紙のケースに入っているのはなぜ?
 本日はこのうちの1.について考察する。

 放送によれば、首をかしげるとかわいく見えるのは「考え込む赤ちゃんに見えるから」が正解であると説明された。
 放送では、同じ女性がまっすぐ正面を向いた写真と、向かって右側に首を傾けている写真を同時提示し、首を傾けている写真のほうがかわいく見えることを例示された。解説は対人コミュニケーションを研究している塩見昌裕さん(神戸大学)。なお塩見さんの肩書きが「客員教授」となっていたのでネットで検索してみたところ、本業は『株式会社国際電気通信基礎技術研究所 インタラクション科学研究所 室長』、合わせて大阪大学招へい教授と神戸大学客員教授をつとめておられ、「エージェントインタラクションデザイン研究室 室長としてコミュニケーションロボットの研究に従事.コミュニケーションロボット,集団とロボットの相互作用,ソーシャルタッチの研究分野に興味を持つ.」と紹介されていた。塩見さん&ナレーションによる解説は以下の通り【要約・改変あり】。
  1. 首をかしげるとみんなかわいくなれる。理由は2つ。
    • 相手に「考え込んでいる」印象を与える。人は考え込む時に首をかしげて新たな情報を得ようとしている。犬や猫や鳥も同じ行動をとる。正面からではなく、首をかしげることで見方や聞き方を変え、新たな情報を得ようとしている。相手がそのようなしぐさをすると、本能的に放っておけない・助けてあげたいという思いを抱かせ、それが「かわいい」という感情につながる。
    • 首をかしげることは首がすわって間もない赤ちゃんを思い出させる。そのような赤ちゃんをかわいいと感じるのはベビースキーマの効果だと考えられている。一般的な赤ちゃんの顔には「丸い顔」、「広いオデコ」、「大きな目」、「顔のパーツが中心にある」などの特徴がありベビースキーマ【英語では『Cuteness』、中国語では『可愛』、ドイツ語では『Kindchenschema』】と呼ばれている。人間は本能的に可愛いと感じる。赤ちゃんの首をかしげる姿や柔らかい動きにもベビースキーマの効果が表れていると考えられる。
 放送ではさらに、塩見さんから「超かわいく見える首のかしげ方」が伝授された。
  1. 相手から見て右側にかしげる
    塩見さんの「かわいい」の定義は「近づきたい度合い」。塩見さんが200人以上に「かわいさを感じる首の方向」についてアンケートをとったところ、137人が右、40人が左で、多くの人が【向かって】右と答えた。塩見さんによればその理由は多くの人が右利きだから。向かって右に顔をかしげると相手の右手に近づく。つまり触れやすい手に顔が近づくことで「手をさしのべたい」、「さわりたい」という近づきたい度合いが大きくなり、結果として「かわいい」という感情が湧いてくる。
  2. 角度とスピード
    2015年に海外で発表された論文によると、最もかわいいとされる首の角度は20度。また塩見さんがロボットを使って首をかしげるスピードを0.1秒、0.5秒、2秒という3条件で200人以上を対象に調査したところ、0.1秒、0.5秒、2秒が最もかわいいと答えた人の人数はそれぞれ53人、85人、39人であり、0.5秒を最もかわいいと答えた人が多数を占めた。
  3. アゴを引く
    アゴを引くことでベビースキーマ効果がさらに発揮される。アゴを引くと「広いオデコ」「大きな目」「顔のパーツが真ん中寄り」という赤ちゃんのベビースキーマの効果が発揮される。


 ここからは私の感想・考察を述べる。
 まず、首をかしげたほうがかわいく見えるかどうかは、じっさいに実物の顔の映像、アニメ、ロボットなどで条件を変えて比較すれば統計的に実証できる。今回の放送では「塩見さんが200人以上を対象に調査した」と紹介されていたが、せっかく放送で取り上げられるのであるから、もう少し年齢や性別、また可能であれば外国人を対象にもう少しシステマティックに比較をして論文化したものを引用してほしかった。

 「人は考え込む時に首をかしげて新たな情報を得ようとしている。そのようなしぐさをすると、本能的に放っておけない・助けてあげたいという思いを抱かせ、それが「かわいい」という感情につながる。」という説明については、若干の疑問がある。
  • 考え込む仕草がかわいさの原因になるのであれば、「ロダンの考える人」もかわいく見えるはず。また入試会場の受験生たちもみんなかわいく見えているはず。
  • 上記の「本能的に放っておけない・助けてあげたいという思い」は、特別の場面・文脈でなければ生じない。日常会話の最中に相手が首をかしげたり、あるいは首をかしげている写真を見ただけで常にそのような思いを生じることはありえない。例えば放送の終わりに出演者が首をかしげるポーズをとったとしても新たな情報を得ようとしているとは誰も思わないだろう。


 ベビースキーマについてはウィキペディアに解説されているように、コンラート・ツァハリアス・ローレンツが研究の出発点になっている。ローレンツは1973年にノーベル生理学・医学賞を受賞しているがこれは私が学部3回生の時であり、私が専門としていた学習心理にも大きな影響を受けていた。神田の古本屋でたまたまBiological Boundaries of Learningという本(Seligman & Hager, 1972)を見つけたことで研究に没頭するようになった。
 もっともウィキペディアで指摘されているように、いくつかの議論があり、何でもかんでもベビースキーマに結びつけるのは危険であるように思う。

 塩見さんは、右利きの人が相手の場合、向かって右に顔をかしげることは触れやすい手に顔が近づくことになる。これによって、

「手をさしのべたい」、「さわりたい」という近づきたい度合いが大きくなり、結果として「かわいい」という感情が湧いてくる。

と持論を述べておられたが、これまた証拠不足であるように思う。上掲の「200人以上」というような大ざっぱな調査ではなく、年齢・性別などに考慮しつつ右利きと左利きの人をちゃんと集めた上で、

●右利きの人は相手が右に顔をかしげたほうが、また左利きの人は左に顔をかしげたほうが相手がかわいく見える

ということをちゃんと示してもらいたいところだ。

 なお、首を向かって右にかしげるということは、顔の右側をより多く見せるということになる。2018年12月15日の日記などで何度か取り上げているように、肖像画や顔写真の右向き・左向きについては以下のような説があるという。
  • 顔の右半分は左脳の活動を反映しやすい。→顔の右側(肖像画や写真で言えば、向かって右を向いている側)は、論理的、理性的な特徴を表しやすい。
  • 顔の左半分は右脳の活動を反映しやすい。→顔の左側(肖像画や写真で言えば、向かって左を向いている側)は、感情や芸術的活動を反映しやすいので、優しい印象を与える。

 また、このことから、
  • 女性の肖像画は【当時の女性観に基づき】優しさを強調するため、左向きが多い。
  • 学者の肖像画は理性を強調するため、右向きが多い。
といった仮説があるというがイマイチ証拠が足りない。しかし、いずれにせよこれらの説からは、顔を(向かって)左側に傾けたほうが顔の(向かって)右半分が見えやすくなる、つまり当人にとっては右脳が支配しているという顔の左半分がが見えやすくなるため、かわいさと連動する優しさが表れやすいという可能性がある。もっともこの予想は放送とは真逆でありあまりアテにならない。

 次回に続く。