【連載】最近視聴したYouTube動画(27)年金トークの梅子さんに何を話すか(2)生成AIは大学教員を駆逐するか/克服すべき10の地獄
昨日に続いて年金インタビューの話。もし、
●梅子の年金トーク!
からインタビューを受けたらどんなふうに答えるか。突然マイクを向けられてもうろたえないように、あらかじめ考えをまとめておく。但し、「梅子さん」は「桃子さん」に置き換えさせていただいた。
生成AIは大学教員を駆逐するか
- 【桃子さん】若い人たちに向けてメッセージ・アドバイスをいただきたいのですが。
- うーむ。私自身はずっと大学のキャンパス内で仕事をしてきたため、世間知らず。世の中一般について経験談を語ることはできません。ですので、若い人たち、特に高校生の皆さんが大学教員を目ざす場合にどんな苦労があるのか、参考になりそうな話をさせていただければと思います。
- 【桃子さん】そもそも大学教員の数は増え00ていくのでしょうか、それとも減っていくのでしょうか?
- 分野にもよりますが、少子化が進めば閉校に追い込まれる大学もあり、数が減っていくものと思われます。また分野によっては講義や演習はAIで代行できるようになるかもしれません。今でも放送大学の教材のように、収録した画像で0行われる授業があります。生成AIを活用すれば、双方向の授業、つまり先生と学生がやりとりをしながら授業を行うこともできるようになるでしょう。
- 【桃子さん】でもAIでは熱意までは伝わらないのでは?
- 分野にもよると思い0ます。大学の授業というのは、受講生の共感を得るために行われるわけではありません。何かの社会運動の講演会だったらとにかく熱弁をふるって参加者を増やすことが必要でしょうが、大学の講義では、論理的な整合性、体系性が重要です。講義を聴いていくら受講生が感動したとしても中身を理解できていなかったら0000000何の意味もありません。でもって論理的・体系的な授業だったら、雑談ばかりする生身の教授よりも生成AIに担当してもらったほうが理解が進むかもしれません。
- 【桃子さん】生身の人間よりもアバターのほうがオススメということですね。
- 例えば、偉大な哲学者、例えばソクラテスとかプラトンが残した発言録とか書物を生成AIに学習させれば、そうした哲学者のアバターから直接講義を聴けるようになるでしょう。もちろんAIは間違った情報を発することもありうるので、専門0家のチェックは必要ですが。
- 【桃子さん】そうなってくると大学教員は居なくなってしまうのですか?
- いや、研究は必要でしょう。手足を必要とする実験研究はAIにはできないし、またAIの誤りや暴走を防ぐようなチェック機関も必要になりますね。とはいえ、大学教員の役割はいまとはかなり違った形になるでしょう。
大学教員の適性
- 【桃子さん】生成AIの話は別として、とりあえず10年先あたりまでの範囲で、今の高校生・中学生の皆さんが大学教員になるためのメッセージをお願いしたいと思います。まず、大学教員の適性について教えてください。
- 分野にもよると思いますが、何かに熱中し継続して取り組めること、1つでも2つでもいいから秀でた能力があることなどは役に立つかと思います。
その分野に対する興味も重要ではありますが、そもそも学ばなければ興味も湧いてこない。中学生の時に数学に興味を持ったからといって大学数学も同じように興味を持てるかどうかは分からない。なので具体的な興味と志望動機は必ずしも一致しないと思います。
- 【桃子さん】性格面での適性はありますか?
- 民間企業に比べると、職場の人間関係で悩むことは少ないと思います。分野にもよりますが文系の教員であれば、研究室に籠もっていて、授業と会議以外の場では他者と全く顔を合わせなかったとしても業績さえ上げていればやっていけるでしょう。但し、多額の研究費を使ってチームで研究を進めるような場合は協調性が必要になってくるかもしれません。人間相手に研究する場合も同様です。
乗り越える必要がある10の困難
- 【桃子さん】高校を卒業してから大学教員になるまでにはどのような困難がありますか?
- 高校生の皆さんが大学教員として仕事をするためには、少なくとも10の困難を乗り越える必要があるかと思います。少々大げさですが、ここでは困難さを強調するために「10の地獄」と言い換えておきます。ウォーキングが好きな人なら「10の峠」、ゲームが好きな人なら「10のバトル」と言い換えてもよいでしょう。
- 大学入試地獄:
牧野富太郎博士の時代ならともかく、いまの時代、大学教員に入るためにはまず大学入試に合格するための受験地獄を克服しなければなりません。
もっとも、東大や京大などの難関大学で無ければダメというわけではありません。私の所属していた学部の教員の中には、相対的にはそれほど難関でなかった大学を卒業し、大学院から東大や京大に入った人も多数おりました。また、地方の大学院で博士号をとったり、また海外に留学して磨きをかけた人もいます。なので志望校を選ぶ際には、目先の志望校の偏差値がどうだということではなく、大学卒業後の研究者になるための多様な道筋をしっかり押さえておく必要があります。
- 留年地獄:
いまの時期、大学に合格した人たちは周囲から祝福され、新しい生活に胸を膨らませていることと思いますが、大学での4年間は受験勉強時代に比べてそんなに楽ではありません。一部の私立薬科大学での大量留年はよく知られているところですが、理工系の学部などでも2割〜3割ぐらいが留年するところもあると聞いています。文系の学部では海外短期留学のために留年する場合がありそちらのほうはより積極的な留年なので問題ありませんが、理工系のほうは明らかに学力不足という場合が多いようです。
大学入試に合格したというのは懲役4年に処せられたようなもので、そんなにめでたいとは思いませんね。卒業できてから、あるいは国家試験に合格できた後で初めて祝うべきかと思いますね。
- 卒論地獄:
分野にもよりますが、卒論研究で行き詰まるというケースがあります。先生の言われたとおりのテーマで言われたとおりに研究をするという分野ならまだしも、自分でテーマを見つけてそれに適した方法で研究を進めるという主体性が要求される分野もあります。入試も入学後の科目も高得点をとっている優等生のはずなのに、主体的な研究は苦手という学生もいますね。ま、そうならないよう、問題発見能力を高めるための授業も行われているはずなんですが。
- 院入試地獄:
分野にもよりますし、民間企業への就職が売り手市場か買い手市場なのかも影響しますが、一般に院入試は学部入試以上に難関で、それなりの受験勉強が必要になります。私の場合は卒論の提出後、毎日11時間は受験勉強しました。私が受けた年は19人が受験して合格者は2人のみ。形式的な倍率は9.5倍でした。
不幸にして院入試に不合格になった場合は、聴講生とか研究生になって翌年の院入試に備えることになります。なお、最近は10月からの後期入学の制度を設けた大学院もあり、1年に2回受験できる可能性が出てきました。
- 修論地獄:
大学入試合格を「懲役4年」に喩えるならば、院入試合格は「懲役2年」になります。分野によっては修士論文が課せられており、卒論以上に苦労します。
- 博論地獄:
かつては「大学院修士課程」2年と「大学院博士課程」3年に分かれていましたが、私が入学した時は「博士前期課程」と「博士後期課程」になっていました。といっても5年一貫ではなく、後期課程に進む際には選考があります。
最近では「博士後期課程」の3年目に博士論文を提出し「課程博士」を取得するようになったようですが、私が院生だった頃はそんなにすぐには博士号は取得できず、3年目にいったん退学(「単位取得退学」とか「研究指導認定退学」)したあと、研修員として大学に残った上で博士論文を完成させ「論文博士」を取るのが一般的でした。
大学院5年間は奨学金貸与される可能性が高いいっぽう、研修員になると収入はゼロとなります。この時点で大学教員常勤職に採用されれば生活は安定しますが、そうでない場合は非常勤講師などで食いつなぐことになります。このことは、昨日も述べた通りです。
- 公募地獄:
このことも昨日に述べた通りです。私は確か13回応募しました。
あと私の頃の公募は書類提出だけでしたが、最近では最終選考に残ったあと、面接や模擬授業を求められるケースが増えてきたようです。
- 任期地獄:
私の時代は、国立大学にいったん採用されると国家公務員扱いとなり、定年まで終身雇用になっていましたが、最近は、特に若手の採用人事などで「任期あり」という条件がつけられるケースが増えてきました。この任期は延長される場合もありますが、機械的に打ち切られる場合は次の就職先を捜す必要があります。今回の年金トークに関して言えば、任期ありの採用では、厚生年金の手続や最終的な支給額が大きく影響されるのではないかと思います。
- 昇格地獄:
特別なケースを除けば、普通、教授としていきなり採用されることはありません。講師や准教授(私の時代は「助教授」)で採用されたあと、教授への昇格人事が行われることになります。
学部によってはほぼ年功序列的に昇格できる場合もありますが【もちろん業績を示すことが前提】、理系の学部などでは、公募により他の候補者と争う場合があるようです。例えばAさん、Bさん、Cさんがそれぞれ教授、准教授、助教でありAさんが定年退職したとします。そのさい、年功序列ではなく全国規模で教授の採用人事が公募され、Bさんも応募できますが、全く別の大学から応募したDさんが教授に採用されることもあります。また、助教だったCさんが准教授のBさんを差し置いて教授になるという場合もあります。
- 年俸制地獄:
かつて大学教員の給料は、民間企業や公務員と同じように俸給表に基づいて月給&賞与として支給されていました。ところが私が定年退職を迎える数年前からは年俸制が導入され、年俸の額は教員の個人評価によって影響を受けるようになりました。特に重視されつつあるのが、外部からどれだけの研究資金を獲得したかとか、科研費に採択されているのかといった基準です。
今回の年金トークに関して言えば年俸の額が変動することで厚生年金の支給額は大きく影響されるようになりました。
ということで、大学教員は大学入学時から定年退職時まで色々な苦難の克服を迫られることになります。もし誰かから「将来は大学教員になりたいです」と相談を持ちかけられたら、私は「やめておいたほうがいいですよ」と、引き留め役に徹することになるかと思います。うっかりオススメしておいて途中で行き詰まったとしても責任はとれませんし。ま、よほど才能に恵まれた人であれば、上掲の10の地獄など意識せず、自分の望む通りのテーマで研究し、ちゃんとした成果を上げられるとは思いますがね。
梅子さんとは別の年金インタビューチャンネルで「もし、20歳に戻れるか、1億円貰えるか、どちらかが選べるとしたらどうしますか?」というような質問をしているところがありましたが、20歳に戻るという選択は私にはあり得ませんね。私もそれなりに頑張ったという気持ちはありますが、もう一度ああいう苦労を繰り返したいとは思わない、人生は一度限りで充分という感じです。もっとも1億円貰っても今さら使い道はありません。奨学金を貸与する財団でも作りましょうか。
次回に続く。
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