じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



02月のインデックスへ戻る
最新版へ戻る

クリックで全体表示。



 2月2日初回放送で取り上げられたマズローの『欲求の5段階』説【上段】と、それに代えて私が実践している『活動の束モデル』【下段】。2014年1月1日の日記参照。



2024年2月4日(日)




【連載】チコちゃんに叱られる! 「フラダンスとマズローの『欲求5段階』説/マズロー説の限界とそれに代わるもの(1)

 2月2日(金)に初回放送された表記の番組についての感想・考察。本日は、
  1. フィギュアスケートのアクセルってなに?
  2. 日本の信号機にヨコ型が多いのはなぜ?
  3. おばあちゃんになるとフラダンスを踊り始めるのはなぜ?
という3つの話題のうち、残りの3.について考察する。

 放送では、正解は「人生最後にして最高の欲求をかなえたいから」であると説明された。長田久雄さん(桜美林大学・特任教授)&ナレーションによる解説は以下の通り【一部、省略・改変あり】
  1. おばあちゃんになるとフラダンスを踊り始めるのは、彼女たちが最後の欲求をかなえたいから。
  2. 実はおばあちゃんたちは、自分の人生を全うしようと、欲求の山の頂上を目指している。今は(山の)8合目あたりにいまして、いよいよ頂上を目指して最終アタックをかけているといったところか。
  3. アメリカの心理学者マズローが発表した『欲求の5段階』説というのがあるが、それによれば、人の欲求は5段に重なった山のようになっている。
  4. その5段階とは、下から順に『生理的欲求』、『安全の欲求』、『所属と愛の欲求』、『承認欲求』、『自己実現欲求』で構成されており、歳をとるとともに下層から上層が満たされていく。
    • 生理的欲求:生きていくための本能的な欲求。食事、排泄、睡眠など。
    • 安全の欲求:安全に生活したい。
    • 所属と愛の欲求:友だちや家族や会社など、集団に受け入れられたい。
    • 承認欲求:高く評価されたい。自分の能力を認めてほしい。
    • 自己実現欲求:以上の4つの欲求が安定して満たされた時に目指すことができる。自分らしく、自分の持っている才能や能力、可能性などを開発して、自分の内面、内側から満たされていく欲求。
  5. つまりおばあちゃんたちは、人生における最高の欲求をかなえるために、自分らしく生きようと動き出す年頃。
  6. シニア世代は、自己実現を追求するために趣味を始めたり社会活動に参加するなど、自分の成長や生きがいを実感できる場を模索する。ある調査【『高齢者の趣味の種類および数と認知症発症:JAGES 6年縦断研究』、日本公衆衛生雑誌】によれば、男女の趣味は多い順に、
    • 男性:散歩・ジョギング、園芸・庭いじり、旅行、読書、パソコン、作物の栽培、カラオケ、釣り、囲碁・将棋・麻雀、ゴルフ
    • 女性:園芸・庭いじり、旅行、散歩・ジョギング、読書、手工芸、作物の栽培、体操・太極拳、カラオケ、グラウンド・ゴルフ、舞踊・ダンス
    となっている。その選択肢の1つとしてフラダンスを踊り始める。
 番組スタッフが実際に高齢者向けのフラダンス教室で「あなたにとってフラダンスとは?」というインタビューを行ったところ、
  • フラやってると、自分のありのままが解法できる。自己満足かもしれませんけど。他人にはわからないような。
  • 日常的にいろんな悩みごととかあっても、(フラダンスを)やっているときは忘れられるし、切替の時間になる。
  • 自分の成長にも、心の成長にもなっているのかな、と思う。
  • 今は生きがいですね。
といった回答があり、このことからナレーションでは、「(フラダンス参加者は)フラダンスを通して、人生最高の欲求をかなえようとしている」と解説されていた。さらにもう1つ、フラダンス教室で得たものとして、

この年齢でいろんなお友達が、フラを通じて出会えたっていうのも宝ですよね。

という声もあった。このことに関して長田久雄さんは、

女性の友好関係というのは、男性よりも他人との距離感が近くて、お互いのスキンシップ行動も多いという報告もある。女性は生きていく上で気持ちを共感できる、ネットワークを大切にする傾向が比較的強い。大勢の仲間と気持ちをわかちあえるフラダンスはちょうどいいのかもしれない。

と述べておられた。ナレーションではさらに、

フラダンスに限らず、シニア女性は観光旅行やコーラスなど、仲間とともに楽しめる趣味を持つイメージがある。いっぽうシニア男性が始める趣味として多く挙がったのは、釣り、競馬、盆栽、そば道場など“ひとり”でも楽しめるような趣味【←但しあくまで街角インタビューで若者が描いている高齢男性の趣味】

男性の趣味に関して長田久雄さんは、

男性【シニア男性】の場合は、仲間でワイワイというよりも、個人でその道をきわめる自分の成長を追求していく傾向がある。

とコメントされた。ナレーションでも「趣味において、女性は比較的「集団」を好む傾向があり、男性は「個」を好む傾向がある。」と補足された。




 ここからは私の感想・考察になるが、まず、放送で解説をされていた 長田久雄さんは、1971年4月に学部入学、1975年3月に学部を卒業しておられ、私とは同学年であり、大学院生の頃から存じ上げていた。某大学で私の定年退職記念の講演会を開いてもらった時にもわざわざ足を運んでくださったことがあった。
 放送では、長田さんの所属は「桜美林大学大学院・特任教授」と紹介されていたが、それ以前には長年にわたり東京都老人総合研究所(現、東京都健康長寿医療センター研究所)に在籍されていたこともあり、高齢者研究の第一人者といえる。定年退職後は綺麗サッパリ『隠居人』生活に移行した私とは異なり、今なおバリバリの現役で活躍しておられるところもスゴい。
 ということで、チコちゃんの番組に時たま現れる、コジツケ進化心理学や、ナンデモ脳科学によるトンデモ解説とは異なり、専門家ならではの重みのある解説が行われたことは間違いないと思うのだが、心理学における考え方の違いからか、今回の解説内容についてはいくつか疑問を感じざるを得ないところがあった。時間の都合で、本日は大ざっぱに列挙するにとどめるが、
  • マズローの5段階説というのは何だったのか?
  • 「欲求」で行動は説明できるか?
  • (マズローがどう主張したのかは別として)本当に、5段階のような階層性があるのか? またもしそうであるとすると、高齢者は病気になった途端に最下層まで転落し、二度と這い上がれなくなるのではないか?
  • おばあちゃんたちは、自分の人生を全うしようと、欲求の山の頂上を目指している。」というのは本当か?そんなに大仰に構えている人はごく一部であり、大多数は単に日常のしがらみからの逃避、あるいは友だちとの交流【「愛と所属の欲求」レベル?】のために参加しているのではないか?
  • けっきょく「自己実現」とは何なのか? 本当にそれが理想であり頂点になるのか?
といった点があるように思う。


 次回に続く。