じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



10月のインデックスへ戻る
最新版へ戻る
クリックで全体表示。



 10月23日(火)は半田山植物園が休園日のため、代わりに旭川土手を歩いた。写真は山陽本線の踏切で目撃した『桃太郎』。間近に見たのは今回が初めて。




2023年10月25日(水)




【小さな話題】イエナガ『最高の睡眠』

 10月21日(土)に放送されたNHK『漫画家イエナガの複雑社会を超定義』、

●#24 超コスパ! 最高の睡眠って!

のメモと感想。なおウィキペディアの放送リストによれば、この放送は2022年11月4日に初回放送されており、この時のタイトルは、

●今夜からグッスリ! 最高の睡眠を超速解説の巻

となっていた。

 睡眠の話題は2021年6月24日初回放送のヒューマニエンスでも取り上げられており、ある程度の初歩的な知識は持っていたが、今回の放送では、睡眠研究の歴史と背景、睡眠の質向上の対策がコンパクトにまとめられており、大いに参考になった。

 冒頭ではまず、OECDの2021年のデータで、日本人の平均睡眠時間は7時間22分となっており、先進国(?)の平均値8時間27分を大きく下回りダントツで最短となっていることが紹介された。なお、この調査では、睡眠時間は長い順に、南アフリカ、中国、エストニア、インド、アメリカなどとなっていた。
 また、『NHK国民生活時間調査』(但し1970年と1995年に調査方法変更)によれば日本人の平日の平均睡眠時間は、1960年に8時間13分だったものが年々減少し、2020年には7時間12分となっていることが分かったという。睡眠不足は肥満、高血圧、認知症などの原因になるということも分かってきた。さらに6年前の研究によれば、睡眠不足は経済にも影響を与える。日本だけで1年間に14.8兆円もの損失をもたらしているという。

 放送では続いて、睡眠研究の歴史が紹介された。
  1. 70年前までは睡眠の仕組みは全く解っていなかった。それを明らかにしたのはウィリアム・C・デメント博士(1928-2020)で、後に睡眠研究の父と呼ばれるようになった。
  2. デメントはもともとフロイトに憧れ精神科医を目ざし、1952年シカゴ大学医学部に入り、たまたま講義で睡眠の解説を耳にしたことが睡眠研究のきっかけとなった。
  3. 当時は「睡眠=脳の活動が休止した状態」と考えられていた。デメントはフロイトの研究への足がかりになると考え、睡眠の研究をしていたナサニエル・クライトマン教授の指導を受けた。デメントは睡眠中の脳波の研究の記録係となった。
  4. 膨大な記録から、睡眠には眼球が動くなどする活動的な眠りと、そうでないゆったりした眠りがあることが解った。活動的な眠りはレム睡眠、そうでない眠りはノンレム睡眠と呼ばれるようになった。
  5. レム睡眠とノンレム睡眠は約90分の周期で繰り返されており、「睡眠=脳の活動が休止した状態」ではないことが明らかにされた。これを機に、デメントは睡眠研究の道を進むことを決めた。
  6. 1963年、デメントは不眠の世界記録に挑戦するという高校生のランディ・ガードナー(17)を観察した。断眠2日目には目の焦点が合わなくなり、4日目には幻覚を見るようになり、8日目には記憶や言語が不明瞭になった。
  7. 研究を通して睡眠不足の危険性が解った。実際、睡眠不足が命を奪うこともある。1986年、7名の乗組員が犠牲となったスペースシャトル・チャレンジャー号の墜落事故では、NASANO責任者らは4時間未満の睡眠時間であり、十分な睡眠を取れていない状態で発射の決定をしていたことが判明した。
  8. 睡眠不足の社会的な影響を重く見たアメリカ議会は、睡眠障害調査国家諮問委員会を設立した、デメントはその調査委員長になった。デメントとは2年間にわたり、居眠り運転、夜勤による高血圧、タンカー事故などにおける睡眠不足の危険性を調査し、『Wake Up America』という報告書をまとめた。
  9. デメントは1990年代、睡眠負債という概念を提唱した。睡眠不足が続くと借金のように積み重なってしまうというもの。少しの睡眠不足でも積み重なると返済できないくらい膨れ上がってしまう。研究では負債が溜まっている人ほどBMIが高くなったり糖尿病や高血圧などのリスクが高まったりする傾向があることが判明した。毎日40分の睡眠負債がある場合、返済するには十分な睡眠を3週間とり続ける必要がある。
  10. 現代社会では24時間営業やグローバル化による時差の影響で睡眠不足が起こりやすくなった。ITブームを牽引した、ジャック・ドーシー(Twitter創業者)は1日18〜20時間労働、スティーブ・ジョブズ(Apple創業者)は夜4時間睡眠と昼寝、マリッサ・メイヤー(Yahoo!の元CEO)は4時間睡眠、というように、短い睡眠時間をアピールする人が出てきて『ショート・スリーパー』という言葉が流行した。
  11. 2016年、アメリカのシンクタンクは睡眠不足による各国の経済損失額を発表した。日本は1380億ドル(約15兆円)、アメリカは4110億ドル、ドイツは600億ドル、イギリスは500億ドル、カナダは214億ドルとなっていた。日本では2017年の新語・流行語大賞のTop10に『睡眠負債』が選ばれるまでになった。
 放送では『睡眠負債チェックリスト』(スタンフォード大学 西野清治教授)が紹介された。
  1. 休日の睡眠時間が平日より2時間以上多い 3点
  2. 気づくと電車やソファーでうたた寝してしまう 1点
  3. ベッドに入るとすぐ眠りに落ちる 1点
  4. 朝目覚めるのがつらくスッキリ感がない 1点
  5. 午前中に眠くなることがある 1点
  6. 目覚ましをかけないと起きられない 1点
  7. 週に3日以上異なった時間に寝る 1点
となっており、3点以上で「睡眠負債の可能性あり」、6点以上は「かなり危険」と判定される。ちなみに私自身は寝付きがいいので3.が該当するが、このことが睡眠負債にカウントされるというのは意外であった。

 さて、それでは1日何時間睡眠をとれば良いのか? 睡眠医学では睡眠時間と死亡率の関係から、ベストな睡眠時間はおおよそ7時間とされている。
Self-Reported Sleep Duration as a Predictor of All-Cause Mortality: Results from the JACC Study, Japan.(2004年)

 どうしても睡眠時間が確保できない場合は、睡眠の質を高めるというアプローチもある。デメント博士の弟子の西野清治教授(スタンフォード大学)及びイエナガの解説によれば。
  1. 最初の深い睡眠、黄金の90分がとても大事。寝始めの90分(ノンレム睡眠)は、脳と体の休息、記憶の整理や定着、ホルモンバランスの調整など有益なことが多く行われている。何時に寝てもOKだが、この深い睡眠を確保することが重要。そのためにはいかにスムーズに入眠できるかが大事。
  2. 方法として、
    • 寝る90分前に入浴すること(ぬるめの38℃〜40℃、お湯に浸かるのは15分ほどがいい)
    • 自分だけのルーティンを大切にすること(寝る前のスマホは基本的にNGだが、寝付きやすい動画や音楽があるならOK)
    • 昼寝も効果的。NASAの研究では昼間26分間の仮眠で認知能力が34%、注意力が54%向上するなどの結果が出ている。こうした知見をふまえて、仕事の生産性を上げるため社内に昼寝スペースを作った企業もある。昼寝を効果的にとろうという動きは社会に広がっている。
  3. スリープテックという睡眠をサポートする様々なグッズも登場している。

 放送の終わりのところでは、

デメントは「睡眠はギフトである(Sleep is a gift.)」という言葉を残している。明日を良い日にするためには今夜から最高の睡眠を自分にプレゼントすることが大切なのかもしれない。

と結ばれた。




 ここからは私の感想・考察になるが、私自身は毎日20時半〜21時に就寝、朝5時〜5時半に起床、という規則正しい生活を送っており、寝付きもいいし、夜中に目が覚めて眠れなくなるということも無く、今のところ睡眠に関わる悩みは存在しない。もっともこれはかなり微妙なバランスで維持されており、例えば昼にコーヒーを飲んだ日は、寝付きはいいのだが夜中にいったん目が覚めると再び眠れなくなることがある。また、座った状態では殆ど眠ることができず、国際線の夜間フライトではたいがい睡眠不足になってしまう(もっとも時差が6時間程度であれば2〜3日後には現地時間に馴れることができる)。

 最近、シニア割引で5%だけ安くなったこともあり、毎晩寝る前に毎日1本、『ヤクルト1000』を一週間ほど飲み続けたことがあった。1回だけでは効果は実感できなかったが、日々飲み続けているうちに、
  • 夜中に目が覚める回数が減った。
  • 夜中に1回目が覚めた場合、その直前と、そのあとの睡眠中で、少なくとも2回、かなりはっきりした夢を見るようになった。
という効果が出ているような気がしてきた。とはいえ『ヤクルト1000』はかなり高価であり、そこまでお金を払って飲み続ける必要があるかどうかは何とも言えない。

 睡眠時間の質問調査というのは、回答者が「いつ眠りについたか」を自覚できないため大ざっぱなものになりやすい。また実験室で睡眠の研究をする場合、特殊な環境でいろいろな装置をつけて分析するため、日常とは違った睡眠のパターンが現れる可能性が高い(夢についての研究も同様)。睡眠時間の国際比較などもあまり当てにならないように思われる。睡眠時間と死亡率との関係についての研究は、原典を読んでいないので何とも言えないが、自己申告による睡眠時間であればあまり当てにならないし、また、病弱な人のほうがベッドに横たわる時間が長くなるため、因果関係が逆転し、「長く寝るから死亡率アップ」ではなく、「病弱であるから結果として寝る時間が長くなった」のかを区別する必要があるように思われた。

 あとNHKのBSで、時たま放送される『グレートレース』では、参加者が不眠不休で完走をめざして走り続けるようなレースが紹介されることがあるが、体がボロボロになり、幻覚まで生じながら、よたよたとさまよい歩くのはどう見ても健全なスポーツとは言いがたい。参加者の自己責任とは言っても、「不屈の精神」を称えられるような状況ではなかなか棄権もできないように思う。余計なお節介だが、こういうレースでは、各所に休息ポイントを設置し、そこにやってきた参加者には必ず7時間以上の休息・睡眠を義務づけるといったルールを設ける必要があるように思う。