じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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 半田山植物園で2種類のヒルを見つけた。写真上と左下は同じ個体で、褐色の3本の縦筋があることから『オオミスジコウガイビル』と思われる。右下の写真のヒルはそれよりも細く、頭部はへら状ではなく尖っているように見えた。動きは速い。

2023年7月9日(日)




【連載】チコちゃんに叱られる!「世界遺産」「アイロンの不思議」

 昨日に続いて、7月7日(金)に初回放送された表記の番組についての感想・考察。本日は、
  1. 学校の怪談がどの学校にもあるのはなぜ?
  2. なぜ世界遺産を決めるようになった?
  3. アイロンをかけるとシワが伸びるのはなぜ?
という3つの話題のうちの2.と3.について考察する。

 まず2.の世界遺産の制定のきっかけであるが、放送では「世界がひとつになった伝説の大プロジェクトが成功したから」と説明された。その大プロジェクトというのは、エジプトのアスワンダム建設に伴い水没するアブ・シンベル神殿を丸ごと移動させる計画であった。
 当時のエジプト文化大臣だったサルワト・オカーシャからの相談を受けたユネスコは、「世界文明は分かつことのできない人類全体の遺産である」として「ヌビアの遺跡救済キャンペーン」を展開し支援金の援助を世界に呼びかけたが、冷戦時代でもあり支援金集めは順調ではなかった。そこでサルワトはアメリカなどで古代エジプト文明の展覧会を開催。1965年に東京国立博物館で開催された「ツタンカーメン 黄金のマスク」展もその一環であり、293万人が訪れ収益金がエジプトに送られた。こうしてわずか4年で約50の国や地域から4,000万ドルもの支援金が集まった。
 水没するいくつかの遺跡の中でも、アブ・シンベル神殿の移築工事は簡単ではなかった。この神殿はナイル川沿いの地盤の弱い崩れやすい場所に造られていたことと、神殿には神をまつった洞穴があり、毎年2日間だけ朝日が差し込むという複雑な構造になっていたことなどが移築を難しくしていた。
 ユネスコが世界に移築プランを募集したところ、
  1. フランス:神殿を巨大な壁で囲むプラン。→決壊のリスクがあり不採用。
  2. イギリス:神殿をそのまま沈めて水中博物館にするプラン。→砂が固まった岩でできているため水の中で崩れる恐れがあり不採用。
  3. イタリア:油圧ジャッキで持ち上げるプラン。→予算が足りないため不採用。
  4. スウェーデン:遺跡を1000以上のブロックに切り分けて、ダム湖の上で組み立てる。
というような結果となり、スウェーデンの提案が採用された。
 工事は1964年4月にスタート。工事にはエジプト、スウェーデン、イタリア、フランス、ドイツの5か国から2,000人もの技術者が集結。石を切るのが速いイタリアの石切職人、スウェーデンの製鉄技術で作ったノコギリで削り取られる幅を4ミリに抑えるなどの技術が発揮され、2年で全てのパーツを避難させることができた。1968年に移築が完了。サルワトは「アブ・シンベル神殿の救済は国際協力の最高の象徴になった」と話した。この成功経験から「人類共通の遺産」をみんなで協力して守るという考えが広まり、1972年に世界遺産条約が採択。現在では1157件の世界遺産がある。また現在日本では25件が登録されている。

 ここからは私の感想・考察になるが、放送で紹介されたアブシンベル神殿は2006年3月に訪れたことがあった。リンク先の写真から見て取れるように、ブロックの継ぎ目は殆ど分からないほどに密着している【2022年8月29日2022年9月3日の楽天版により多くの写真あり。】
 もっとも、ウィキペディアに記されているように、世界遺産の制度はアブシンベル神殿移築以外にもいくつかの重要な動きがあったようだ。とはいえアブシンベル神殿が重要な役割を果たしたことは間違いない。




 3.の「アイロンをかけるとシワが伸びるのはなぜ?」については、放送では「繊維の分子を整列させるから」が正解であると説明された。放送によれば、シワというのは繊維の分子がズレてバラバラになった状態。アイロンの工程は「スチーム」「圧力」「熱で乾燥」の3つの要素から構成されており、
  • スチームをかけると繊維が水分で膨らみ分子が動きやすくなる。
  • そのゆるくなったところをアイロンが圧力をかけることで分子が整列される。
  • 最後に熱で水分を抜いて分子が整列した状態が固定される。
という3つの変化によりシワが伸びると説明された。放送ではさらに、アイロンを上手にかける方法が紹介された。また、ポリエステルやナイロンなどは、綿と比べて繊維分子の結びつきが強く、分子と分子の間がズレにくい構造になっているため、最初からシワになりにくいとのあると補足された。

 ここからは私の感想・考察になるが、私が子どもの頃は干した洗濯物にアイロンがけをすることが日常的に行われていた。スチームアイロンのほか、霧吹きで水を拭きかけてからアイロン台の上でシワを伸ばすというもの。またズボンの折り目をハッキリさせるために、時々アイロンを使うことがあった。いっぽう当時はアイロンをつけっぱなしにしたための火事も結構あったように記憶している。
 しかし、定年退職前を含めてアイロンを使うことは全く無くなってしまった。近隣のクリーニング店では曜日限定でカッターシャツ1着を100円でクリーニングしてくれるし、また私は卒業式や入学式などの公式行事以外は、ポロシャツの上にブレザー着用というスタイルで出勤していたため、カッターシャツを着ることが殆ど無かった。この先カッターシャツを着るとしたら、葬式か結婚式ぐらいかと思う。

 元の話題に戻るが、放送で正解とされた、

繊維の分子を整列させるから

というのはあくまで簡略化した表現であり、これだけではトートロジーに陥ってしまう。なぜなら、

●シワが無いというのは繊維の分子が整列した状態のことをいう。

という表現は巨視的なレベルで「シワが無い」と観測された現象を微視的な繊維分子で言い換えただけに過ぎないからである。なので、正しくは、

●水分と圧力の作用で繊維分子を整列させ、乾燥により固定できるから。

というように「何がそれをもたらしているのか」を明示するべきであろう。

 なお上記では「繊維分子」というように微視的な表現が使われているが、干し物を取り込んだときのシワはもっと大きなものである。またズボンを履いているうちに折り目が消えていくのはシワの発生とは逆のプロセスかと思われる。なので、わざわざ「分子」などという言葉は使わずに、単に、

●アイロンがけとは、衣類に水分をかけることで繊維を膨張させ、圧力を加えることで整形し、乾燥によりその状態を固定する作業である。

というように説明しても、説明力は変わらないように思われた。じっさい、アイロンがけの達人と言われている人においても、分子がどうなったかというような微視的説明は何の役にも立っていない。また、ウィキペディアでも、
繊維は、水分と圧力と温度を加えることによって、ある程度変形させることができる。そこで、人体の丸みに合わせて生地に丸みを持たせたり、しわを伸ばしたり、折り目をつける目的等でアイロン掛けがなされる。
と説明されており、放送で言及された「繊維の分子の整列」なる表現は使われていない。