じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
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 5月16日の岡山は最高気温が29.0℃となり、今年一番の暑さとなった。30℃以上の真夏日にはあと1℃足りなかったが、炎天下のウォーキング中はすでに35℃の猛暑日を超える暑さになっていた。


2023年5月17日(水)



【連載】ヒューマニエンス『免疫』(5)歯周病、BCG

 昨日に続いて、2023年1月10日に初回放送された、NHK『ヒューマニエンス』、

“免疫” 変異ウイルスを迎え撃て

のメモと感想。今回で最終回。

 放送では続いて、「細菌が免疫を抑える」と題して、感染・重症化の『個体差』の話題が取り上げられた。前回述べた『地域差』と似通った部分もあるが、私が理解した範囲では、
  • 『地域差』というのは、特定地域の環境条件がその地域に住む人々全員の免疫力に影響を及ぼす場合。例えば衛生条件。但し、ある地域に特定の人種・民族が多数住んでいる場合は、その人種・民族が遺伝的に受け継いでいる免疫力の特性が結果的に『地域差』をもたらす可能性はある。
  • 『個体差』というのは、衛生状態のような環境条件が同一であっても、それぞれの人の感染歴や遺伝的に受け継いだ特性が免疫力の違いをもたらす場合。
  • 『地域差』は各地域の統計データを比較することで分析可能(但し同じ基準と方法でデータが集計されていることが必須)。『個体差』は、同じ環境条件に暮らしている人たちを個別に精査することで分析できる。

 放送で取り上げられた『個体差』としては、山崎晶さん(大阪大学)の研究が紹介された。山崎さんが新型コロナのワクチン未接種者1413人の血液を分析したところ、そのうちの838人がワクチンを打ったかのような、新型コロナウイルスを攻撃するT細胞を持っていたことが分かった。このT細胞の特性は、口の中の『セレノモナス・ノクシア』という細菌に対する防御のために獲得されたと考えられる。『セレノモナス』は5/1000mm、新型コロナウイルスの大きさは1/10000mmというように大きさは全く異なるが、アミノ酸の配列の中に「IAQYTSALLA」という共通する部分があり、T細胞は新型コロナウイルスをセレノモナスと勘違いして攻撃し、結果的に重症化を防いだ可能性がある。この例に示されるように、我々の免疫は、基本的に見たこともないものに対して防御システムを構築するという難しいことをやっている、そこでは複雑なだけではなく曖昧さをを許容しながら構築されていると説明された。なお、歯周病を防ぐような殺菌効果を持つ歯磨きを使わなければ新型コロナウイルスへの免疫力が強化される可能性はあるが、代わりに歯周病になってしまうというリスクが生じる。新型コロナウイルスのアミノ酸の配列の中の別の部分の配列が一致しているような細菌もあり、その組合せは無限にあるという。

 新型コロナウイルスを食べた細胞からT細胞にはウイルス情報が伝えられるが、2つの細胞を繋ぐ際の自然免疫側(食細胞側)の接続部(お皿)の型は一人一人違っていて、その形状を調べれば個人が特定できるほどであるという。お皿の型には人種差もあり、当初、新型コロナウイルスで欧米と日本で感染者に違いが見られた時にも、その原因がお皿の型の違いにあるのではないかという議論があったという。自分がどの型であるのかは調べれば分かるが、その型にどういう病原体の何が載りやすいのかまでは解明できていないという。ちなみに臓器移植の際の拒絶反応もこの型の違いによって起こるため、事前にマッチングがなされているという。iPSの技術でこのお皿が無い細胞を作れば拒絶は起こらないがウイルスへの対抗はできない。いっぽうどのウイルスにも対応できる万能型のお皿ができればどんな感染症にも対応できるようになる。

 免疫を高めるための方法として注目されている1つにBCGワクチン接種がある。2020年のボストン・マサチューセッツ総合病院の報告によれば、BCGを接種した人の92%が新型コロナウイルスを発症しなかったという。松本荘吉さん(新潟大学)は、BCGが自然免疫の細胞マクロファージに影響を及ぼしていることを発見した。マクロファージは通常は2〜3日で死んでしまうが、BCGを3回投入すると死なずに活性化が続いた状態でキープされる。BCGはすでに30億から40億という人に接種されてきた実績のあるワクチンであり、これを改良したワクチンを開発すれば、mRAワクチンよりも安く簡単に保存できるようになるという。

 放送の終わりのところで濱崎洋子さんは、免疫力という曖昧な定義をきちんと定義したい、経験則ではなく科学で明らかにしていきたいと述べられた。いっぽう、これに対しては、藤井彩子アナから、いくつかの要因が特定されてもその組合せは多様になりトレードオフの関係も生じるため、結局は「普通がいちばん」というような結論になってしまうというような声もあった。




 ここからは私の感想・考察になるが、まず、前回と合わせて、無菌や除菌は緊急の感染防止対策としては有用だが、長期的には適度にとどめ、種々の細菌・ウイルスに適度に晒されながら生活していくことのほうが結果的に「健康的」であり続けられるように思われた。
 ウイルスのアミノ酸の配列のうちの一部を標的とした情報をT細胞に伝えたり、「万能型のお皿」を開発する技術が開発されたりすることは今後の未知のウイルスに対抗するために大いに役立つとは思う。但し、一歩間違えば、T細胞の勘違いにより自分のからだの組織を攻撃する恐れがあり、かなりのリスクを伴うように思われる。

 5月8日、新型コロナウイルスの感染症法上の位置づけが「5類」に移行したことで、観客を集めるイベントが再開され、世界各地にも感染対策上の特別の制限なしに旅行できるようになり、「終息」には至らずともようやく「収束」に達したと実感できるようになってきた。この数年の間にコロナ禍は多くの犠牲者をもたらしたが、大量のデータが蓄積されるなかで免疫システムについての新たな知見をもたらしたことは間違い無い。