じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
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2月22日の夕刻は薄雲が広がっていたが、月齢2.1の月と金星が接近している様子を眺めることができた【最接近は2月22日の16時55分で、2°05′】。また少し上のほうには木星も輝いており、晴れていれば23日には月と木星の接近も眺めることができる。


2023年2月23日(木)



【連載】数学未解決問題「コラッツ予想」についての隠居人的考察(1)

 少し前、YouTubeの動画で、でコラッツ予想(コラッツの問題)が紹介されているのを偶然視聴した。コラッツ予想は1937年にローター・コラッツが提示した問題であり、ウィキペディアによれば固有名詞に依拠しない表現としては3n+1問題とも言われ、また初期にこの問題に取り組んだ研究者の名を冠して、角谷の問題、米田の予想、ウラムの予想、シラキュース問題などとも呼ばれる。
 ウィキペディアによれば、コラッツ予想は以下のように要約できる。
任意の正の整数 n に対して、以下で定められる操作について考える。
  • n が偶数の場合、n を 2 で割る
  • n が奇数の場合、n に 3 をかけて 1 を足す
このとき、「どんな初期値から始めても、有限回の操作のうちに必ず 1 に到達する(そして 1→4→2→1 というループに入る)」
 小学生でも簡単にできる操作であることと、多額の懸賞金がかけられていること【最近では、2021年7月7日、株式会社音圧爆上げくんが、「コラッツ予想の真偽を明らかにした方に懸賞金1億2000万円を支払います」と発表した】から、ネット上でもしばしば話題にされることがあり、中には「コラッツ予想が解けました」といった怪情報が出回ることもある。私自身も中高生の頃、これにハマったことがあった。

 ま、それなりに人生を過ごしてきた私の立場から言えば、数学者を目ざすような若者はこの問題にハマるべきではない。もう少し手堅い分野で成果をあげて生活基盤を確実なものにした上で、また、1つの問題を多面的に捉えられるように様々な数学理論を学んだ上で、時間的余裕ができた時に取り組むべき問題ではないかと思われる。いっぽう、私のような隠居人が認知症予防を兼ねてこうした問題に取り組んだり、あるいは中学や高校の数学研究サークルなどで、多面的な解決法を磨くための材料としてコラッツ予想のバリエーションを検討することにはそれなりの意味があるようにも思う。

 さて、私自身は高校卒業から50数年以上、数学をまともに学んだことがないが、長年、経験科学分野に取り組んできたことによって、それなりに問題解決のテクニックのようなものを身につけてきた。その発想から言えば、未知の問題を解明するには、
  • ある現象をもたらしていると思われる複数の要因、たとえばpという要因とqという要因をシステマティックに変化させる。
  • pとqがどのような条件の時にその現象が起こり、どのような条件ではその現象が起こらないのかを調べ上げる。
  • 必要に応じて、pとqの交互作用の有無についても検討する。
というような方法をとることが推奨される。経験科学で言えば、これは実験的方法の基本になる【もっとも、心理学の実験論文では、pやqをシステマティックに動かすというレベルには至らず、単にpやqが影響を及ぼすような最適な条件だけで実験を行い「p(あるいはq、あるいはpとqの交互作用)がこの現象に関与していたことが確認された」という段階で論文として発表される場合もある】。

 いずれにせよ、この問題解決のテクニックをコラッツ予想に当てはめるならば、上掲の操作は、
  1. n が偶数の場合、n を 2 で割る
  2. n が奇数の場合、n に p をかけて q を足す
というように、拡張できる【但し、pやqは奇数。qは負の値を含める】。その上で、pやqがどのような値をとるときに「どんな初期値から始めても、有限回の操作のうちに必ず 1 に到達する(そして 1→4→2→1 というループに入る)」という現象が起こるのかを同定すれば、あるいはその現象が、p=3、q=1以外では起こりえないことが示されれば、少なくともコラッツ予想が成り立つ必要条件は発見できたことになるはずだ。




 ネットで検索すると、上記のような、pやqの値を拡張する試みはすでに部分的に行われていることが確認できる。

 「コラッツ予想 拡張」というキーワードでYahoo検索すると、まずこちらの無署名PDF文書がヒットする。URLから推測すると、どうやら愛知県立豊田西高等学校の自由研究の発表原稿のようなものらしいが、詳しいことは分からない。この「文書」では、p=1は固定しておいて、q=5、またはq=7という条件のもとで検討が行われた。検討方法は明記されていないが、パソコンで行われたようである。

 でもってq=5の場合の結果は、
  • ア)最終的に 1 になるもの
  • イ)13 でループするもの
    (13→66→33→166→83→416→208→104→52→26→13)
    (33→166→83→416→208→104→52→26→13)
  • ウ)17 でループするもの
    (17→86→43→216→108→54→27→136→68→34→17)
    (172→86→43→216→108→54→27→136→68→34→17)
  • エ)オーバーフローするもの(計算の過程で数字が 10 億を超えてしまうもの)
という4通りのパターンが生じることが確認されたという。但し、「オーバーフロー」となるケースが無限大に向けて発散するものなのか、それともかなりの巨大数に達した後でア)からウ)のいずれかになるのかは確認できていないようだ。

 いっぽう、もう1つのq=7の場合は、p=5とは異なり、「最終的に 1 になる」ものと「オーバーフローする」もの2種類しか見つかっておらず、上掲のイ)やウ)のようなループは生じなかった。また、これも「5 倍して 1 を足す」の操作と同様に、調べる自然数の範囲を大きくすると、オーバーフローするものの割合が大きくなっていった。但しこれも10億以内の範囲での結果であり、10億を超える巨大数に到達したあとで最終的に1になったり、あるいは1以外の数でループするような現象が見られるのかどうかについては確認できていない。

 なお、上掲の高校生の研究では、q=5とq=7の場合が検討されたが、qが負の数、例えば、q=-1の場合はどうなるだろうか。この場合の操作は、
  1. n が偶数の場合、n を 2 で割る
  2. n が奇数の場合、n に 3 をかけて 1 を引く
となる、結果は、
  • 初期値が3の場合:3→8→4→2→1
  • 初期値が5の場合:5→14→7→20→10→5 【5でループしてしまう】
  • 初期値が7の場合:7→20→10→5 【5でループしてしまう】
  • 初期値が9の場合:9→26→13→38→19→56→28→14→7→20→10→5【5でループしてしまう】
となった、また、q=-3の場合は、
  • 初期値が3の場合:3→6→3【3でループしてしまう】
  • 初期値が5の場合:5→12→6→15→42→21→60→30→15→42→21→60→30→15【15でループしてしまう】
  • 初期値が7の場合:7→18→9→24→12→6→3【3でループしてしまう】
  • 初期値が9の場合:9→24→12→6→3【3でループしてしまう】
となっていて、いずれも特定数でループする現象が起こりやすくなるようであった。

 ということで「コラッツ予想 ループ」で検索したところ、またまた愛知県立豊田西高校の文書が見つかった。こちらのほうは2年生の方の署名入りとなっており、p=5またはp=7、q=±1のケースが検討されている。

 次回に続く。