じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
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 1月21日の夕刻と1月22日の朝はよく晴れて、それぞれ日の入り【写真上】と日の出【写真下」を眺めることができた。旧暦では、写真上が大晦日の日の入り、写真下が新年の初日の出ということになる。
 なお「大晦日は、グレゴリオ暦では12月31日となるが、旧暦では12月30日または12月29日になるという。今年は1月21日が旧暦12月30日であり大晦日となる。

2023年1月22日(日)



【連載】チコちゃんに叱られる!「なぜウソをつくようになる」

 1月20日(金)に初回放送された表記の番組についての感想・考察。この日は、
  1. なぜ人はウソをつくようになる?
  2. なぜ温かい食べものはおいしい?
  3. 【CO2削減のコーナー】パパの愛情いっぱい子育て教室
  4. ワイシャツの裾の前後が長いのはなぜ?
という4つの話題が取り上げられた。本日はこのうちの1.について考察する。

 その前に、1月18日の日記で、「展望台にのぼって高いところからの景色を見たがるのは『いいことがある』と遺伝子が記憶しているから」という非常に胡散臭い説明があったことを指摘したが、今回の「なぜウソをつくか?」なぜウソをつくようになるのか?についてもまたまた「遺伝子が記憶」やら「トンデモ進化生物学」的な胡散臭い説明[]が登場するのではないか、もしそうなったらBPOに提訴しようかと身構えていたところであったが、実際に行われた解説は発達心理学、教育心理学がご専門の林創(はやしはじめ)先生によるもので、心理学の知見に基づいた適確な内容であった。
想定される疑似科学的な説明としては「大昔の人は、罠をかけたり落とし穴を作ったりというように獲物を騙して狩りをしていた。これにより獲物を騙すことのできる人間のほうが生き延びる確率が高まった。このことから「騙すこと、つまりウソをつくのはいこどだと遺伝子が記憶し現代人もウソをつくようになった 」といったものが想定される。

 林先生によれば、
  • 人は早くは2歳半〜3歳ごろからウソをつきはじめるようになる。但し最初のウソは事実を否定するだけのもので、自分が怒られないためにつくウソだと言われている。
  • 4歳〜5歳ごろになると意図的なウソがつけるようになる。意図的なウソとは、相手に事実とは違うことを信じさせるウソ。
というように発達していく。
 放送では、
Hayashi, H. (2017). Children's understanding of lies in elementary school years. The Journal of Genetic Psychology, 178, 229-237. 【ほかに、Sodian et al.(1991)、Peskin(1992)、菊野春雄(2010)】
を参考にした実験手続が再現された。
  1. キリン、ウサギ、オオカミという3つの人形が登場し、このうちキリンとウサギは仲良しの友だち、またウサギはオオカミが嫌いという人形劇になっていた。
  2. 子どもの前には赤い家と青い家があり、ウサギが赤い家に隠れたあとオオカミがやってきて園児に向かってウサギはどこか?と尋ねる。
  3. 5歳以上の子どもは、「ウサギは青い家にいる」または「知らない」と答え、ウソをつくことができた。
  4. オオカミが去ったあとキリンが現れて同じように居場所を訊くと、今度は「赤い家にいる」と本当のことを教えることができた。【←これにより、子どもたちはウサギが赤い家にいるという記憶を保持しており、オオカミに対してウソをついたことが確認できる。
  5. しかし、4歳児の半数ほどは、キリンだけでなくオオカミに対しても「ウサギは赤い家にいる」と教えてしまった。
 この5歳以上と4歳児の違いは、
●自分とオオカミの心の中が別々のものであると知っているかどうか
による。5歳以上の子どもは、自分がこう言えば相手はこう思うんじゃないかという発想が生まれウソがつけるようになると考えられる。いっぽう4歳児は、この違いをうまく意識できないため、オオカミの心の中を考えずに自分の知っている本当のことを伝えてしまう。
 4歳児と5歳以上の子どもの違いは、この時期に「心の理論」が発達するため。「こころの理論」とは、
自分と他人の心の中は違うものであり、それぞれの気持ちや考えで行動するのだと理解すること。
であり、経験や言葉の習得などに伴い4歳〜5歳に大きく発達すると言われている。

 放送ではさらに、子どもが意図的にウソをつけるかどうか試す実験が行われた。ウサギの代わりに人の良さそうなお兄さん、オオカミの代わりにヤクザ風のおじさんが登場し、そのおじさんが(赤い家に隠れた)お兄さんの居場所を尋ねるという設定で実験したところ、3歳児では正直に「赤い家」と答えたいっぽう、4歳以上の子どもたちは「青い家」とか「分からない」と答え、全員がウソをつくことができた。
 さらに、赤い鬼に扮したお兄さんが赤い家に隠れて「ゼッタイ内緒にしてね」と約束したあと、園長先生が赤鬼の居場所を尋ねると、全員が「青い家」と答えた。これは、鬼に対しては半信半疑だが、「居場所を言わない」という約束を守ろうとした行為であり、ウソをつく力だけでなく約束を守ろうとする気持ちも育まれていたと説明された。

 林先生によれば、「気にすべきウソ」と「気にしなくてもいいウソ」は以下のように分類できる。
  1. お菓子を食べていないのに「もう食べた、ウソ」というように親の気をひくためのおふざけのウソ→気にしなくてもいい。親の反応を予期できるという点で発達が進んでいる証拠。道徳的に問題がなければ、注意するよりノッてあげましょう。
  2. 宿題をやっていないのに「やった」など、嫌なことから逃れるためのウソ→気にしなくてもいい。→怒られたり不快なことを避けるための典型的なウソであり、「怒らないから次から本当のことを言ってね」と言ってあげましょう。
  3. 自分でおもちゃを隠しておいて「お兄ちゃんが隠した」というように人のせいにしてしまうウソ→気にすべきウソ。時には人を傷つけてしまう場合もあるので、事実を確認して優しく注意をしてあげましょう。
林先生はまた「ウソをついたことで罰を与えるよりも、本当のことを言ったときにほめてあげることが大事」とアドバイスされた。

 なお、大人が子どもにつくウソもいろいろある。風呂上がりになかなかパンツはかない子どもに「ちん食い虫が来るよ」というウソは、子どもの習慣を定着させる上では有益なウソと言える。

 このほか、子どもがウソをつけるようになる理由は、心の理論以外にも、「記憶力」や「言わないようにガマンする力」が発達することも関係しているという補足説明もあった。




 ここからは私の感想・考察になるが、ウソをつけるようになる必要条件としては、「心の理論」以前に「視点の取得(perspective taking)」が必要ではないかと思われる。これは、「わたし、あなた、あの人」や「ここ、そこ、あそこ」、「あの時、いま、このあと」というように人称や空間、時間を区別して報告できるような能力であり、日常生活の中での自然な言語訓練の中で身についていく。

 なお、ウソをつくという行為を「他者を騙す」というように定義した場合は、ヒト以外の生物でもいくらでも例を挙げることができる。例えば擬態もあるし、他者を怯えさせるために自分を強く見せかける反応もある。そのいっぽう、「意図的なウソ」と言われるタイプは、言語行動が関わっており、人間以外では困難であるようだ。たまに霊長類や鳥類でもウソをつけるという実験研究が報告されることがあるが、形式的論理的には他者を騙すようなウソであったとしても、道具的な手段に過ぎず、オペラント条件づけでウソつき行動を強化できるという場合もある。

 ウソについては、行動分析学の大家、佐藤方哉先生も興味を持っておられた。

嘘とアイロニーの行動分析学的一考察

という論文を発表されたこともあった。

 次回に続く。