じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



12月のインデックスへ戻る
最新版へ戻る



クリックで全体表示。

 北九州から岡山に戻る途中で立ち寄った小谷サービスエリア(上り線)。
 このSAはアンデルセン直営のレストラン、スナック、ショッピング、ベーカリーがあり、岡山に戻る時は妻のリクエストにより必ず立ち寄っている。
 このSAはまた、西鉄バスジャック事件の突入・逮捕現場としても知られている。バスが停車した場所のすぐ後ろにはシェルのガソリンスタンドがあり今も営業しているが、「Shell」の看板は経営統合により「apollostation」(アポロステーション)に変更された。
※ガソリンスタンドの前に停まっている黒い車が二重に見えているが、これは元の写真を縮小した際の、画像編集ソフトのミスと思われる、なぜ車だけがこのようになったのかは不明。心当たりがあるとすれば、Windows10をWindows11にアップグレードしたこと。


2022年12月1日(木)



【連載】ヒューマニエンス「“文字” ヒトを虜にした諸刃の剣」(4)文字と顔の認識、ディスレクシア/「偏差値40以下が6人に1人」は当たり前

 昨日に続いて、10月25日に初回放送された、

NHK ニューマニエンス「“文字” ヒトを虜にした諸刃の剣」

についてのメモと感想。

 放送では、文字の認識の自動化に関わるヴィジュアル・ワード・フォームエリアが、もともとは顔の形の分析に使っていた場所であり、これを文字の認識に流用しているという説が紹介された。中村先生によれば、自然界には細かい分析が必要なものがあまりない。顔は視野の中心で細かいパーツを分析してざっと情報を取り出すという店で、顔の認識と単語の認識はよく似たところがある。このことから、顔を覚えにくい人は文字を覚えるのも苦手である可能性があるという。

 ここでいったん感想を述べさせていただくが、上記の話題のところで、「文字の認識」というのがどういう種類の文字なのかはふれられていなかった。画面に瞬間的に表示された出典を見ると、これは2020年に刊行された、

Wai Ting Siok, Fanlu Jia, Chun Yin Liu, Charles A Perfetti, Li Hai Tan (2020). A Lifespan fMRI study of Newrodevelopment Associated with Reading Chinese. Cereb Cortex, 30, 4140-4157.

という論文であり、全文が閲覧できることが分かった。DeepLの翻訳【一部、長谷川により修正】で要約をざっと見たところでは、この論文は、
  • 機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いて、6-74歳の125人の参加者の中国語の読みに関わる神経系をマッピングし、人間の認知の生涯神経発達の文脈で脳の構造と機能がどのように関連しているか、また読みに関する神経ネットワークは言語間で普遍か異なるか、という二つの理論問題を検証した。
  • その結果、中国語の読解に典型的に関与する左前頭葉と後頭葉の領域が、全参加者に共通するネットワークとして採用されていることが分かった。
  • これらの結果は、アルファベット読みの発達に関するこれまでの知見とは異なり、6-7歳の早期読者はすでに成人と同じ皮質ネットワークを用いて印刷された単語を処理していること、しかしこれらの領域間の結合は読みの習熟度によって調節され、読みのための皮質領域は経験によって活性化が減少し集中する方向に調節されることを示唆するものであった。
  • このfMRI研究は、生涯を通じた読書【文字の読み取り】の神経発達を初めて明らかにし、既存の脳構造ではなく学習経験が読書【読み取りの】習得を決定していることを示唆している。
というような内容であり、漢字の認識であることが分かった。ということで、放送で指摘されていた「顔の認識」というのは漢字の認識に関わるものであった可能性がある。このあたりも、日本語や中国語のような表語文字の文化と、表音文字だけの文化で何らかの差違がある可能性、また、識字のための教育法、あるいは認知症が進行していくなかでの読み取り能力の低下などに、表語文字独自の特徴がある可能性が示唆されているように思われる。




 放送では続いて、文字を学んでいる子どもたちに共通して起こりがちな誤りとして、左右を逆転させた「鏡文字」があることが紹介された。この時期の子どもたちは、左右の向きの違いを区別していない可能性がある。実際、日常生活では、例えばハサミはひっくり返してもハサミというように左右が反転していても「同じ物」として扱われる。しかし、文字に関しては、「さ」と「ち」、「b」と「d」のように左右の向きが違うと別のものとして扱われることがある。人類の歴史にとって、(音声)言語に比べると文字はごく最近使われるようになったものであるため、文字が苦手という人も少なからずいる。
 文字が苦手の人は「ディスレクシア(発達性読み書き障害)」と呼ばれており、英語圏では人口の10〜15%にものぼっている。文字が苦手な著名人としては、映画監督のスティーヴン・スピルバーグ、俳優のトム・クルーズが挙げられた。いっぽう日本での調査は少ないが、ある小学校で調べたデータによれば、495人の児童で、読むことに問題があったのは8.08%、書くことに問題があったのは8.69%であったという。30人クラスで2〜3人居ても不思議ではないことになる。

 ここでいったん感想を述べさせてもらうが、上掲の495人の論文で「読むことに問題があったのは8.08%、書くことに問題があったのは8.69%」という数値は、瞬間的に提示された論文画像を見たところでは、どうやら読み書きテストの成績が「標準偏差の-1.5より下位であった人数」を示しているようである。しかし、そもそも標準正規分布に近似できるような成績分布であれば、−σ以下の比率は概ね15.8%、−2σ以下の比率は2.2%というように一定の比率になることが決まっている。−1.5σ以下が8〜9%になるというのは当然であって、それが多すぎるとか少なすぎるという議論はナンセンスと言えよう。
 そう言えば、昨日のツイッターで、

日本人の6人に1人は偏差値40以下、5人に1人は役所の書類を申請できない…“見えない格差”をつくった知識社会のザンコク

という記事がトレンドに上がっていたようだが、「偏差値40以下」というのは、知能テストを実施した時の合計点の分布で「−σ以下」と同じことであり(IQで言えば、85以下、もしくは80以下)、概ね16%になるのが当然である。上掲の記事では
正規分布では、平均(偏差値50)から1標準偏差離れた、偏差値40〜60の範囲に68・3%の事象が収まる。2標準偏差離れた偏差値60〜70と30〜40はそれぞれ13・6%、3標準偏差離れた偏差値70〜80と20〜30はそれぞれ2・15%だ。
 日本では高い偏差値ばかりが注目されるが、人口のおよそ6人に1人は偏差値40以下だ。だがこのひとたちは、高度化する知識社会のなかで「見えない存在」にされている。
というように、そのことがちゃんと書かれていたが、ツイッターの投稿では「偏差値40以下が6人に1人もいるのは大変だ」というように一人歩きしてしまった向きもあった。偏差値というのは平均が50で、標準偏差が10であるように得点を換算したものであるゆえ、偏差値40以下が6人に1人」は当たり前のことなのだ。もちろん「偏差値40」に分類された人たちが何を苦手としているかを質的に分析し、サポート体制を整備する必要はあるが。

 次回に続く。