じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
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 4月28日は、岡山から山陽道経由で妻の実家のある北九州に帰省した。連休前の平日ということもあって、高速道路は比較的空いており、途中立ち寄った宮島SA下り線の展望所は誰も居ない時があった。写真の鳥居は神社ではなく、「交通安全」と書かれている。

2022年4月29日(金)



【連載】abc予想証明をめぐる数奇な物語(10)最終回

 昨日に続いて、

NHKスペシャル「数学者は宇宙をつなげるか?abc予想証明をめぐる数奇な物語【ブログ後編はこちら

についての感想と考察。本日で最終回。
 昨日の日記に記したように、加藤文元博士は、従来の数学のやり方はヒトが日常生活の中でじっさいに物事を認識する時のやり方とは異なっている。人間の思考は2つのモノを同じモノだと認識することもあれば全く違うものだと考えることもあるという、いわば矛盾を包み込む高い柔軟性を持っている。だから数学もそうした柔軟な形へと進化する道があってもいいのではないか、と述べておられた。
 加藤博士によれば、同じでありながら同時に違うモノでもあるという考え方は現代数学でも知らず知らずのうちに用いられているという【89分完全版】。
平面を考える時にx座標というのは数直線、y座標というのもやっぱり数直線なんですよ。だからここには二本数直線が出てくるわけです。この二本の数直線を数学者は同一視しないわけですね。ここは同一視してはいけない。同一視してしまったらこれは平面にならない。だから時に応じて我々は数直線のような対象を同一視する時もあれば同一視しない時もある。やはり(既存の数学との違いを)言語化できていないところがまだあるんじゃないか。IUT(宇宙際タイヒミューラー理論)は数学の基本的なところ、深層のところを揺るがす地殻変動から起こっている理論ですので、現今の数学との違いをきちんと完全に言語化する新しい数学の言語体系をやっぱり早急に作らなければいけないんじゃないかと思います。
と語っておられた。

 放送の最後のところでは、望月理論が忘れ去られてしまう恐れがあるいっぽう、未来の数学の姿であると考える数学者も出てきたという明るい話題も紹介された。テイラー・デュピー博士(バーモンド大学)は、インターネットを使ってその理解を共有する取り組みを行っているという。デュピー博士は、
望月の件に巻き込まれるなと警告してくる数学者もいます。「お前のキャリアがめちゃくちゃになるぞ、やめておけ」と。でも私は思うんです。これは微分積分の発明や重力の発見にも匹敵する革命で、私は今それに立ち会っているのだと。100年後、いや200年後も、望月理論は数学の世界で生き続けていると思うのです。
と語っておられた。また望月博士本人もその後、望月理論を分かりやすく説明する文書を公表したり、動画で
数学者の中には宇宙際タイヒミューラー理論が既存の数学とは関係ない別物だと言う人がいます。しかし私は、私の理論もまた多くの数学者が研究している数学とつながっていると思っています。数学の世界が互いにつながっているだけでなく、数学者同士もまたつながっていると信じているのです。
と語っておられた。

 放送は、

●abc予想を証明したという宇宙際タイヒミューラー理論が今後世界の数学者に広く受け入れられるかどうか、それはまだ分かりません。しかし、もしこれが新しい数学の夜明けなのであれば、私たちはいま史上稀にみる知の大変革を目撃している、そう言えるのです。

というナレーションで結ばれた。




 ここからは私の感想になるが、そもそも「同じ」とか「違う」というのは複数の対象を比較する際の分類基準のようなものであるから、モノを複数に分けて関係を論じる時には、どんなものでも常に同じ、違うという2つの見方が生じるように思う。

 私が理解する限りでは、数学の理論がどれだけの価値を持つかということは、その理論の発展可能性ばかりで決まるものではない。現実世界の予測や説明にどれだけ有用かということと無関係ではないように思う。
 例えば、虚数という概念は、2乗したらマイナス1になるという現実にありえない数を着想したものであって、それ自体は頭の中のお遊びにとどまっていた可能性がある。しかし複素数平面を考えることは物理現象の説明に有用であるということから理論が発展した。

 そう言えば、少し前、YouTubeで「0で割る」ことを認めてしまうとどのような矛盾が生じるかという興味深い話題を取り上げていた。それによれば、もし1/0という数があったとすると、

0×(1/0)=(0+0)×(1/0)

という等式が成り立つ。ここで右辺を展開すると

0×(1/0)=0×(1/0)+0×(1/0)
ところが、(1/0)は0の逆数であるゆえ、0に0の逆数をかけると1になるはず。

 なので、上記は、

1=1+1

となる。これをさらに一般化すると、すべての数は等しいということが証明されてしまう。
 では「0で割る」のは間違いなのかということになるが、もし、「すべての数は異なると同時に等しい」という理論に有用性があるならば、それはそれで生き残るはずだ。このほか、多元数についてもいろいろな理論があるようだが、これらも現実世界のシミュレーションにどれだけ有用かによっても価値が決まってくるように思う。宇宙際タイヒミューラー理論も、最終的には、現実の複雑世界にどこまで切り込むことのできるツールとしてどこまで有用かにかかっているように思う。