じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
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 4月12日の岡山はよく晴れ、最高気温はこの春で一番高い26.2℃まで上昇した。近隣のこども園には早くも鯉のぼりが出現。【サムネイルでは電線が写っていたが、その後、「フォト消しゴム5」というアプリを使って原画から電線をAI自動消去してみた。】

2022年4月13日(水)



【連載】引っかかりやすい確率問題:「命中率と回避率」「ベイズの定理のウソホント」

 昨日に続いて、

数学が得意な人ほど間違えるパラドックス・確率問題【IQテスト】(2019年1月24日)

についての感想と考察。

 2番目の問題は、
命中率50%の漁師と回避率50%のウサギがいる。漁師がウサギを仕留めることのできる確率は?
であった。この問題はいっけん、0.5×0.5=0.25、すなわち25%であると考えがちであるが、命中率と回避率というのは同じ現象が起こる確率を、漁師側(=命中率)とウサギ側(=回避率)から表現したものであるゆえ、50%が正解となる。また、回避というのは命中の余事象であるので、命中率と回避率の合計は常に100%にならなければ矛盾が生じる(例えば、命中率100%、かつ回避率100%ということはあり得ない)。

 上記の問題は数学的にはシンプルであるが、経験科学として捉えると少々考えるべき点がある。
 まず、「回避率50%のウサギ」という時の回避率はどうやって得られたのかという点だ。このウサギは1匹ではありえない。なぜなら、回避できなかったウサギはその時点で死んでしまうため、繰り返しデータを集めることができない。となれば、「ある種類のウサギ」という集団を想定していることになる。しかし、同じ種類であっても、逃げ足の速いウサギもいれば鈍感のウサギもいる。統計をとれば、「100匹のウサギに鉄砲を撃ったところ50匹に命中した」というデータはとれるが、だからといって、ある1匹のウサギに対する命中率が常に50%であるということにはならない。
 同じことは、大相撲力士の勝率についても言える。力士A、Bの通算勝率がいずれも50%であったからといって、AとBの取組でAが勝つ確率が50%であるとは必ずしも言えない。各力士は、動き、技、体重、身長差などによって「相性」があるゆえ、確率が10%になる場合も90%になる場合もありうる。




 最後の3番目の問題は、
一万人に一人の割合で患者がいる病気の試薬がある。この試薬は、その病気の患者に対して用いると90%の確率で陽性反応を示すが、患者でない人に対しても1%の割合で陽性反応を示してしまうことが分かっている。あなたはこの薬、信用できますか?
というものであった。これは言うまでもなく、条件つき確率に関するベイズの定理の問題であり、Aを陽性、Bを罹患、βを非罹患、p()を確率で表すと、

p(B|A)=[p(A|B)・p(B)]/[p(A|B)・p(B)+p(a|β)・p(β)]

となり、

p(B|A)=(0.9×0.0001)/(0.9×0.0001+0.01×0.9999)=0.00892

となり、陽性反応が出た人が実際に病気に罹っている確率は0.89%に過ぎないことが分かる。

 この種の問題は、統計学の入門書でも紹介されており、私自身もかつて専修学校で統計学の授業を担当した時に教えたことがあった。

 もっともこの問題も、経験科学的に見れば1つの落とし穴があるように思う。そもそも、「一万人に一人の割合で患者がいる病気」という時の「1/10000」という確率はどのようにして求められたのだろうか? いちばん考えられるのは、単に、全国で発生した患者数を人口全体で割った値であろう。となると、確率計算の基になる分母のところには、赤ちゃんから高齢者、また元気でピンピンしている人から病気で寝たきりの人までがすべて含まれているのである。
 いっぽう、「陽性反応が出た人」はどういう人になるのだろうか? もし、職場の定期健診でたまたま陽性となったというような場合は、その人が実際に病気に罹っている確率はきわめて低く、上記の0.89%に近い大きさになるであろう。しかし、ふつう、何かの検査を受けるというのは、何らかの自覚があり、当該の病気になったに多く見られる症状がすでに起こっている場合、医師の判断に基づいて行われることが多い。であるならば、検査を受ける前の時点でその人が当該の病気にかかっている確率は1万分の1ではありえない。すでに五分五分(1/2)になっている可能性もある。その場合、上記の計算式では、p(B)=0.5となるため、


p(B|A)=(0.9×0.5)/(0.9×0.5+0.01×0.5)=0.989

となり、かなりの確率で病気に罹っている可能性がある。

 ベイズの定理は、検査で陽性となって落ち込んでいる人を励ます上では有用だろうが、それはあくまで、健康体でピンピンしている人が定期健診でたまたま陽性となったような場合に限られる。すでにいろいろな症状が出ている人の場合には、「いや、陽性だからといって病気であるとは限りませんよ」などと言うのではなくて、別の励まし方(例えば、「その病気は、早期に治療すれば完治する確率が高い」といった励まし方)に切り替える必要があるように思う。