じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
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 露地植えのヒヤシンスが花を咲かせている。水仙ほどではないが、植えっぱなしでもそれなりに花をつけてくれる。

2022年3月27日(日)



【連載】チコちゃんに叱られる!「川沿いの桜並木」「豚カツの千切りキャベツ」

 3月25日【岡山は3月26日】に初回放送された表記の番組についての感想・考察。この回は、
  1. なぜ桜並木は川沿いにある?
  2. とんかつに千切りキャベツがついているのはなぜ?
  3. チコっと世界のことわざ「振りかけたパクチー」「馬馬虎虎」
  4. 色鉛筆が消しゴムできれいに消せないのはなぜ?
という4つの話題が取り上げられた。本日はこのうちの1.と2.について考察する。

 まず1.の桜並木については「花見客に地面を踏み固めてほしいから」という胡散臭い説明が正解とされた。
 斗鬼正一先生(江戸川大学)によれば、華やかな元禄が終わり、バブルがはじけて不況を迎えた享保年間は、新田開発に力を入れるも成果は上がらず、さらに享保13年には江戸川・隅田川・神田川が氾濫し、3500人を超える犠牲者が出た。堤の修復のための人手・資金が不足する中、徳川吉宗は中国の歴史書『史記』の一節、「桃李もの 言わざれども 下自ら蹊を成す(とうりもの いわざれども したおのずからみちをなす)」【桃や季の木には美しい花にひかれ、たくさんの人が集い自然と道ができる】を見て、隅田川や玉川上水に桜を植えるように指示した。
 吉宗が桜に目をつけた理由は、
  • 桜は他の樹木に比べると根をたくさん張るので、堤防の土砂の流出を防げる。
  • 桜は春に花を咲かせるので、その時期に人が集まれば、河川の氾濫がおこりやすい梅雨や秋の台風に備えて堤防を踏み固めることができる。
という2つにあったという。

 吉宗はまた、花見の時期だけは厳しい倹約令をゆるめ、
  1. 誰でも刀を差すのがOK
  2. 歩きたばこOK 【←受動喫煙防止と防火のために禁止すべきだと思うが】
  3. 女装OK
  4. ごちそうを食べるのもOK
とした。

 以上が放送の内容であったが、吉宗を主人公にしたフィクションや、こじつけ的な解釈が混在していて、私にはイマイチ納得できなかった。

 まず、そもそも「なぜ桜並木は川沿いにある」という問い自体に疑わしいところがある。同じ吉宗が仕立て上げた飛鳥山公園を初め、全国各地の桜の名所は必ずしも川沿いにあるとは限らない。

 純粋に堤を踏み固めることが目的であるとすると、決壊した箇所だけでなく、それ以外の場所にも広範囲にわたって桜を植える必要があるがこれは現実的ではないし、樹木の管理のほうが大変。いずれにせよ、わずか2〜3週間の花見の期間だけに人を集めても地面が固まるほどの効果は期待できない。むしろ土手の上に街道を作って、一年中人の往来を盛んにしたほうがよい。

 では、本当のところ、なぜ川沿いに桜並木が作られたのだろうか。1つは、放送でも指摘されたように、桜はたくさん根を張るという特性であろう。その他、川沿いは河川敷などの広場があって行楽の場として好都合であったという可能性もある。

 なお、吉宗の時代に隅田川や玉川上水に桜が植えられたということであったが、ソメイヨシノは幕末のころに、江戸の染井村で植木職人らによって売り出され、全国に広がったとされており、また桜の寿命はせいぜい100年(こちらに参考写真あり)と考えると、吉宗の時代に植えられた桜は殆ど残っていないものと思われる。なので、「なぜ桜並木は川沿いにある?」という疑問に対しては、その由来をたどるだけでは不十分であり、「今の時代、なぜ桜並木が川沿いに存在しているのか」ということに答える必要があるように思う。




 次の2.の豚カツの千切りキャベツについては、放送では「日露戦争で人手不足になったから」と説明された。これには、まず豚カツが誕生した経緯があり、その後、添え物としての茹で野菜が人手不足により生の千切りキャベツに切り替わった、という2段階の変化があったようだ。
  1. 豚カツのルーツはは、1895年創業の銀座のフランス料理店煉瓦亭が提供していた仔牛のコートレットであった。
  2. 仔牛のコートレットは油っこく日本人の口には合わなかったため、創業者の木田元次郎【ウィキペディアでは、木田元次郎の叔父が創業者となっている】が江戸時代から人気があった天麩羅を参考にし、また、当時は牛肉が不足したため安い豚肉を利用したとんかつの原型を生み出した。
  3. 当時は茹でキャベツなどを添えていたが、明治37年の日露戦争で若い従業員が徴兵されて人手が足りず料理工程を減らす目的で生のキャベツに切り替えられた。
  4. しかし、生のぶつ切りキャベツは従業員の試食段階で評判が悪かったため、千切りキャベツを添えることになった。
  5. キャベツは細かく切れば切るほど「イソチオシアネート」といううま味を引き立てる成分が出るため、とんかつの引き立て役にピッタリであった。
  6. キャベツにはビタミンUが豊富に含まれている。ビタミンUは、脂っこいとんかつを食べても胃の粘膜を修復・保護する働きがあるが、水に溶けやすく熱に弱いため生のまま食べるのがよい。【ウィキペディアによれば、ビタミンUはビタミンの定義を満たさないため、現在では「ビタミン様物質」に分類されているという。「塩化メチルメチオニンスルホニウム」が正式名だが、「キャベジン」とも呼ばれている。】
 私自身は滅多に外食しないが、北九州では何度か浜勝、岡山では山陽IC近くのカツ陣を利用したことがあった。いずれも、キャベツはお替り自由であったと記憶している。きっかけは日露戦争であったかもしれないが、今でもなお千切りキャベツが使われ続けているのは、イソチオシアネートの効用であろう。

 次回に続く。