じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



02月のインデックスへ戻る
最新版へ戻る


 岡大・図書館裏が土砂堆積場となっている。工学部の複合施設建設にともなう埋文調査のため、一時的に土砂を保管しているものと思われる。楽天版のほうで、イランの岩山の写真を掲載しているが、この土砂の山はそれらの風景を思い出させてくれる。


2022年2月11日(金)



【小さな話題】n個石が入っている袋から1個以上無作為に取り出したとき、偶数個と奇数個どちらの確率が高い?(その3)なぜ奇数個が多い?/囲碁のニギリと将棋の振り駒の公平性

 昨日に続いて、

●n個石が入っている袋から1個以上無作為に取り出したとき、偶数個と奇数個どちらの確率が高い?

という問題と、それに関連した「無作為」の意味について考察する。

 昨日のところで、
「1〜nの書かれたn枚のカードから1枚を取り出す。奇数、偶数どちらのカードが出るほうが多いか?」という問題が出された時には、
  • nが奇数の時は、奇数が出る確率のほうが大きい。
  • nが偶数の時は、半々。
と答えるのが妥当。nが奇数か偶数か分からない時は、「分からない」という意味を「nが奇数か偶数かは半々である」と解釈すれば、上記の両方を合わせることになるので、奇数のカードのほうが出やすいということになる。
と述べたが、素朴に考えると、

●自然数は奇数と偶数が半々のはずなのに、なぜ奇数のカードのほうが出やすいのか?

という疑問が生まれてくる。これに答えるにはどうすればよいだろうか?

 1つの説明は、自然数は1という奇数から始まっているというものである。1番目からn番目までのカードを用意する時、奇数を記したカードと偶数を記したカードは、nが偶数であれば同数であるがnが奇数であれば奇数個のほうが1つ多い。しかしこれは単に一番小さいカードが「1」という奇数であったために生じたものであり、仮に、「2〜nの書かれたn枚のカードから1枚を取り出す。奇数、偶数どちらのカードが出るほうが多いか?」というように問題を書き換えた時には、
  • nが奇数の時は、半々。
  • nが偶数の時は、偶数が出る確率のほうが大きい。
となる。例えば、n=4の場合は、「2、3、4」というカードから1枚を選ぶことになるので、偶数である2または4が選ばれる確率のほうが奇数である3が選ばれる確率より2倍も大きい。

 上記では「2〜n」としたが、別段「0〜n」でも、「10〜n」であっても偶数が選ばれやすいことは同じである。




 さて、以上に関連して新たに生じてくるのが、

●囲碁で先手後手を決める時の「ニギリ」は公平と言えるか?

という疑問である。ウィキペディアによれば、ニギリの手順は、
  1. 握る側の対局者と当てる側の対局者を決める(年長者が握るのが正式である)。握る側は任意の数の白石を片手に握り、碁盤の上で握った手を伏せて置く。握る石の個数は自由であるが、10個〜20個程度が一般的である。
  2. 当てる側が黒石を1個(奇数の意)ないし2個(偶数の意)盤に置く。その際に、「奇数先」、「偶数先」と声に出すこともある。
  3. 黒石が置かれたら握る側は手を開いて白石が奇数か偶数かを調べ(わかりやすいように、石を2列に並べて、残ったのが1個か2個か表すこともある)、当たった場合は黒石を置いた方すなわち当てた方がそのまま先手(黒番)となり、外れた場合は白黒を交換して後手(白番)になる。プロの公式対局ではモニター撮影がある関係で、碁石を交換せずに席を移ることもある。
 この手順の場合、握る側が最大で握れる個数nは碁笥に入った白石の個数であり、日本棋院のサイトによれば、「碁石の数の標準は白石が180個、黒石が181個の合計361個で1組となります。」とのことなので、n=180が標準と考えられる。
 もっとも、いくら手のひらが大きい人でも180個の碁石をすべて握ることはできない。実際のnは、棋士が握ることのできる最大数と考えるべきであろう。
 そしてその上で握られる個数が二項分布か一様分布か?を調べてみる必要がある。これは何とも言えない。実際の対局で何個握られたのかという記録があればよいのだが。但し、二項分布であれ一様分布であれ、これまでの考察によれば僅かながら奇数個が選ばれやすいことは予測されているので、当てる側は黒石を1個置くことで先手をとりやすい可能性はある。

 ではどうすればより公平に先手後手を決めることができるのだろうか?
 まず、ウィキペディアに紹介されている連珠のニギリについて考えてみる。
両対局者が石を適当な数だけ握り、開いて一方が奇数(白黒合わせて奇数)ならば黒石を握った者がそのまま仮先となり、両者とも奇数もしくは偶数(白黒合わせて偶数)の場合は白黒を交換する。
しかし、この方法は必ずしも公平とは言えないように思う。話を分かりやすくするために、仮に、それぞれのニギリ手において、奇数個が選ばれる確率が0.9、偶数個が0.1であったとすると、対局者をAさん、Bさんとした時、
  • 合計の個数が偶数になる場合:0.82
    • AとBがいずれも奇数個となる確率 0.9×0.9=0.81
    • AとBがいずれも偶数個となる確率 0.1×0.1=0.01
  • 合計の個数が奇数になる場合:0.18
    • Aが偶数個、Bが奇数個となる確率 0.1×0.9
    • Aが奇数個、Bが偶数個となる確率 0.9×0.1
となって、合計の個数が偶数になる確率のほうが遙かに大きい。

 なので、上記ほど極端ではないにせよ、合計個数が偶数になる確率のほうが大きいように思う。

 上記のところで、合計数が偶数になったときはやり直し、奇数になった時は、
  • Aが偶数個、Bが奇数個となればAが先手
  • Aが奇数個、Bが偶数個となればBが先手
というように決めれば、確率の上では公平になるかもしれない。但し、例えばAがインチキをして最初から常に2個を選ぶようにすれば、先手をとれるか、やり直しになるかいずれかにすることができる。(AもBもインチキをして常に2個ずつ選んだとすると、いつまで経っても決着しない)。こういう面倒な方法をとるよりは、いっそのこと、コイン投げかサイコロで先手後手を決めればよいのにと思う。




 ところで、将棋の先手後手は振り駒で決める。ウィキペディアによれば、振り駒とは
  • 記録係が原則として、上座の対局者の歩を5枚振って決める。記録係は、振り駒の前に両対局者に確認してから振り駒をする。振り駒の結果、「歩」が多く出たら上座の先手、「と金」が多く出たら下座の先手とする。
  • 振った駒が重なったり、立った場合は、その駒を数えず残り駒で決定する。その際、「歩」と「と金」の枚数に差さえつけばそれによって決定するルールと、「歩」と「と金」のどちらかが3枚以上出て初めてそれによって決定することができるルールがある。
  • 「歩」と「と金」が同数になった場合や、後者のルールの場合に「歩」と「と金」のどちらも2枚以下しか出なかった場合は、再度振り駒をする。
などとなっている。
 ここでは表裏は半々の確率、つまり5枚のコインを投げた場合と同様であると考える。そうすると、コイン投げで表が出る確率はn=5、p=1/2の二項分布になるので、
  • 全部裏:1/32
  • 表が1枚:5/32
  • 表が2枚:10/32
  • 表が3枚:10/32
  • 表が4枚:5/32
  • 表が5枚:1/32
となり、表が3枚以上となる確率は16/32で半々になることが分かる【「5枚のうち3枚以上を選ぶ確率は2枚以上を選ばない確率と等しい」と考えれば直観的にも理解できる】。
 但し、将棋の駒の「歩兵」と「と」では表と裏で彫られた凹みや書き込まれた漆の量が異なっており、表裏に働く力に影響を及ぼすような偏りがあるように思われる。もっともウィキペディアによれば、
日本将棋連盟は、2005年7月12日以降の公式戦における振り駒の結果を棋譜の備考欄に記録し統計をとることにしたが、2005年度の結果では統計的に有意な差はないとの結論になった。2005年7月12日〜2006年7月11日の1年間の1541局で、歩が多く出た局数は776(50.4%)、と金が多く出た局数は765(49.6%)であった。なお、この振り駒統計については2005年度の棋士総会において真部一男が提案し、理事会が受理したことがきっかけである。
となっており、深刻ではないようだ。