じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
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 岡大七不思議の1つ、「落ちないモミジバフウ」と「落ちないイチョウ」の現況。モミジバフウのほうはまだまだ葉っぱを付けていてかなり目立ってきたが、イチョウのほうは今年は早々と葉を落とし、周辺の他のイチョウと区別がつきにくくなっている。


2021年12月17日(金)



【連載】サイエンスZERO「鳥の言葉を証明せよ!“動物言語学”の幕開け」(2)オペラントかレスポンデントか、サーチイメージ

 昨日に続いて、12月5日に初回放送された、

「鳥の言葉を証明せよ!“動物言語学”の幕開け」

についての感想・考察。

 放送の冒頭では長野県軽井沢の森の中に生息するシジュウカラが使う「言葉」の例がいくつか紹介された。卵を抱いているメスが「チリリリリ」と鳴くと、外に居たオスが「ツピー」と答える映像が紹介された。「チリリリリ」は「おなかがすいたよ」、「ツピー」は「そばにいるよ」という意味であり、オスはしばらくして食べ物を運んできた。また「ヒーヒーヒー」は天敵のタカ、「ピーツピ」はカラス、「ジャージャー」はヘビを意味しているということであった。このほか、16年かけた調査で明らかにされた言葉は、「そばにいて」「持ってきた」「集まれ」「ウソをつく」など、200種類以上にのぼるという。

 この「鳥語」については私自身は2021年5月26日の日記【翌日以降にも続きあり】でも取り上げたことがあった。また視聴者から大きな反響があったという。
 私がまだよく分からないのは、鳥の鳴き声は、何かの刺激に誘発されて生じるレスポンデント行動的なものであるのか、それとも自発され、鳴いたことに伴う結果によって強化されるオペラント行動的なものであるのかという点である。もっとも、これは発信者(話し手)側からの視点であって、その鳴き声を聞いた他個体がどう反応するのかはまた別の問題である。

 例えば、「チリリリリ」という鳴き声は、「お腹がすいたよ」という意味ではタクト、「餌をとってきて」という意味ではマンドとして機能しているが、だからといって必ずしもオペラント行動であるとは限らない。人間の赤ちゃんでも、お腹が空いた時には特定の泣き声を発し、眠たい時には別の泣き声となる。最近では、AIを活用し、8割以上の精度で、赤ちゃんが泣いている理由を診断するアプリやスマートベッドライトが発売されているというが、この場合、赤ちゃん自身がオペラント行動として多様な泣き声を発し結果によって強化されているとは考えにくい【←ある程度大きくなると、抱き癖が生じることもあるが】。「チリリリリ」ばかりでなく、「ヒーヒーヒー」や「ジャージャー」などさまざまな警戒音も、ある種の緊張状態のもとでレスポンデント的に発せられている可能性があると思われる。

 しかし、そうして発せられた様々な鳴き声を聞き手(受信者)がどう利用するのかは別の問題である。例えば、オオカミが「ウォーン」と遠吠えすること【←実際は「キュイーン」や「ワァオ、ワァオ」が混じっているらしい】は、オオカミの群れにとっては特別に機能しているであろうが、オオカミを天敵としている小動物にとっては「あの方向、あの距離にオオカミが居る」という警戒音として機能している。要するに、発信者(話し手)にどういう意図があろうと、結果として、聞き手にとって有用であるならば、コミュニケーションが成立していると考えることもできる。
 ということで、「ヒーヒーヒー」、「ピーツピ」、「ジャージャー」といった異なる鳴き声が、緊張状態の違いによってレスポンデント的に発せられているものなのか、オペラント行動の1つとしてタクトとして機能しているのかは、なかなか区別が難しいように思われた。

 上記のことに関連して、鈴木先生は、紐で繋がった木の棒を枝にひっかけて上に動かし、同時に「ジャージャー」という音声をスピーカーから流した。そうすると、観察した12羽のうち11羽が、現場に1メートル以内に近づいて確認行動を示したという。これは、「ジャージャーという音が聞こえたことでシジュウカラがヘビのサーチイメージを描き、ホンモノのヘビと見間違えた」というように説明されていた。さらに、対照条件として、「ジャージャー」ではない別の鳴き声「集まれ」を聞かせた時には、12羽中2羽しか集まってこなかったという。

 もっとも、この条件比較だけで「ジャージャー」がヘビのサーチイメージをもたらしたと言えるかどうかはまだ確認できていないように思われた。例えば、「ジャージャー」は、災害発生の危険度が警戒レベル4に相当する深刻な事態であるとして【聞き手に】利用されているのであれば、当然、その鳴き声を聞いた他個体は現場を確認するために集まってくるであろう。

 例えば、火災警報器の音を聞いて集まってくる人たちの場合でも、火災というサーチイメージが無ければ集まらないというわけではあるまい。現場に近づいたあとで、火災の状況に応じて消火活動に参加するとか119番通報するという行動をとるであろうが、それは火災報知器の音がもたらしたサーチイメージではない、あくまで現場を見た上で新たに起こした行動である。

 次回に続く。