じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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 10月5日の岡山は最高気温が30.1℃となった。10月4日の30.0℃よりわずか0.1℃高いだけであったが、10月の最高気温ランキングで観測史上第9位タイの暑さとなった。
 この日はまた、日没後に美しい夕焼けが見られた。


2021年10月6日(水)



【連載】ヒューマニエンス「“快楽” ドーパミンという天使と悪魔」その7 報酬予測誤差と飽和化

昨日に続いて、9月9日に初回放送された表記の話題についての感想と考察。

 昨日まで取り上げてきた「報酬予測誤差」は、「ドーパミンの“落とし穴”」というタイトルのもとで言及されていたが、それが落とし穴になるのか、新たな体験を追求する原動力になるのかは何とも言えないように思う。
 但し、すでに指摘したように、好子(強化子)はドーパミン放出とは独立した強化機能を持っているように思われる。サルの実験で、

●「ランプ点灯→ジュース」という対提示を繰り返すと、ジュースが出てもドーパミンが放出されなくなる

という結果が得られたとしても、ジュースそのものの強化機能が消失したわけではない。紹介された実験はレスポンデント条件づけの枠組みなのでそこでは確認されていないが、仮に「ランプが点灯された時にボタンを押すとジュースが提示される」というオペラント条件づけの枠組みで訓練を行った場合、ジュースの提示は引き続きボタン押しを強化するであろうし、またランプが点灯しただけでジュースが出なくなれば、ボタン押し行動は消去されていくだろう。
 なので、もしそういうデータが得られたのであれば、ドーパミン放出は必ずしも強化機能の必要条件ではない。あくまで強化機能を高める付加的な要因であると考えるべきであろう。
 なお、「ランプ点灯→ジュース」を何度も繰り返すと、ジュースそのものの強化機能が一時的に低下することがある。これは飽和化であるが、どうやらドーパミンが出なくなる現象とは別物であるようだ。飽和化という現象はあくまで一時的なものであり、飽和化が起こった後しばらくジュースを与えない状態を続けると(=遮断化)、ジュースの強化機能は元通りに復活する。しかし、ドーパミン放出のほうは、どうやら予測誤差、つまり新たな驚きが起こらない限りは、遮断化操作だけでは復活しそうにもない。

 行動分析学の基本的な考え方として、あるオペラント行動に対して量・質ともに全く変わらない好子が規則的に随伴していて、かつ確立操作のレベルが同一であるならば、そのオペラント行動は一定の頻度で生起し続けるはずだ。例えばネズミを毎日23時間餌を与えない状況にしておいて、そのあとの1時間の訓練場面で、10回バーを押すごとに餌が得られるという条件づけを行ったとすると、ネズミが毎日バーを押す頻度は日々同じレベルで継続されるはずである。1時間のセッションの中でバーを押す頻度がゆっくりとなっていったとすると、その要因としては飽和化(満腹になる)や疲労が考えられるが、ここまでの範囲ではドーパミンの話を持ち出す必要はない。
 いっぽう、そうした「日常場面」の繰り返しでは餌の量が不十分である場合は、別の方法で更なる餌を調達する必要が出てくる。あるいは、雑食性の動物の場合は、特定の餌は満ち足りていていても、別の新奇な餌を探そうとする場合がありうる。その際には、報酬予測誤差によってもたらされるというドーパミン放出が大きな役割を果たしている可能性がある。

 なお、番組の終わりのほうでは、人類の祖先がアフリカを旅立って世界に広がったというグレートジャーニーの話題が取り上げられており、ドーパミン放出量の個体差には遺伝子が関与しており、アフリカ→ユーラシア→アメリカ大陸という移動の中で、ドーパミン放出の多い人の比率が増えているというような研究が紹介されていた。これについては後述する予定。

 次回に続く。