じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
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 「接写で楽しむ雑草の花」。今回はケキツネノボタン。ウォーキングコースの休耕田に群生していた。【但し、キツネノボタンなどの近縁種との区別は、しっかりできていない】


2021年5月16日(日)



【連載】サイエンスZERO「最新リポート!“夢”の科学」その4 夢を覗く?

 昨日に続いて、サイエンスZEROの表記のテーマについての感想と考察。

 放送の終わりのあたりでは、「他人の夢を覗けるかもしれない」という話題が取り上げられた。神谷之康先生(京都大学・大学院情報学研究科、こちらに分かりやすい紹介あり)の研究室では、fMRIに入った被験者にさまざまな画像を見せた。その時の視覚野の血流のパターンをミリ単位の精度で表してAIに学習させると、脳の血流のパターンだけから何を見ているのかが読み出せるようになった【ツイッターに関連画像あり】。最近の研究では、シンプルな図形ばかりでなく、動物の顔など複雑な画像を初めて見せた時でも、AIがかなりの精度で描き出せるようになった。さらに睡眠中の血流を解析した時にも、夢の中で何を見ているのかが描き出せるようになったという。

 私が理解した限りでは、この技術は、「夢を覗く」というより、いま何を思い浮かべているのかという状態を客観的に捉えるものであるようだ。今回紹介された内容は視覚に関連するものであったが、聴覚野の血流を分析すれば、音楽や話し言葉のような聴覚刺激を思い浮かべている状態も把握できるかもしれない。

 もっとも、「どういう映像を思い浮かべているのか」を把握しただけでは、夢の内容を覗いたことにはならないように思う。例えば、「奥さんと造花のシクラメンの夢を見た」というだけでは、それがどういう文脈で(夢の中で)起こった出来事なのかは分からない。また、フロイト風に解釈するとしても、奥さんを愛していたから造花を贈ったのか、それとも奥さんの死を望んでいたから(生花ではなく)造花を贈ったのか、ということも分からない。あるいは、ある王国で、国王の姿が夢に出てきたからといって、国王を敬愛しているためなのか、国王を憎んでいて革命を起こそうとしているためなのかは、画像解析だけからは判別つかないだろう。

 神谷先生は、また、「人の胎児は24時間中の多くの時間をレム睡眠に費やしていると言われており、その時に、原初的な意識体験みたいなものが生じているかもしれない。それが、生まれ落ちてから外界と接することで変化していく、というように考えると、普段の夢の見方も変わってくる。単に起きている時のことを思い出しているとか、学習に役立っているとかではなくて、夢が意識や心のおおもとであって、それが起きている時の経験によって変わっていくという見方もできるかもしれません【長谷川による改変あり】」とも述べておられた。もっとも、夢の研究が、意識研究や思考の発生研究に繋がるのかどうかは、何とも言えないように思う。私自身は、関係フレーム理論が言うように、恣意的に設定された関係反応の派生を通じて言語行動や視点取得が発達し、さらにそこからの派生として夢という現象が生じるようになったのではないかと思っている(もちろん、レスポンデント条件づけのレベルでも単純な恐怖体験の夢は見られるかもしれないが)。