じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
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 妻が貰ってきたトマトの苗4本をベランダで育てていたが、病気にかかっていたのか日当たりが悪いせいなのか、収穫は1個のみで終わった。

2020年8月26日(水)



【小さな話題】100分de名著『モモ』作品解説というより河合俊雄流の臨床心理学的解釈

 8月のNHK「100分 de 名著」で、ミヒャエル・エンデの「モモ」を取り上げていた。

 ミヒャエル・エンデと言えば、1999年に放送されたNHK「エンデの遺言 根源からお金を問う」が真っ先に浮かぶ。当時は地域通貨に関心が集まっており、「エンデの遺言」とその続編の「ウイークエンドスペシャル 続エンデの遺言1:坂本龍一『地域通貨の“希望"』」で地域通貨の歴史や効用が紹介されていた。エンデは時間の経過とともに価値が減衰する「エイジングマネー」や、時間とともにマイナスの利子がつけられていくしくみをを提唱した。この考え方は、シュタイナーやゲゼルの影響を受けており、代表作の『モモ』もゲゼルの思想から着想を得たとされている。

 ウィキペディアの該当項目でも、『モモ』は、
ストーリーには、忙しさの中で生きることの意味を忘れてしまった人々に対する警鐘が読み取れる。『モモ』という物語の中は、灰色の男たちによって時間が奪われたという設定のため、多くの書評はこの物語は余裕を忘れた現代人に注意を促すことが目的であると受け止めた。編集者の松岡正剛[]は、「エンデはあきらかに時間を『貨幣』と同義とみなしたのである。『時は金なり』の裏側にある意図をファンタジー物語にしてみせた」と評した。
「時間」を「お金」に変換し、利子が利子を生む現代の経済システムに疑問を抱かせるという側面もある。このことに最初に気が付き、エンデ本人に確認を取ったのはドイツの経済学者、ヴェルナー・オンケンである。
松岡正剛の千夜千冊:1377夜『モモ』ミヒャエル・エンデ

 というような背景もあり、今回の番組でも当然、時間とお金との関係、あるいはどうすれば我々は「豊かな時間」を取り戻すことができるのか、という解説がなされるものと期待していた。

 しかし、私が理解した限りでは、今回の内容は、『モモ』という作品の解説というよりは、主人公モモの行動や登場人物の設定、「傾聴」や「機が熟す」などについての、河合俊雄流(河合隼雄流の継承?)の臨床心理学による解釈が大半を占めており、『モモ』を通じてエンデが何を言いたかったのかという肝心な点が視聴者には伝わらなかったのではないかという、消化不良な結果となってしまったように思われた。

 確かに番組の1回目の冒頭では、
今回はこの『モモ』を心理学の視点から読み解いていきます。...セラピストの視点から、時間と心の本質を描いた物語として『モモ』を読み解きます。
というようにちゃんと断っているので、その前提から言えば今回の4回シリーズの内容は趣旨に一致していたとは言える(「心理学の視点」とか「セラピストの視点」というのは多種多様であり、河合俊雄先生のご指摘が心理学やセラピストの代表的見解というわけではないが)。

 もちろん、河合俊雄先生のコラムに記されているように、文芸評論家や経済学者とは異なる視点から『モモ』を読み解くことは教養を深めるという点で大いに意義深いものであるが、100分de名著版の『モモ』の解説が河合俊雄流の解釈だけで終わってしまった点は、やはり物足りなさを感じた。

 河合俊雄先生には申し訳ないが、「時間」という観点から『モモ』を読み解くのであれば、『時間についての十二章――哲学における時間の問題』などの御著書で知られる、哲学者の内山節さんに解説をしていただくというのもアリではなかったかと思った。