じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
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 チコちゃんの話題(↓の記事参照)に関連して、動物(魚、亀、蛙、鳥、鯨など)がどちら向きに描かれているのか、いくつかの図鑑でチェックしてみた。
  • 番組でも瞬間的に紹介されていたが、魚の図鑑はカレイの一部を除いておしなべて左向き。
  • 鳥、亀、蛙などがすべて左向きになっている図鑑があったが、左右半々というものもあり。
  • 動物図鑑は左右半々であったが、クジラの絵は、私が見た図鑑ではすべて左向きになっていた。

2020年3月29日(日)



【連載】#チコちゃんに叱られる! 「 #魚の絵 はなぜ #左向き に描いてしまう?」その1

 昨日に続いて、3月27日に放送された、NHK チコちゃんに叱られる!の感想と考察。今回は
  • 春一番ってなに?
  • 魚の絵は、なんで左向きに描いちゃう?
  • なんで三角形のサンドイッチが多いの?
 という3つの疑問の中の「魚の絵」について取り上げる。

 さて、「魚の絵は左向き」について考察するにあたっては、まず、
  1. 本当に左向きに描く人が多いのか?
  2. (1.が確認されたとして)魚の絵だけ左向きなのか、それ以外の動物や乗り物(乗用車、バス、電車、飛行機など)も同じように左向きに描く傾向があるのか?
という点をしっかり確認する必要がある。
 このうち、1.に関しては、番組では、
  • 街角での調査:右利きの人は50人中45人が左向き。左利きの人は20人中16人が左向き。
  • 日本国内の街角で外国人を調査:アメリカ人は左右バラバラ。エジプト人は5人中5人が右向き。
  • 幼稚園児:83%が左向き。
といったデータが示された。サンプリングがいい加減であるとは言え、「左向きに描く」という傾向は、
  • 日本人の多くに見られること
  • 幼稚園の頃からすでにあること
  • 左利きの人でも見られること
  • 外国人は必ずしもそういう傾向を示さないこと
などは、ほぼ確かなようである。

 なお、2.の、魚以外の動物や乗り物の絵については、次回に取り上げることとしたい。

 さて、元の疑問について、ラテラリティ研究などで有名な八田先生は、3つの仮説を提唱された。
  1. 利き手影響説:右利きの人は左から右に線を引いたほうが描きやすい。魚の絵は普通、頭の方から描くので、左側が頭になる。
  2. 「だって左が好きなんだもん」説:左にあるものは右脳に入るので、左から右に動くほうが好まれる。スーパーマリオも左から右に動く。魚の絵の場合は、まず左に注目し、左に顔を描く。
  3. 日本文化の影響説:日本では、魚屋さんでは魚の頭が左、お魚定食も左向き。魚の図鑑も左向き。また右大臣よりも左大臣、舞台の(出演者からみて)左手を上手というように左を重んじる文化がある。
 これらの「仮説」のうち、1.は、左利きの人でも魚を左向きに描く人が多いことから棄却。2.は、もしそれが成り立つなら人類共通のはずだが、外国人は必ずしも左向きに描かないので棄却。3.は、日本文化の影響をまだ受けていない幼稚園児でも左向きに描く人が多いので棄却。けっきょく、謎だなあと解説された。




 ここからは私の感想・考察になるが、私は、こうした傾向をもたらしている原因は複数あり、どの仮説が正しいかどうかではなく、種々の要因が複合的に働いていると考えるべきであると思う。

 八田先生の「提唱」された3つの「仮説」はいずれも一定程度、成り立っている。但し、どの要因が強く働くのかは、文化差や個体差があるだろう。例えば、横書きの文字を右から左に書いている国では、魚の絵も右から左に描く傾向が強くなるがゼッタイではない。

 種々の要因の中で私がいちばん大きく働いていると思うのは、子ども向けの魚図鑑の影響である。上掲の画像に見られるように、図鑑では、カレイの一部を除いて、おしなべて左向きに描かれている。2019年3月21日の日記でも取り上げたように、

(人間の)子どもたちが描き始める“モノ”は、見たものというよりは知っている“モノ”

なのである。幼稚園児が描く魚は、目の前の魚の写生ではなくて、図鑑などを通じて「知っているサカナ」なのである。

 では、なぜ図鑑の魚は左向きになっているのかという大きな疑問が出てくるが、ネットで検索したところ、こちらに詳しい考察があり、可能性として、
  • @日本の伝統的な考え方で、左側を上位とする「左上位、左優位」の考え方から。
  • A@をふまえて尾頭つきの魚料理は通常左向きであることから、「魚は左向き」という観念が定着。
  • B縦書きの日本語は右から左に書いてゆくが、その流れに準じると、魚の図版も左向きが妥当。
  • C魚の心臓が左よりなので解剖図は体の左側でなければならず、標本図もそれに倣い左向きに。
  • D18世紀のドイツの魚類学者が作った魚類図鑑に掲載された図版に倣って(体の右側を解剖し、きれいな左側を図鑑に掲載した為に魚が左向きになったという)。
  • E右利きの人が絵を描く場合、左から右に描くのが自然であるから。
などが挙げられていた。なお、リンク先の記事によれば、小学館から1956年に出版されている『学習百科図鑑 魚貝の図鑑』では、右向きの魚が描かれている事例があるという。ところが1972年版ではすべて左向きに統一されているというので、その経緯が是非とも知りたいところだが、現時点では「わからない」という結論になっていた。

 このほか、2つほど付け加えておくと、
  • 高松藩第5代藩主松平頼恭の命より作られた衆鱗図も、画像検索すると、カレイ以外はおしなべて左向きになっているようだ。
  • こちらの写真にもあるように、水族館の回遊水槽では魚は左向きに泳ぐ傾向があるようだ。子どもたちがこういう光景を見れば、当然、左向きの魚が強く記憶に残るはず。但し、すべての水族館で魚が左向きに泳いでいるかどうかは未確認【←回遊水槽では水流が時計回り、反時計回りの両方向の設定が可能だが、何か基準があるのだろうか?】


 次回に続く。