じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
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 昨日に続いて月入りの写真。昨日より空が明るくなっていたため、月の輪郭や表面の模様がコンデジでもはっきり撮れるようになった。なお月入りから4分後には、東の空から太陽が昇ってきた。

2019年11月12日(火)



【連載】『赤ちゃんはことばをどう学ぶのか』(6)バイリンガル環境における聞き分け

 11月11日に続いて、

 針生先生の『赤ちゃんはことばをどう学ぶのか』の感想。

 第2章の後半では、「聞き分け能カの低下は食い止められるか」という話題が取り上げられていた。聞き分けの対象となったのは中国語では区別するが英語では区別しない「チ」と「シ」に近い音であった。実験参加者は英語環境で育つ生後9カ月の赤ちゃん。グループ分けした上で、中国語のオーディオ(音声のみ)を繰り返し聞かせる、中国語のビデオ(音声と映像)を見せる、中国人のお姉さんと遊ぶ、中国語に触れさせない、という4つの条件で群間比較したところ、聞き分けに効果があったのは、中国人のお姉さんと遊ぶグループのみであったという。このことから、受身的なオーディオやビデオでは効果が無く、一緒に遊ぶ中での双方向の環境が必要であることが示唆された。

 このことは、行動分析学の弁別学習の原理から言えば当然であるとも言える。要するに、AとBという2種類の音を受身的に聞いていただけでは弁別学習は成立しない。Aが提示されている時と、Bが提示されている時で、ある行動(オペラント行動)の結果が、異なる結果をもたらさなければ刺激弁別は起こりえない。このほか、レスポンデント条件づけで、AとBのいずれか一方だけに無条件刺激が対提示される場合も弁別されるようになる。【メトロノームの特定のテンポの時だけ餌を出し、それより早いテンポや遅いテンポの時に餌を出さないようにすれば、当該のテンポの時だけヨダレを出すようになる。】

 本書では続いて、バイリンガル環境の話題が取り上げられていた。主として紹介されていたのは、スペイン語とカタルーニャ語のバイリンガル環境で育つこどもの母音の聞き分けに関する内容であったが、要するに、バイリンガル環境は赤ちゃんにとって、なかなかチャレンジングなものであると結論されていた。

 以上について私なりにコメントさせていただくと、まず、聞き分けというのは弁別学習の結果であるということ。なので、単に外国語のおしゃべりを聞かせる機会を増やすというだけで聞き分けが上達(あるいは保持)されるわけではないことが言えるようである。このことは早期教育のあり方を検討する上で重要な知見となる。

 バイリンガル環境の問題については、本章3章以降でも取り上げられているが、11月4日の日記に述べたように、音の聞き分けの問題と、特定の言語が使えるかどうかは私には別の問題であるように思える。じっさい、「L」と「R」の聞き分けができる人のほうが、聞き分けができない人より英語が達者であるとは言えないように思う。
「赤ちゃんは耳にした『音』をどうやって『ことば』として認識する?」というように、音と言葉の関係がメインテーマになっているが、音の弁別と言語の習得は別の問題ではないか?という部分がある。例えば、エル(L)とアール(R)の聞き分けができないからといって、直ちに英語の習得が困難になるわけではない。英語と日本語の本質的な違いは、「する」と「ある」の違いや、文脈依存の表現(例えば主語の有無)の違いに起因しているのではないか。


 不定期ながら次回に続く。