じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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 各種報道によれば、女子ゴルフの全英女子オープンで、岡山市出身の渋野日向子選手が通算18アンダーで優勝した。渋野選手はRSK山陽放送(TBS系列、山陽新聞系)の所属なので、朝一番に特番が組まれるかと思ったが、朝8時台の「ビビッド」での取り上げ方は、OHK(フジtv系)の「めざましテレビ」に比べると控えめであった。
 写真は、RSKの番組に映っていた、渋野選手の帽子のロゴ。
 なお渋野とRSKとの契約は所属契約であり雇用契約を結んでいないため昇進などは発生しない。今後、特番を作成する予定はあるらしい。

2019年8月5日(月)


3.
【連載】

又吉直樹のヘウレーカ!「仕掛学」と行動分析学(1)

 7月17日放送の又吉直樹のヘウレーカ!「なぜ駅前の放置自転車が急になくなった?」を録画再生で視た。

 番組ではまず、商店街(大阪市北区・天神橋筋商店街)の路上駐輪禁止区域において違法駐輪を無くすために、小学生が描いた絵のプリントを貼りつけるという対策が成功しているという事例が取り上げられた。「駐輪禁止」を無視する人でも、子どもが描いた絵の上に自転車を乗せることはしない。結果的に違法駐輪は一掃されたとのことであった(但し、違法駐輪に対する声かけも同時に行われていたようである。)

 番組の最初のほうでは、このほかにもいくつかの成功事例が紹介されていた。
  1. 真実の口」に似せた仕掛に手をつっこむと、消毒液が出てくる。【天王寺動物園と阪大附属病院に設置。動物園の調査では16倍、病院では7倍の利用増加】
  2. バスケットゴールのついたゴミ箱のほうが、単なるゴミ箱よりもゴミを入れる頻度が高まり、ポイ捨て軽減に貢献。【阪大構内の実験(5週間)では、単なるゴミに比べて1.6倍も利用が増えた】
  3. 筒を設置することで、覗く行動を増やす。【天王寺動物園で、子どもたちが展示物を覗いて見るるようになる】
  4. 複数のファイルボックスの背面に斜めの線を引いておく。これにより、ファイルボックスを特定の順に並べる行動が習慣化する。
  5. 紙媒体のアンケートを挿入すると、自動的に紙飛行機に折りたたんで回収箱に飛ばす。これによりアンケートの回収率が高まる。
  6. パンの試食テーブルで、単に「ご自由に試食してください」では(買わされるのがイヤで)試食する人は少ないが、2つの試食品のどちらが好きかを投票してもらうような仕掛にしたところ、試食者が11%から20%に増加した。
 番組によれば、「仕掛学」は、大阪大学大学院経済学研究科教授のM先生が創始した新たな学問領域であり、

●「した方がいい」とわかっていても行動できない問題に対してついしたくなるように仕向けるもの

と定義されているという。

 いくら革新的・創造的な学問領域であったとしても、大学のような保守的な研究・教育体制のもとで、「仕掛学」という研究分野を指定して公募人事が行われることはまずあるまい、と思ったが、このM先生はもともと工学系のご出身の方で、基礎分野である程度の業績を積まれたあとに、人間行動の変容に関心を移されたようであった。

 研究の方法としては、当初は、仕掛の成功事例を集めて、その共通点から帰納的に体系化をはかるというものであったようだが、そのうちに、御自身でも新たな開発、応用に取り組んでおられるようである。ちなみに、上掲の6つの成功事例のうち、以下については全くのオリジナルの発明ではなさそうであった。
  • 2.のバスケットゴールに似た仕掛は、場所は忘れたがどこかで見かけたことがあった。男子用トイレで、オシッコが便器の外に飛び出さないようにする工夫も同様の原理によると思われる。
  • 3.は、海外の野外観察施設で、筒を覗くことで、特定の地形や植物の場所が分かるような仕掛として使われているのを見たことがあった(例えばアビスコ国立公園)。
  • 4.の斜め線をつけるという工夫は、1980年頃、当時、某研究所におられたA先生の研究室で見かけたことがあった。A先生は、御自身で購読している学術雑誌分冊の背表紙に斜め線をつけておられた。これにより、分冊の一部が抜けていたり、刊行順に並んでいない場合、すぐに発見することができる。私もさっそく真似を始め、定年退職ですべての学会を退会するまで続けていた。
 さて、私の関心事は、この「仕掛学」が、行動分析学の行動原理に基づくものであるのか、それとも、行動分析学には無かった全く別物の原理に基づいているのか、という点にあった。結論から先に言えば、「仕掛学」の成功事例は、すべて、行動分析学の強化・弱化の原理、あるいは、ルール支配行動や確立操作(動機づけ操作)の原理として説明可能である。但し、標的行動そのものを増減させるのではなく、標的行動とは競合的な行動(物理的にみて同時には起こりにくい行動)な行動を強化したり、機能的には別だが形態的には似ているような行動(例えば、「バスケットゴールに投げ入れる行動とゴミ箱にゴミを捨てる行動)を動機づける(もしくは強化する)仕掛を作っているという点では斬新であり、応用行動分析に携わっている方々にとっても様々なヒントをもたらしてくれる、といった印象を受けた。

 次回に続く。