じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
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 生協食堂(マスカットユニオン)入口の屋根に作られたスズメの巣。頻繁に餌を運んでいるようだ。


2019年7月11日(木)



【連載】

行動分析学用語(第3期分)についての隠居人的独り言(11)「古典的条件づけ」、「道具的条件づけ」、「制止」、「パブロフ型条件づけ」

 7月10日に続いて、行動分析学用語についての独り言。今回はリストにあった、
  • classical conditioning 古典的条件づけ
  • instrumental conditioning 道具的条件づけ
  • inhibition 制止
  • Pavlovian conditioning パブロフ型条件づけ
について独り言を述べることにしたい。

 昨日の独り言で、「内発的動機づけ」や「外発的動機づけ」は動機づけ理論の用語であり、行動分析学とは立場を異にする概念であると述べたが、上記の4語も同様であり、行動分析学用語とは呼べないように思う【但し、行動分析学の文献でも「Pavlovian conditioning パブロフ型条件づけ」は使われることがある。】

 こういう用語が検討対象になったのは、おそらく、公認心理師の試験問題にかかわってくるためであろう。

 じっさい、公認心理師を目ざす人たちが「学習・言語心理学」の入門書を手にした時、ある本には「古典的条件づけ」、別の本には「パブロフ型条件づけ」、行動分析学の入門書には「レスポンデント条件づけ」という呼称を目にして、これらの条件づけにはどういう違いがあるのだろう、いったい条件づけには何種類のタイプがあるのだろうと疑問に思われたとしても不思議はない。結論から言えば、私は、「レスポンデント条件づけ」と「オペラント条件づけ」のみを公式呼称とし、それ以外の呼称は学習心理学史の書物の中で「○○条件づけと呼ばれたことがあった」と紹介すればそれでよいのではないかと思われる【但し、行動分析学会以外の関連学会とも充分に協議する必要はある。】

 ところで、レスポンデント条件づけ(古典的条件づけ、パブロフ型条件づけ)とオペラント条件づけ(道具的条件づけ)はどこが違うのか、また、条件づけは、本当にこの2タイプだけで尽くされているのか、ということについてはもう少し考えてみる必要がありそうだ。

 行動分析学の標準的な解説としては、レスポンデント条件づけとオペラント条件づけは、まず、レスポンデント行動とオペラント行動の定義に基づいて区別される。
  • レスポンデント行動:特定の刺激(無条件刺激)によって誘発される行動
  • オペラント行動:誘発刺激なしに自発される行動。
 その上で、この2タイプの行動がどういうプロセスで変容するのかを調べてみると、
  • レスポンデント行動:特定の刺激(無条件刺激)との対提示された中性刺激が同様のレスポンデント行動を誘発するようになる。
  • オペラント行動:行動の直後に出現または消失した刺激事象によって、その頻度が変容するようになる。
ということが経験的事実として確認できるので、これらを「レスポンデント条件づけ」、「オペラント条件づけ」と呼ぶことにした、と考えるのが一般的であるように思われる。【長谷川版の2.2.参照】。

 もっとも長谷川版の発展学習で述べたように、自然界での諸行動は必ずしも、レスポンデントとオペラントに二分できるわけではない。またリンク先でも引用したように、トールネケ(2010,翻訳書2013)は、レスポンデントとオペラントの区別について以下のように述べている。
The terminology of behaviorismis simply a way of speaking about this issue, and we employ itbecause it is useful. It serves our purpose to distinguish between operant and respondent inthis way. Although these processes coexist in the web of events we are trying to understandand influence(more on this below), for the sake of clarity I will isolate what we think of asrespondent processes.【原書20頁】...
何がオペラントで,何がレスポンデントなのかを区別するのも,私たちの目的である「予測と影響」に有用だからにすぎない。オペラントとレスポンデントの2つのプロセスは,私たちが「予測と影響」を与えようとしている一連の出来事の中に,共に存在している(詳細は後述)。しかし,話を明確にするために,レスポンデントのプロセスと考えることができるものを取り出しているだけのことなのである。【翻訳書28頁】

 7月6日にも述べたように、レスポンデント条件づけ理論については、機能主義的立場から再構成できる可能性があるが、いずれにせよ、生物的な本質を探るというよりも、有用性という観点からの見直しという展開になるのではないかと思われる。

 次回に続く。