じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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 台風21号が日本に接近・上陸しそうな気配。気象庁によれば、31日03時時点で中心気圧は925hPa、今後905hPa程度まで発達すると予想されている。伊勢湾台風に比べると暴風圏の半径ははるかに小さいが、予想進路は伊勢湾台風に酷似しているようにも見える。

2018年8月30日(木)



【連載】
日本語と英語の違いをめぐる議論(2)正しい理論より有効な理論

 昨日の続き。このWeb日記でしつこく強調しているが、世の中には正しい理論とか間違った理論があるわけではない。あるニーズ(要請)に照らして、より有用な理論と、役に立たない理論があるだけだ。外国語学習に関して言えば、
  • より短時間で習得できる
  • より正確で自然なしゃべり方や書き方を習得できる
  • 「一を聞いて十を知る」ような応用性にすぐれている
といった文法理論こそが有用な理論ということになる。であるからして、言語学の世界でより「正しい」とされる理論が、言語学習にとって最も有用であるとは限らない。より有用かどうかということは、その理論に基づいた新しい学習法・教授法を開発した上で、
  • 新しい学習法・教授法に基づいて教育を受けるグループ
  • 従来の学習法・教授法に基づいて教育を受けるグループ
を比較して効果を検証する必要がある。また、今述べた平均値の比較ばかりでなく、特定個人に対する有用性も検証していく必要があるだろう(平均値では両群で差が無かったとしても、あるタイプの学習者に限ってはきわめて有効であるという場合もあるので。)

 日本語と英語の違いをめぐる議論では、例えばニスベットの『木を見る西洋人 森を見る東洋人 思考の違いはいかにして生まれるか』とか、MarkusとKitayamaの文化心理学的研究、スキナーの言語行動理論などの知見を取り入れる必要もあるように思うが、これらを直接学ばせるのか、それとも、教授法の構成の中に間接的に活かすべきかについては、学習者の年齢を考慮する必要がある。少なくとも大学生に英語を教える場合は、冒頭の何時間かを割いて、文化心理学(←すべて正しいわけではない。私自身は実際かなり批判してきたが...)やスキナーの言語行動理論などにもふれるべきではないかと思う。いっぽう、小学生などに英語を教える場合は、英語だけで聞いたり話したりしていけば、英語的発想は自然に身についていくかもしれない(とはいえ、限られた授業時間の中では日本人の小学生たちをバイリンガル化することはできないし、逆に日本語力の向上を妨げる恐れもある。)

 あと、これは、かつて紀要論文でも書いたことがあったが、日本人のすべてを英語ペラペラにする必要があるのかどうかも議論する必要がある。1日24時間の中での学習時間は限られているので、英語学習に時間をかければかけるほど、算数や国語といった他の科目を学ぶための時間は削られていく。ディープラーニングを活かした機械翻訳の精度が向上しつつあるなか、また、ネイティブの英語話者よりも英語がそれほど得意ではない相手方と話す機会のほうが遙かに多いという環境のもとで、ネイティブ英語のリスニングや発音の仕方の学習に多大な時間を割くことが義務教育レベルで必要かどうかについてももっと議論する必要があるように思う。

次回に続く。