じぶん更新日記

1997年5月6日開設
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 大阪駅周辺で見かけた菜の花と、大阪市立大学梅田サテライトの窓から眺める大阪駅方面。カメラが傾いていたため、大阪マルビルがピサの斜塔のように写っている。

2018年3月12日(月)


【思ったこと】
180312(月)第23回人間行動分析研究会(1)労力価値割引

 3月9日(土)に大阪市立大学梅田サテライトで行われた表記の研究会に参加し、私自身も発表をさせていただいた。この研究会で私自身がお話をするのは、1994年に行われた第2回以来、四半世紀ぶりとなった。

 研究会では、私自身の発表の前に4件の話題提供があったので、まずは備忘録を兼ねて簡単にコメントさせていただくことにする。

 1番目の話題提供は、労力割引と遅延価値割引に関する割引であった。

 遅延価値割引というのは、今すぐに10万円を受け取るのと、1年後に10万円、12万円、14万円、...20万円受け取るのとどちらを選ぶか?というような選択に関するものである。いますぐに10万円受け取れるのに、わざわざ1年後の10万円のほうを選ぶ人はいない。いっぽう、1年後に20万円受け取れるならそちらのほうがいいという人が大半であろう。1年後の割増額を少しずつ増やしたり減らしたりて「今すぐの10万円」と追比較してもらうと、どこかに均衡点が見つかる。かりに「今すぐの10万円」と「1年後の12万円」で均衡したとすると、「1年後」という遅延は、10万円の価値を「10万円÷12万円」に割引する効果があるということになるのでこれを遅延価値割引と呼ぶ。
 いっぽう、労力割引というのは、一週間後に10万円受け取るのと、一週間のうちに特定の作業に従事した上で10万円、12万円、14万円、...20万円受け取るのとどちらを選ぶか?というような選択に関するものである。何もしなくても10万円受け取れる条件と比較して、労力を要する作業を要する条件のほうは、当然、より高い報酬を受け取らなければ割が合わなくなる。つまり、労力を要する条件で12万円を受け取る条件と、何もしなくても10万円を受け取る条件が均衡したとすれば、労力は10万円の価値を「10万円÷12万円」に割引する効果があるということになるのでこれを労力割引と呼ぶ。

 今回の研究は「報酬量効果」(報酬の比較水準が高額かどうかによる効果)を検討したものであり、そのことについては特にコメントすることはないが、以下、2つほどこの種の研究について私なりの考えを述べさせていただこうと思う。

 まず、卒論や修論研究の場合、この種の実験・調査は、「もしあなたが10万円もらえるとしたら...」というような想定課題のもとで行われている点に留意する必要がある。これは現実のお金の取引とは著しく異なる可能性がある。また、今回の実験では、労力課題として「図書館の蔵書を(スキャナを使って)PDF化する作業」が想定されていたが、このような労力も、仮想の場合と実際に作業に携わる場合とでは大きく異なるであろう。つまり、「PDF化する作業」自体がもたらす割引ではなく、あくまで、想定された作業についての主観的な価値割引ということになりそうだ。

 となると、けっきょく、この種の想定課題というのは、ルール支配行動の範疇で検討されなければならない。こちらの電子版教科書で言えば、金額を割り増しすることでそちらの選択を促す効果(「労力」や「遅延」といった言語的刺激を付加することで選択されにくくする効果を含む)というのは、言語的な確立操作の1つである動機づけオーグメンタルに相当している。

 もう1つ、もっと根本的にみて、労力とは何かについても考える必要があるだろう。労力価値割引の課題としては「階段を上り下りする」が設定されることもあるというが、これは明らかにエネルギーを費やす労力と言える。いっぽう、上掲の「PDF化作業」というのは、それほどの力仕事ではなく、むしろ、参加者を一定時間拘束するという意味での「労働」と言える。こちらの章でも述べているように、もともとお金というのは人を働かせるツールであり、労働に従事するというのは「他者にサービスを提供するために一定時間拘束される」ということを意味する。こうした時間的拘束と、エネルギーを費やす力仕事は区別して考えるべきだと思う。

 次回に続く。