じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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 写真で綴る岡大20年(11)文学部耐震改修工事
 私が在籍した1991年から2018年までのあいだで、いちばん影響の大きかったイベントは、耐震改修工事による引っ越し作業であった。耐震改修工事は二期に分けて行われた。建物西半分の工事は一期(2011年秋から2012年春)。その期間、心理学教室は自然科学研究棟5階に間借りした。翌年の4月下旬、ふたたび文法経1号館の新研究室に戻った。

2018年2月20日(火)


【思ったこと】
180220(火)ボーム『行動主義を理解する』(89)自由(4)

 2月19日の続き。

 幸福が、選択肢を増やすことではなく、選択した行動が正の強化(好子出現による強化)にあるという考えに対しては、以下のような批判があるという(247頁)。
  • (1)欲望の本質を考えれば行動分析家の見方は正しいとは言えない。
  • (2)行動分析家の見方は素朴である。
 このうち(1)については、欲望をどう捉えるかという議論が必要である。行動分析学的に言えば、「望む」という行為は、何らかの強化子(好子)を獲得する行動であり、その強化子が過去にもたらされたことがある文脈の中で起こる。一度も獲得したことのない強化子を欲しがることもあるが、それは、過去に獲得した強化子の般化として説明される。ちなみに私自身は旅行を趣味としているが、旅行先は、過去に訪れた場所の再訪ではなく、一度も訪れたことのないところを優先している。これは、過去に「初めて観る絶景」により強化され、その般化として、今まで見たことのない絶景に接したいという行動傾向が生じていると考えることができる。

 欲望に否定的な人も、けっきょくは好子出現の随伴性により強化されている。好子となる事象は、金やモノばかりではない。芸術や知的創造、人類愛なども重要な好子である。禁欲主義者が否定している欲望は、特定の好子(主としてモノであって、際限なく求めようとするもの)に限定されていると言えよう。

 もう1つの(2)の批判は、好子出現の随伴性による強化は、「好子消失阻止の随伴性」や「嫌子出現阻止の随伴性」と裏腹の関係にあるという点である。【本書では、「阻止の随伴性」という言葉は使われていない。ここではあくまで長谷川による置き換えとなっている。】例えば、
  • 労働は、生活必需品という好子出現で強化されるが、働かなければ生活必需品という好子が奪われるという好子消失阻止の随伴性で強化されているとも言える。
  • 健康を維持する行動は、健康という好子出現の随伴性で強化されているとも言えるし、病気という嫌子の出現を阻止する随伴性で強化されているとも言える。
  • 食事をする行動は、食べ物という好子出現の随伴性で強化されているとも言えるし、飢えという嫌子の出現を阻止する随伴性で強化されているとも言える。
といった裏腹の関係が考えられる。これらを説明するには、そもそも「平穏」な状態が相対的であるという点に目を向ける必要がある。本書に挙げられている例で言えば「普通に健康的な生活を送っている人は、喉が痛いとそれを嫌悪事象とみる。しかし、癌に苦しんでいる人は、癌と比べれば喉の痛みなどたいしたことではないと思うだろう。」となる。要するに確立操作の問題である。

 次回に続く。