じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



11月のインデックスへ戻る
最新版へ戻る


 定年退職のための整理を確実に遂行するため研究室のドアにカウントダウンを表示しているところであるが(10月1日の日記参照)、いよいよ残り日数が150日ジャストとなってしまった。授業準備の合間に書類の整理・廃棄、図書の返却を少しずつ進めているがなかなかはかどらない。

2017年11月2日(木)


【思ったこと】
171102(木)日本行動分析学会第35回年次大会(21)超高齢社会における行動分析学(19)終末期の迎え方(4)

 11月1日の続き。

 時間制限があるため今回の話題提供では取り上げることができなかったが、寝たきり状態になった時にどうすればよいのか、ということについて、Skinner & Vaughan(1983)はあまり積極的な提案をしていない。じっさい、オペラント行動が殆ど起こらない状態に陥ると、「正の強化を受けながら行動する」こともできなくなってしまう。なお、このことに関しては、過去に刊行された2冊の翻訳書[]*16では異なる訳になっている。ここではまず、両者を併記させていただく。日本では、本明寛訳で1984年、また大江聡子訳で2012年に翻訳書が刊行されている。

●本明寛(訳).(1984). 楽しく見事に年齢(とし)をとる方法―いまから準備する自己充実プログラム― ダイヤモンド社.
●大江聡子(訳).(2012). 初めて老人になるあなたへ ハーバード流知的老い方入門. 成甲書房.
両者の違いについては、長谷川(2012)を合わせて参照。
When you find it truly impossible to enjoy your life, you pass out of range of this book. You face a problem that Western cultures have never solved. Few of us want to be a burden to others or to go on living in pain, but if we can no longer take care of ourselves or enjoy good health, there is little we can do. 【131〜132頁】
【本明訳】人生を楽しむことが真に不可能だとわかったら、あなたはもう、この本の領域を通り越している。あなたは、西欧文明が、これまでに解決し得なかった問題に直面しているのである。他人の重荷になりたいと思う人や、苦痛にうめきながらも生きつづけたいと思う人は、ほとんどいない。しかし、もし、自分の身のまわりのことが自分でできなくなったり、もう健康になれないとしたら、私たちにできることはほとんどない。
【大江訳】人生を楽しむなんてどうしても不可能だという確信に至った人は、本書ではもう手に負えません。現代文明ではいまだ答えの出ていない問題に直面していると言えます。誰だって、人の重荷になりたくない、苦痛にさいなまれながら生き続けたくないと思うものです。でも、もし身の回りのことが自分でできなくなったり、健康で楽しく生きることができなくなったりしたら、本書でお役に立てることはほとんどありません。
なお原文の「...there is little we can do.」というところの「we」は、文全体の主語は読者を含めた「私たち」であることから、大江訳の「本書でお役に立てることはほとんどありません」は誤訳であり、この部分は本明訳の「私たちにできることはほとんどない。」のほうが正しいのではないかと思われる。

 いずれにせよ、できることが殆ど無くなってしまった段階ではどうすればよいのかということになるが、Skinner & Vaughan(1983)の終わりのほうでは、緩和ケアとしての麻薬類の使用や安楽死について肯定的な表現が見られ、生きることについての積極的な提案はなされていない。

 しかし、Skinner & Vaughan (1983)の刊行から35年近くが経過するなかで、人体センサーやバーチャルリアリティ、ロボットなどの技術は大きく進歩した。指先や視線、さらには身体に取り付けられた電極など、種々のセンサーを利用してロボットを操作したり、他者とコミュニケーションをとったり、バーチャルな世界の中を移動したり、働きかけて変化させたりといった技術が可能となりつつある。このことにより、寝たきり状態になっても、ロボットを介してさまざまなオペラント行動を発せられるようになり、上掲のスキナーの「there is little we can do」 は「there is still much we can do」に変わりつつある。単に身辺自立を助けるための技術だけでなく、例えば、寝たままの状態でバーチャルリアリティの世界を体験し、世界各地の絶景や宇宙旅行を楽しむといったような能動的な活動を支援することもできるようになるだろう。

 次回に続く。