じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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 夕食後の散歩時に眺める、津山線沿いの、ほんのりとした夕焼け。昨日も述べたように、この日の日没は19時21分。まだまだ明るい。


2017年6月23日(金)


【思ったこと】
170623(金)ボーム『行動主義を理解する』(38)進化と強化(11)

 6月22日に続いて、

ボーム(著)森山哲美(訳)(2016).『行動主義を理解する―行動・文化・進化―』 二瓶社.

の話題。

 第4章の終わりのあたりでは、進化生物学における、近接的説明(proximate explanation) と究極的説明(ultimate explanation)の区別について興味深い記述がある。「くしゃみ」、「微笑む」、「学習する」、の原因は近接的説明では、個体の遺伝的素質に求められる。しかし、その個体がなぜ胎児の段階からそのような遺伝的素質を持っているのかについては、究極的説明が必要である。すなわち、
人類がくしゃみをしたり学習したりするのは、反射によるものであり、その能力によって何百万年にわたる人類とその祖先の間で繁殖が成功したからである。
 さらに、車を運転することに関して、次のような記述がある。
私が車をいろいろな速度(集団)で毎月毎月運転する理由は、私の神経系の生理で説明できない。それは、人間が両手両足を持っている理由をひとりの人の遺伝学的発生学的発達で説明できないのと同じである。個体群の説明には、究極的な説明あるいは歴史的説明が必要である。ある特殊な場面で、私が銃を持った男に財布を手渡したとする。この出来事は、ある集団(活動)のひとつ、すなわち「脅されてそれに従う」という活動のひとつであるが、この説明には歴史的説明が必要である。遊び場ではじまり、そして教室、さらにニューヨーク市の街角に至るまで、脅されて言いなりになるという行動に対する強化の長い歴史がこの出来事を説明する。/ But why the population of my driving speeds is whatit is month after month cannot be explained by the physiology of my nervous system, just as why human beings have two hands and feet cannot be explained by any one person's genetics or embryological development. The population requires an ultimate or historical explanation. On a particular occasion, I may hand over my wallet to a man with a gun; the historical explanation points to this event's membership in a population (activity), called, say, "complying with a threat," and the long history of reinforcement for complying with threats, from the playground to the classroom to the streets of New York City.
 これまた巨視的行動主義の立場を強く反映している。強盗にサイフを手渡すという行動は、「手渡す→殺されないで済む」という嫌子出現阻止の随伴性だけでは説明できない。脅かされている人の強化の歴史が反映していると言わざるを得ない。

 4章の終わりに書かれているように、近接的な説明がうまくいかない場合、人々は、心理主義による説明で納得しがちである。例に挙げられた「勉強しなければいけないのに、映画館に出かけていく」という行動は、「意志力が弱い」というように心理主義的に説明されてしまう。心理主義に陥らないような巨視的行動主義の立場からの説明については次章以降で語られることになる。

 第4章の要約のところにも述べられているが、生物の進化における自然選択の歴史は何世代にもわたって種に作用される。個体の行動における強化の歴史も同様である。いずれも、即時的な原因では説明しきれない。こうした、巨視的行動主義の立場は十分に理解できるものである。但し、過去の歴史による説明というのは、いま現在行われている行動をより適確に説明できるものの、これから先の行動をコントロールしたり予測したりすることはできない。(キリンの首が長いことについては説明できるが、これから何万年後にキリンがどうなるかを予測できないのと同じ。)個体の行動において、将来に向けてまとまった行動がある志向性を持つためには、
  • 過去の一定期間において影響を及ぼしていた強化の歴史が、今後の一定期間も継続するであろうという見通し
  • 将来の近接的要因についての言語的記述(ルール)
のいずれかが必要であろう。ルール支配行動が可能であればこそ、将来の目標に向けて努力を積み重ねることができるのである。

次回に続く