じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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 年末をひかえて各種の「○○大賞」の発表が盛んだが、岡大でも写真のような、いかにも岡山らしい大賞の投票が行われている。写真右上は12月5日、右下は12月8日の投票状況。名前にひかれたのか、マスカットユニオン(北福利施設)ではダントツの得票を獲得している候補がある。但し、ピーチユニオン(南福利施設)でも同じような得票状況になっているのかどうかは不明。
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2016年12月8日(木)



【思ったこと】
161208(木)関係反応についての講義メモ(26)手続的定義と機能的定義(3)

 昨日の続き。

 動物を対象とした弁別学習の実験では、弁別刺激の「手続的定義」は訓練者側(実験者側)、「機能的定義(制御変数的定義)」は被験体側(学習する個体側)の立場を反映しているようにも見える。しかし、その境界は必ずしも固定されているわけではない。「予測と影響」という観点から比較すると、
  1. 手続的定義と機能的定義が完全に一致している時には、どちらで定義しても予測と影響の精度は変わらない。
  2. 手続的定義と機能的定義が完全に一致しない場合、弁別学習は困難。例えば、「照明が赤の時は左のレバー、青の時は右のレバーを押せば強化」という手続的定義に基づいてネズミに弁別訓練を行ったとしても、ネズミは色の区別ができないので、(赤と青の明度に差が無ければ)弁別はできない。
  3. 手続的定義と機能的定義に一定範囲のズレが生じている場合は、
    • 実験者が、被験体が区別しやすいように、SとSΔの刺激を修正する。
    • 被験体側が、より正答率を上がるように、より精度の高い弁別を行う。
 このうち3.のケースは、動物実験では知らず知らずのうちに行われているかもしれない。すなわち、ある弁別課題で期待される学習が確認されない場合、研究室の仲間うちからは「弁別刺激を変えてみれば?」という提案がなされるこれは「実験者が、被験体が区別しやすいように、SとSΔの刺激を修正する。」に相当する。また、SとSΔが複雑で、当初は全く弁別できなかったとしても、シンプルな刺激から段階を経て強化していけば弁別ができるようになる。これは「被験体側が、より正答率を上がるように、より精度の高い弁別を行う。」に相当する。

 電子版教科書3.7.5.弁別における手続的定義と制御変数的定義で、漢数字の「三」と「十」の弁別という例を挙げた。これは
実験者が「三」が提示され時は左のレバー、「十」が提示された時には右のレバーを押せば強化されるというように課題を設定したとする。しかし、被験体は、それぞれの漢数字の下の部分の刺激の特徴、つまり「一」と「|」の特徴を弁別刺激として反応しているかもしれない。
という話題であった。実験者が何が何でも「三」と「十」の区別をさせたいと思えば、提示する刺激として、「一」、「三」、「|」、「十」という4種類の刺激を提示をして、そのうちの「三」と「十」以外では強化されないというように条件を設定すればよいだろう。動物はいずれ、その弁別ができるようになるかもしれない。(もっともこの場合でも、「三」と「十」ではなく「二」と「T」を区別している可能性があり、さらに精密な弁別訓練を行う必要がある。)

 実験場面ではなく、野生動物の適応という観点から弁別を考えた場合にも、当初から弁別の制御変数が固定されている動物よりは、自然界の多様な刺激とその変化に合わせて、柔軟に弁別ができる動物のほうが、過酷な環境の中で生き残る可能性は高いと言えよう。

 ということで、手続的定義と機能的定義をめぐる議論というのは、機能的定義を重視すべきだという結論ではなく、手続的定義と機能的定義に不一致があった場合に、手続的定義を行う側(実験者、訓練者、指導者、スポーツのルール、道路標識、避難経路の表示など)と、機能的定義に対応する学習者側(被験体動物、実験協力者、弁別刺激を利用する人たち全般など)がそれぞれどこまで擦り寄ることができるのかという観点から、可能な範囲を探る必要があるように思う。

 次回に続く。