じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



11月のインデックスへ戻る
最新版へ戻る

 工学部前の防火用水池に咲くスイレン。睡蓮の花期は、一般には5月から10月とされているようだが、ここの池は日当たりがよく、かつ寒気が当たりにくいせいか、11月下旬になってもまだ花をつけている。
tr>

2016年11月19日(土)



【思ったこと】
161119(土)関係反応についての講義メモ(13)弁別、オペランダムの定義(1)

 昨日に続いて、

佐藤方哉 (2007). 見本合わせは条件性弁別であろうか?−概念分析−. 帝京大学心理学紀要, 11, 1-8.

に関する話題。

 佐藤先生の御指摘をどう受け止めるのかについては、「弁別学習」や「オペランダム」の定義に立ち返って検討する必要がある。

 「弁別」自体は「弁別閾」という言葉があるように、行動分析学が誕生する以前から、感覚・知覚の領域で広く使用されてきた。

 行動分析学でいう「オペラント行動における弁別」に限って大ざっぱに言えば、特定の刺激がある時とない時でオペラント行動の生起頻度が異なるようになることを意味している。もっとも、行動分析学やその発展型の1つである関係フレーム理論においては、定義のしかたにはかなりの差違がある。

 まず、佐藤先生ご自身も執筆に関与された、

杉山尚子・島宗理・佐藤方哉・リチャードW. マロット・マリア E. マロット(1998). 行動分析学入門. 東京:産業図書.

に立ち返って、オペラント行動における弁別刺激について復習してみよう【但し、後述するように、佐藤(2007)は必ずしも同じ立場を堅持しているわけではない】。当該書の「第13章 刺激弁別」(173頁)では、弁別刺激は

弁別刺激:その刺激がある時には特定の行動が強化されたり弱化され、その刺激がない時にはその行動が強化も弱化もされない刺激

というように定義されている。さらに、その弁別刺激のことはS(エス・ディー)、その弁別刺激がない状態をSΔ(エス・デルタ)と呼ばれる。これは単に現象を記述するためのツールではなくて、「刺激弁別には常に、SとSΔという両方の刺激が存在する」という、本質に関わる部分が含まれている。

続いて同じ173頁では、「弁別訓練手続」と、「刺激弁別(=刺激性制御)」が以下のように定義されている。
  • 弁別訓練手続:Sが提示されている時には、ある特定の行動を強化または弱化し、SΔが提示されている時にはその行動を消去または復帰させること
  • 刺激弁別(刺激性制御):弁別訓練手続を行った結果、Sの下では行動が起こり、SΔの下では行動が起きなくなること
 これらの定義で留意すべきことがある。すなわち、訓練手続の段階で提示されるSやSΔが、刺激として丸ごと行動を制御しているとは限らないという点である。例えば訓練時に、漢数字の「十」をS、同じく漢数字の「三」をSΔとして提示したとする。その結果、「十」が提示された時には高頻度で当該行動が生起し、「三」の時は当該行動が起こらなくなったとしよう。この場合、手続的には「十」と「三」の弁別ができるようになったと見なされるが、実際はこれらの漢数字の下の一部、「|」(「十」という文字の下のほうの垂直線部分)と「一」(「三」という文字の3本の水平線のうちの一番下の1本のみ)が弁別刺激として機能していた可能性もある。その場合は、「|」や「一」という刺激が提示された時にも、「十」と「三」が提示された時と全く同じように行動の起こり方が変わる可能性がある。

 次回に続く。