じぶん更新日記

1997年5月6日開設
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 岡山では11月に入ってから最低気温が10℃を下回る日が連続しており(こちらのデータ参照、紅葉が一気に進んでいる。写真は岡大・東西通りのハナミズキ(紅葉)とケヤキ(黄葉)のコントラスト。

2016年11月8日(火)



【思ったこと】
161108(火)関係反応についての講義メモ(3)実験による検証方法、あるいは類似した日常場面(1)

 昨日の続き。

 関係フレーム理論では、遅延見本合わせ課題の実験が相互的内包(mutual entailment)の事例として挙げられることが多い。この課題の標準的な手続は、
  • 試行開始時に見本刺激である1つの刺激を提示
  • 一定の遅延時間後に複数の選択刺激(選択肢)を提示
  • 選択刺激(選択肢)の中から見本刺激と同じものを選択した場合は強化、異なるものを選択した時は強化されない。
という形で行われる。例えば、「猫」という漢字を見せて、「イヌ」、「ネコ」、「ウマ」、「ウシ」の中から「イヌ」を選べば正解となり強化、それ以外を選んだ場合は不正解となり強化されないといった方法である。

 こうした訓練を繰り返した後に、見本刺激として「ネコ」が提示され、一定の遅延時間後に「犬」、「猫」、「馬」、「牛」という漢字で書かれた選択肢が提示される。一度も訓練されていないにもかかわらず、「猫」が選ばれたとすればこれは派生的関係反応が確立(形成)されたという証拠になる。

 なお、じっさいの実験では、カタカナや漢字ではなく、無意味な綴りとか、シンプルな模様の組合せなどが用いられる。【実際のカタカナや漢字はすでに対応づけが学習されているので、派生的関係反応の証拠にはならない。】

 もっとも、こうした実験手続のもとで、人間以外の動物では派生的関係反応が生じないということを示したとしても「言語行動は人間だけ」という根拠になるかどうかは疑わしい。無意味な綴り(例えば、URDとかOXQ)とか、シンプルな模様の組合せ(例えば、○と□の組合せ)というのは人間にとっては幼少時から馴染み深い文字や図形の組合せであるのに対して、人間以外の動物にとってはふだんの生活環境では全く利用価値の無い模様に過ぎないからである。

 では、写真もしくは実物の猫や犬を見本刺激として提示したらどうか、ということになる。しかし、写真刺激に対しては、殆どの動物は殆ど関心を示さない。おそらく、嗅覚と視覚の複合刺激でないと実物としての価値が無いのであろう。いっぽう、間近に実物を提示した場合は、まずは、その対象が、自分の天敵であるのか、無害であるのか、獲物であるのか、などによって反応が全く変わってくる。上掲の実験のような「中性的な刺激」として利用するのはまず不可能であろう。【そういう意味では、チンパンジーの言語学習の実験で、実物の日用品が見本刺激として利用できているというのは驚きである。】

 人間の幼児を対象とした実験で、猫や犬の写真を見本刺激として使うためには、まずはそれらの動物が中性的な刺激であることが必要である。犬を怖がる子どもには犬の実物を見本刺激には使えないし、一度も見たことのない動物の写真を使った場合は、馴染みの動物の写真とは反応が異なる可能性がある。

 次回に続く。