じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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 岡山では、7月18日の梅雨明け【暫定値】のあと、7月18日〜20日の3日間は日照時間が10時間以上の晴れの日が続いていたが、21日以降は、日照時間は0.0時間から9.2時間(平均5.8時間)となり曇りがちの日が続いた。写真は7月28日(木)と29日(金)の夕暮れの空。28日【写真上】は夕日で赤く染まった積乱雲、29日【写真下】は美しい形の巻雲が見えていた。

2016年07月29日(金)



【思ったこと】
160729(金)トールネケ『関係フレーム理論(RFT)をまなぶ』(79)アナロジー、メタファー、そして自己の体験(15)視点取りと心の理論(3)フィクションの効用と多重志向性

 昨日の続き。

 まず、原書発行時点(2010年)ではまだ刊行されていなかったが、2012年刊行の

McHugh,M., & Stewart,I.(Eds.) (2012). The Self and Perspective Taking: Contributions and Applications from Modern Behavioral Science. New Harbinger Publications.

という本の分担章の中にも関連文献がありこちらのほうが新しい内容を含んでいる。
  • Chapter 5: Theory of Mind.
    by Martin Doherty.
  • Chapler 6: How the Self Relates to Others When Perspective Taking Is Impaired. by Matthieu Villatte, Roger Vilardaga, and Jean Louis Monestes France

 なお、この本はネット上では、「McHugh,M.,Stewart,I., & Williams,M.」という3名の編著のように記されている場合もあるが、このうちのWilliams氏は「はしがき」執筆者であり編著者には含まれていない。よって、Williams氏を除く2名による編著とするほうが正しいと思われる。また上掲の第6章の第三著者:Jean Louis Monestes先生はフランス人の方のようで、正式には、Jean-Louis Monestes("tes"のところの"e"はグレーブアクセント付きE小文字となっていた。




 さて、すでに言及したように、他者の信念を区別したり、さらに他者に共感することについては、RFT以外の立場からもさまざまな検討が行われている。ネットで検索したところ、フィクションを読むと幸せになる9つの理由という一般読者向けのコンテンツでは、「人の気持ちになって考えたり、共感力を高めたりするために、フィクションを読むことほど効果的なものはありません。」として、レイモンド・マー先生の研究を引用していた。もっとも、フィクションを読む行動は、それを読んでポジティブな結果が伴った場合に初めて強化されるものである。フィクションを楽しめない者にとっては、それを読む機会がもそも無いので共感力を高める手段として活用することはできない。

 いっぽう、

持留(2009).「心の理論」と文学. 文学部論集(佛教大学), 93, 93-106.

では、リサ・ザンシャイン(Lisa Zunshine )進化心理学者のピンカー(Steven Pinker)の論考が紹介されており、まことに興味深い。ちなみに、上掲論文によると、ザンシャインはウルフの『ダロウェイ夫人』(Mrs. Dalloway )の中には、6重の多重志向性の情報処理を行わなければ理解できない文章があると指摘しているという。
Woolf intends us to recognize [by inserting a parenthetical observation, “so Ri-chard Dalloway felt”]that Richard is aware that Hugh wants Lady Bruton and Richard to think that because the makers of the pen believe that it will never wear out, the editor of the Times will respect and publish the ideas recorded by this pen (6th level). (33)

 また、

Dunber, Robin.(2000). On the Origin of the Human Mind. In P. Carruthers and A. Chamberlain (Eds.)Evolution and the Human Mind: Modularity, Language, and Meta-Cognition.Cambridge: Cambridge University Press, (pp.238-53.)

の中で多重志向性の文章理解に関する実験結果が紹介されており、それによれば、4重レベルの志向性までの誤答率は5〜10%と低いが、5重レベルになると誤答率は急激に60%まで上昇することなどが指摘されている。 【例えば、「ジェーンは、ピーターが、サラがサイモンはサラがピーターと付き合いたいと思っていると信じていると思っていると考えていると信じている」(“Jane believes that Peter supposes that Sarah thinks that Simon believes that Sarah would like to go out with Peter”)」】。

 上記の文章の日本語訳はちょっと耳にした程度では何が何やらよく分からない。かつての本多勝一『日本語の作文技術』を参考に、もう少し日本語として分かりやすく書き直すことはできるとは思う。
  • 「サラはピーターと付き合いたいと思っている」という話がある。
  • サラ本人は、この話をサイモンが信じていると思っている。
  • ピーターは、サイモンがそう信じているとサラが思っているのではないかと考えている。
  • ジェーンは、ピーターがそのように考えていることを信じている



 次回に続く。