じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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 6月7日朝のモーサテによれば、5月30日〜6月5日のビジネス書ランキング(紀伊国屋書店調べ)で、引き続き『嫌われる勇気』が首位を確保していた。5月17日などからの推移を見るとビジネス書界の順位変動の激しさがうかがわれるが、その中にあって首位をキープし続けているというのはスゴイ。なお、続編の『幸せになる勇気』のほうは少しずつ順位を下げているようにも見える。

2016年06月07日(火)


【思ったこと】
160607(火)トールネケ『関係フレーム理論(RFT)をまなぶ』(40)派生的関係反応(12)派生的刺激反応と刺激機能の変容(1)

 昨日の続き。

 これまでのところでは、相互的内包や複合的相互的内包を通じて刺激が弁別機能を獲得する事例が挙げられてきた。原書71頁(翻訳書99頁)以降では、これらに加えて、刺激機能の変換を示す実験的証拠が紹介されている。

Dougher, M. J., Augustson, E. M., Markham, M. R., Greenway, D. E., & Wulfert,E. (1994). The transfer of respondent eliciting and extinction functions through stimulus equivalence classes. Journal of the Experimental Analysis of Behavior, 62, 331-351.

この文献は、こちらサイトこちらから無料で閲覧することができる。

 この研究では、まず、3種類の刺激(便宜上B、C、Dとする)に関する見本合わせ訓練が行われ、さらに、別の3種類の刺激(便宜上F、G、Hとする)に対しても同様の訓練が行われた。次に、Bに相当する刺激が表示されるたびに軽い電気ショックが与えられた。これにより、Bは不快感や恐れを誘発する機能(条件刺激としての機能)を獲得した。その生起は、皮膚伝導度により測定された。その後別の課題の遂行中にB、C、D、F、G、Hが無作為な順で提示されたところ、BはもとよりCやDが提示された時にも皮膚伝導度の高まりが確認された。しかしF、G、Hが表示された時にはそのような変化は確認されなかった。CやDへのレスポンデント条件づけが全くなされていないこと、またBの刺激般化としては説明できないことから、CやDがBと同様の条件反応を誘発したことは、刺激機能の変換を示す証拠であると考えることができる。

 この研究ではさらに、上記の条件のもとで、Bに対する消去を行うと、CやDが提示された時にも同じような消去が見られることが確認された。いっぽう別のグループで、B、C、Dに関する派生的関係を確立する訓練が行われなかった場合、B、C、Dそれぞれに対してレスポンデント条件づけが行われた後にBに対する消去訓練を行っても、CやDが消去されることは無かった。

 なお、オリジナルの論文をもとに補足をさせていただくと、まず、上記で便宜上B、C、D、E、F、Gと呼んだ刺激は実際は、正8角形、逆向きの正三角形、手裏剣型などの模様(無意味図形や不規則図形ではない)が用いられていた。実験協力者に対して、「軽い電気ショック」を与えるという操作が気にかかるところであるが、もとの論文【333〜334頁】には
Selection ofshock level. Shocks were 200ms duration and between 1.0 and 2.0 mA instrength. Each subjectset her own shock level. Each subject was instructed to choose a level of shock that was uncomfortable but not painful. Each was given a sample shock of 2.0 mA. If thiswas too strong, the levelwas decreased and another samplewasgiven. Shock levelwas then increasedor decreased inresponse to the subject's reactions untilan uncomfortable but not painful level was found or until the level reached 1.0 mA. We were concerned that shock levels below 1.0 mA would be too weak to produce conditioningor might result in rapid habituation. Accordingly, we decided to exclude subjects who selected shock levels below 1.0 mA.
という記述があった。実際に各実験協力者が設定したショックレベルは1.0mA〜1.75mAの範囲であった。

 実験協力者は、実験1では8人の心理学入門科目受講の女子大生であり、協力者募集の掲示を見て応募した人たちとなっている。協力者にはcourse credit と10ドル、さらに課題遂行により最大20ドルのボーナスが獲得できるチャンスが与えられていた。実験中いつでも参加を取りやめることができること、また実験終了後にすべての協力者に対して実験についてのディブリーフィングが行われたという。

 実験2のほうは同じく心理学入門科目受講の8人の学部生であるが、こちらのほうは男女半々となっている。実験1と同様、開始時にショックレベルの設定が行われたが、1.0mA未満を選択した協力者はいなかった。

 1.0〜1.75ミリアンペアの電気ショックを0.2秒与えるという実験操作は、生命に危険を与えるレベルではなさそうであるが、念のためウィキペディアの該当項目を参照したところでは、
電流としては、商用周波数で0.5mAが人体に感じる最小の電流と言われており、10mAを超える電流では筋肉の随意運動が不能となる。電流密度が高く通電部組織の発熱量が多い場合には、ジュール熱による火傷や組織壊死を生ずる場合もある。人体の器官のうち心臓は特に電流に敏感であり、100μA(0.1mA)を超える電流が心臓を通過すると心室細動、心停止を起こし死に至る危険性があるとされている。
という記述があった。もとの論文で「Each subject was instructed to choose a level of shock that was uncomfortable but not painful.」と記されていることから、実験協力者は定義上苦痛を受けていないと判断されるが、実験遂行に関する種々の倫理的制約をクリアするのはかなり難しいような気がする。とはいえ、この研究で発見された事実は大きな意味をもつものである。

次回に続く。