じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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 6月1日はよく晴れ爽やかな風が吹いた。空気が澄んでいたことで、夕刻、南東の空には5月31日に最接近となった火星のほか、アンタレスを含むさそり座、土星が見えていた。写真にも写っているさそり座のδ星ジュバはかなり明るく見えていたが、増光しているのかどうかは不明。最近はこの星のことがあまり話題にならない。こちらに関連記事あり。

2016年06月1日(水)


【思ったこと】
160601(水)トールネケ『関係フレーム理論(RFT)をまなぶ』(36)派生的関係反応(8)言語行動と派生的関係反応

 昨日の日記の続き。

 原書66頁(翻訳書91頁)以降の「Derived Stimulus Relations as a Fundamental Process in Human Language(派生的刺激関係一人間の言語の基本的なプロセスとして)」では、直接的には一度も条件づけされていないような関係づけが生じることを人間の言語の本質として位置づけ、新たな体系化を構築する意義が述べられている。それは、刺激等価性クラスに関する諸現象を説明することが目的ではなく、それらの諸発見を含めて、言語行動や習得のプロセスをより整合的に、かつ、予測や制御(影響)に役立つ理論を目ざすということである。

 例えば「言語の上達と,実験において派生的関係反応を示す能力との間に,相関があることが示されている。言語の得点が非常に低い個人は,派生的関係反応のテストに失敗する傾向がある。」【原書67頁、翻訳書93頁】という研究:

Devany, J. M., Hayes, S. C., & Nelson, R. O. (1986). Equivalence class formation in language-able and language-disabled children. Journal of the Experimental Analysis of Behavior, 46, 243-257.

からは、言語行動を上達させるためには、派生的関係反応を豊富にするための訓練が有効であることが示唆される【但し、相関関係なので、どちらが原因でどちらが結果なのか、もしくは共変関係にあるのかは、この事実だけからは断定できないが】。もし、言語的能力の基盤として豊富な派生的関係反応(←直接的な条件づけばかりでなく、それに派生して生じる様々な関係づけ)が必要であるとするなら、単語の語彙や発音ではなく、関係づけを重視した支援、あるいは外国語習得法というのがあってもよさそうに思うが、実際にそのような開発が行われているのかどうかは確認していない。

 続く、「Derived Relational Responding as Learned Behavior(派生的関係反応一学習された行動としで)」(原書67頁以降、翻訳書94頁以降)では、派生的刺激関係を示す行動が人間に生得的に組み込まれた行動ではなく学習されていく行動であると論じられている。これは実験的証拠に基づいた主張である。いっぽう、レスポンデント条件づけやオペラント条件づけは、人間を含む種々の動物に生得的に備わった能力であるとされている。なぜそういう条件づけが可能かという原因は、進化のプロセスに求められる。適応的なメリットがあればこそ、結果として生き残ってきたのである【もちろん、昆虫のように、別の仕組みで環境に適応してきた生物もあるが】。

 原書68頁以降(翻訳書94頁以降)では、派生的関係反応は、レスポンデント条件づけの関与もあるものの、主としてオペラント条件づけのプロセスを通じて習得されていくと論じられている。そのような主張のもとでは、言語行動は次のように再定義され、さらには上にも述べたように、言語行動の習得を支援する新しい方法の開発につなげることができるはずである。
  • Verbal behavior is the behavior of relating stimuli or events in a particular way. As certain relations are directly trained according to the principles of operant and respondent learning, the verbally competent human being derives additional relations - relations that need not be trained directly. The ability to relate stimuli in this way is in itself a learned ability, learned through operant conditioning.
    言語行動とは,刺激または出来事を特定の方法で関係づける行動である。特定の関係がオペラント学習とレスポンデント学習の原理により直接的に訓練されるにつれ,言語的に有能な人間は,付加的な関係を派生させる。これは直接的に訓練される必要のない関係である。刺激をこのような方法で開係づける能力は,それ自体が学習された能力で,それはオペラント条件づけを通じて学習されたものである。
  • If this is correct - that is, if the fundamental process in human language can be understood as operant behavior - then interesting and important possibilities arise. Operant behavior can be influenced. An understanding of this process would mean there are prospects for influencing human behavior in all situations where "languaging" is a contributing factor. If so, this applies to a very broad field. For example, we could help children with difficulties connected with learning language, we could improve pedagogies in general, and we could help people when their way of thinking creates problems.
    もしこれが正しいとしたら, つまり,人間の言語の基本的なプロセスがオペラント行動として理解できるものであるとしたら,それによって興味深く,また重要な可能性が生まれる。オペラント行動は,影響を受け得るものである。つまり,このプロセスを理解することは,「言語を操ること」が要因となるすべての状況での人間の行動に影響を与える可能性が示される,ということを意味する。そうであれば,このことは,とても広い領域に適用可能になる。たとえば,私たちは,言語の習得に困難のある子どもたちを援助できるかもしれないし,教育全般を改善できるかもしれない。また, 思考の仕方が問題を引き起こしでいる場合に,その人たちを援助することができるかもしれない。


 次回に続く。