じぶん更新日記

1997年5月6日開設
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 文学部中庭のソメイヨシノと八重咲き花桃が開花した。3月25日の学位授与式(卒業式・修了式)に間に合ってよかったよかった。

2016年03月24日(木)


【思ったこと】
160324(木)行動分析学における自己概念と視点取得(8)思考(4)想起、問題解決

 昨日の続き。

 Skinner(1953)の第16章では、「思考」に関連した様々な行動について行動分析学的なアプローチのあり方が論じられている。すでに取り上げた「意思決定行動」に続いて「想起という行動」が論じられている。
何かの名前がどうしても思い出せない時、人はしばしば、形態的もしくは意味的に関連した刺激を自ら発し、それをヒントにして正解となる反応を引き出そうとする。これは、昨日も述べたプロービングの一種であり、自身でプロービングを発する場合はセルフ・プローブ(self-probe)と分類される。具体例として、外国人の名前であれば、まずはどこの国の人かを手がかりにして思い出す。また、音声的特徴を形態的プローブとして発する場合などが挙げられていた。

 続いて取り上げられているのが「問題と解」である。上記の「名前を思い出す」も問題解決の一種であり、この場合、正しい名前を発するという反応が出現すれば問題は解決される。正解反応が出される過程で、補助的な刺激源を探索したり、自ら発する行動が問題解決行動ということができる【翻訳書290頁から改変】。
  • 「鍵が掛かった引き出しの鍵を見つける」、「ガス欠の自動車にガソリンを注入する」、「絡み合った知恵の輪を解きほぐす」、「ミステリー小説に出てくるすべての内容に適合する犯人の名前を見つけ出す」、「素数を常に発生させる数式を作り出す」なども同様であり、問題の解となる反応を生起させるような補助的な行動は問題解決行動と言うことができる【翻訳書291〜292頁】。
  • 但し、そのような補助的なプロセスの助けを借りなくても、全く偶然に、正解となる行動が生起する場合もある。また、試行錯誤により結果として問題解決がなされる場合もある。スキナー自身は、こうした偶発的な解決は問題解決ではないと述べている。【翻訳書293頁】
  • 問題解決(あるいは問題解決モドキ)のプロセスとしてスキナーは、形態的プロンプティング、三段論法、さらにはセルフプローブ(self-probe)の効用に言及している。但し、個人がいかにして三段論法的思考やセルフプローブを身につけられるのかについては、少なくともSkinner(1953)の段階では特段の言及はない。三段論法的思考については、その後、関係フレーム理論の中で複合的(相互的)内包【トールネケ, 2013, 88〜89頁参照】として発展させられているように思う。


 「問題と解」の節の後半部分には、
Another technique of problem-solving consists essentially of the self-probe. Tentative solutions, perhaps assembled for this purpose, are systematically reviewed. There are also certain practices which are not to be overlooked even though they are not directed toward specific solutions and hence are not ordinarily included in problem-solving. 【原書250頁】
問題解決の別の技法は、本質的にはセルフプローブ(self-probe) という方法で構成されている《問題解決に導くもう1つの方法として、基本的にセルフプローブに依拠した方法がある》。この目的のために集められたと思われる試験的な解が体系的に見直される《この目的のために暫定的に集められたと思われる暫定的な複数の解がシステマティックに評価される》。たとえある実践的な取り組みが特定の解へと向かっていなくても、また通常はその取り組みが問題解決にならなくても、見過ごしてはならない実践的な取り組みも存在する。【翻訳書296頁、《 》内は長谷川による補足】
という興味深い解法スタイルが紹介されている。具体例として挙げられている音声集積録音装置(verbal summator)についてはこちらに資料があり、こちらに解説がある。
追記]「verbal summator」関連論文
  • Skinner, B.F. (1936). The verbal summator and a method for the study of latent speech. Journal of Psychology, 2, 71-107.
  • 伊沢秀而 (1953). 言語を媒介とした条件反射汎化研究の動向. 教育心理学研究, 5 (1957-1958) No. 3, 48-57.
  • Baars, B.J.(2003).The Double Life of B.F. Skinner Inner Conflict, Dissociation and theScientific Taboo against Consciousness. Journal of Consciousness Studies, 10,1- 21.
  • Rutherford, A.(2003). B. F. Skinner and the Auditory Inkblot: The Rise and Fall of the Verbal Summator as a Projective Technique.History of Psychology, 6, 362-378.
  • 松川春樹 (2015).聴覚投映法における形式面と認知面の指標の検討−対人恐怖心性との関連から−. 東北大学大学院教育学研究科研究年報, 63, 183-193.


 次回に続く。