じぶん更新日記

1997年5月6日開設
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 大学構内各所で、アベリアの花が見頃となっている。花期が長く、公共花壇には最適の植栽。


2014年9月24日(水)

【思ったこと】
140924(水)日本心理学会第78回大会(15)ACTとマインドフルネス(10)指定討論(2)心理療法の効果(1)

 昨日の続き。

 指定討論では、

Lambert, M. (1992) Psychotherapy Outcome Research: Implications for Integrative and Eclectic Therapists. In Handbook of Psychotherapy Integration, (Eds) Goldfried, M. & Norcross, J., Basic Books, pp. 94-129.

における心理療法の効果に関する分析の問題点について指摘があった。

 元の論文は、要するに、ある心理療法を受けたことによるクライエント改善効果というのは、その療法自体の技法・モデルによる効果ばかりでなく、人間関係や、プラシーボ効果も含まれているというものである。
  • 技法 15%
  • 共通要因(セラピーにおける人間関係など) 30%
  • 期待感(プラシーボ効果を含む) 15%
  • 治療外の変数とライエントの変数 40%

この論文の内容は以前にも聞いたことがあり、私自身は少なくとも次の2通りに解釈できると思っていた。
  • あるセラピーの効果検証を行っても、セラピー自体の効果は意外に少ない。極言すれば、祈祷やおまじないみたいな場合もある。それでも、結果的にはクライエントの改善につながるのだから決して無駄とは言えない。
  • どんなに有効と言われているセラピーでも、それだけで万能効果が期待できるわけではない。人間関係や周りの雰囲気を大切にし、かつ、クライエントに適度の期待感をいだかせるといっそうの効果が期待できる。

 また一般的には、技法にこだわるよりも共通要因(治療同盟、治療者とクライエントとの間の作業関係の確立)を重視すべきだという主張の根拠にもなっているようだ。

 もっとも、今回の指定討論によると、この分析はかなりいい加減なものであるようだ。ネットで検索したところ、こちらに、問題点が詳しく指摘されていた。一口で言えば、それぞれの要因のところで○○%として使われている数値は、全く違うレベルから持ってきたもので、これを同次元で比較するというのはまともな推論とは言えないという指摘である。

 では、実際のところ、心理療法における「技法の効果」はどの程度のものなのだろうか。今回の指定討論では、「うつ病の認知療法においては、認知療法の技法の効果は56.8%であり、共通要因の43.1%より大きい。」といった、より精密な分析結果が紹介されていた。もっとも、ACTやマインドフルネスの効果についてはまだまだ証拠が少ないようである。

 アメリカ心理学会第12部会(臨床心理部会)が報告している「Research-Supported Psychological Treatments.(APA Presidential Task Force on Evidence-Based Practice. (2006). Evidence-based practice in psychology. American Psychologist, 61, 271-285.)」の最新版によると、ACTの治療効果の中で「Strong research support」として認定さrているのは、Chronic pain (慢性疼痛)だけであり、それ以外には、Depression、Mixed anxiety、OCD、Psychosisで「Modest research support」があるとされているのみであるという。また、マインドフルネス認知療法については、そもそもリストに挙げられていない点も指摘されていた。少なくとも精神科臨床では、
この疾患はこういうメカニズムよって起こっているので、この部分をこのように変えれば治すことができる【←長谷川の記憶に基づく表現】
といった「疾患特異的」な説明がないと精神科臨床では評価されないのではないか、という厳しい指摘もあった。

 ここからは私自身の考えになるが、まず上記のような科学的な効果検証は引き続き進めていく必要があるとは思う。しかし、医療現場で薬理効果が検証されているような薬であっても、効く人と効かない人があり、仮に100人中99人には無効であっても、残りの1人には有効という薬があるなら、その1人に対しては薬の投与を続けるべきであるとは思う。心理療法の場合はさらに、クライエントの個々の要因が大きく反映するため、万能な療法や疾患特異的な療法だけでなく、その個人に特異的に有効な療法というのもの見つけていく必要があるように思う。その場合は、平均値的な効果の比較ではなく、効果が及ぶケースと及ばないケースの範囲の同定や、見極めの基準をしっかり確立することが大切であろう。


 次回に続く