じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



06月のインデックスへ戻る
最新版へ戻る
 日本行動分析学会第32回年次大会出席のため、青森県の弘前大学(文京キャンパス)にやってきた。ここを訪れるのは初めて。写真左は、創立70周年を記念して平成元年に建てられた、弘高生(旧制弘前高校生)青春之像。写真右は、旧制弘前高校・外国人教師館。


2014年6月28日(土)

【思ったこと】
140628(土)日本行動分析学会第32回年次大会(1)セルフ・コントロールおよび価値割引研究の基礎と応用

 学会・研究会等に参加した時はこのWeb日記にメモ・感想を記すことにしているのだが、ちょうどいま、授業の講義録を連載している最中でもあり、授業の参考資料を兼ねていて執筆を先延ばしできないため、今回は、ごく短めに記すこととさせていただく。

 まずは、大会初日の午前中に行われた表記の大会企画シンポジウムの話題。

 シンポでは、まず、趣旨説明の中で、セルフ・コントロールと衝動性が、
遅延された大きな報酬(遅延つき大報酬、LL)を選ぶか、それともすぐ貰える小さな報酬(即時小報酬、SS)を選ぶか、という選択場面において
  • LLを選ぶのがセルフ・コントロール
  • SSを選ぶのは衝動性
というように定義された。そのあと、
  1. セルフ・コントロールと衝動性の神経基盤
  2. 子どもの価値割引研究と教育場面での応用
  3. 心理療法とセルフ・コントロール研究 価値割引研究の衝動性制御への応用
  4. 指定討論
という順で話題提供と指定討論が行われた。

 それぞれの話題提供はまことに興味深い内容であり、とりわけ、「じっくりと待てずに衝動的に行動してしまう」という意味での衝動性の神経基盤や応用について新たな知見を得ることができた。

 そのことをふまえた上で、いくつか疑問点や意見を述べさせていただく。

 まず、このWeb日記で何度か指摘していることであるが、ひとくちに遅延つき大報酬といっても、数十分以内の遅延と、何ヶ月、時には何年もあとに受け取るような大報酬は区別して論じるべきだと私は思っている。前者は確かに「衝動性」が関与していると思われるが、後者は、間接効果的な随伴性であって、ルール支配行動としてどう確立できるかが課題である。長期的な課題を遂行できないのは決して衝動的傾向が強いからではない。ルール支配行動を確立するための入れ子型の随伴性がうまく設計されていないこと、また、直接効果的な好子を付加するための手立てが不十分であることに原因がある。これらは、むしろセルフ・マネジメントの技法として論じるべきであろう。

 第二に、「遅延された大報酬」のケースでは、遅延期間にどういう行動が行われているのか詳細に検討する必要があると思う。一口に「待つ」と言っても、行列のできるお店で単に時間の経過を待つという場合と、努力の積み重ねによって達成に至るという場合では性格が異なる。後者の場合は、比率強化スケジュールにおいてFRやVRの値を少しずつ増やすという訓練、さらには、達成の進捗状況をフィードバックするといった付加的強化を配置することでうまくいく可能性がある。

 第三に、待つということは必ずしも「遅延つき大報酬」と「即時小報酬」というポジティブな選択肢間の葛藤に限られたことではない。「待ち時間30分」という表示板のある回転寿司屋さんの前でじっと待つか、それともそこから立ち去るか(外食を取りやめるか、別の店に行くか...)というのは、形式的には選択場面とも言えるが、実質的には、「30分待つ」ということがどの程度の嫌子になっているのかにかかっている。葛藤の古典的理論で言えば、「接近−接近」型の葛藤ではなく「接近−回避」型の葛藤もありうるということだ。

 このほか、フロアからの質問として発言させていただいたところであるが、ギャンブル依存は必ずしも衝動性とは関連していないように思う。パチンコやスロットマシンのようなギャンブルに熱中するのは、衝動性が高いからではなく、VRスケジュールにはまってしまうためと言えるし、また、大間のマグロなどは、ギャンブルと同様にきわめて不確実な結果によって強化されていると言われるが(何日間も釣れないことも少なくない)、だからといって漁師さんたちは衝動的とは言えない。むしろ、日々、ルーチンワークをこなして賃金を受け取っている人のほうが即時小報酬で強化されているようにも見える。

 ということで、私自身のコメントを要約すると、以下のようになるかと思う。
  • 短時間の範囲における衝動性については、じっくり待つ、もしくは地道な努力を積み重ねて達成を獲得する行動を強化することは大切
  • しかし、衝動性を抑えるための修行を強いるというのは行動分析学的とは言えない。むしろ、直接効果的な付加的強化随伴性で補完することにより、無理なく、かつ結果的に「待ってしまった」という行動マネジメントを設計することが肝要。
  • 人間も動物も所詮は即時小報酬で強化されやすいようにできている。と遅延つき大報酬Aよりも即時小報酬aのほうが強化されやすいという場合は、遅延つき大報酬Aに即時小報酬bやCを付加して、価値割引を補完してやれば結果的に遅延つき大報酬Aのほうを選ぶようになるはずだ。



 次回に続く。