じぶん更新日記

1997年5月6日開設
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 5月31日朝の岡山は前日に続いて高濃度のPM2.5と黄砂に覆われ、日の出の方位にあたる龍ノ口山は殆ど見えず、また、太陽は地平線からかなり昇った後にやっと輪郭がはっきりしてきた。こんなこともあって、ここ3日間ほど、早朝の散歩を休止している。このところ、鼻や喉の調子がイマイチであり、運動不足の弊害よりも、PM2.5を大量に吸い込むことの害のほうが大きいと判断したため。


2014年5月30日(金)

【思ったこと】
140530(金)長谷川版「行動分析学入門」第7回(17)好子出現の随伴性による強化(24)部分強化と強化スケジュール(11)いろいろな強化スケジュール(4)変時隔スケジュール(2)変比率との違い

 先に述べた変比率スケジュールと、今回取り上げている変時隔スケジュールは、ともに、日常生活で体験するさまざまな好子出現の随伴性に類似しています。

 例えば、1時間に3本運行しているというバスに乗るためにバス停に向かったとします。バスの時刻表が分かっていて、しかも定刻通りにバスが到着するのであれば定時隔スケジュールとなりますが、時刻表が分からず、しかも交通渋滞によって到着時刻が不確定となる場合は、変時隔スケジュールとなります。世の中で起こる出来事は、昔も今も不確実に生じることが多く、これに対処する行動は、変時隔、もしくは変比率スケジュールで強化されています。

 ここで念のため、変時隔スケジュールと変比率スケジュールの違いについて復習しておきましょう。

 まず、先に述べた変比率スケジュールというのは、自分の行動の回数(あるいは量)と好子出現の総数が比例関係になっています。好子を獲得するために必要な回数は不定ですが、VRの値で示されるように、平均値としてどのくら必要であるのかは分かります。例えば「VR10」の強化スケジュールの場合、100回行動した時は平均して10回、200回行動すれば平均して20回というように、好子獲得量(=強化回数)は行動の量に比例して増えていきます。

 いっぽう、変時隔スケジュールの場合は、好子獲得量(=強化回数)は総時間と比例関係にあります。VIの値が5分間の場合(「VI 5min」)は、60分間の平均の強化回数は「60min÷5min=12」すなわち12回となっていて、いくら頑張って行動してもそれを上回る好子を獲得することはできません。このほか、変時隔スケジュールの場合は、長時間何もしないで待っていると、そのあとの最初の行動が強化される確率はほぼ100%になるという特徴があります。「VI 5min」のスケジュールのもとで50分間待ってから行動すればほぼ確実に好子が獲得できるでしょう。

 もっとも、スキナーボックスに入れられた実験動物にとっては、自分の晒されている強化スケジュールが変時隔なのか変比率なのかは分かりようがありません。人間の日常生活の場合も同様です。

 行動分析学の入門書の中には、ギャンブルを変時隔スケジュールの例として紹介しているものがありますが、私は、ギャンブルは基本的に変比率スケジュールであると考えています。厳密に言うと、パチンコやスロットマシンなどは、当たりの時に好子が出現し、外れの時には好子が消失するという二重のスケジュールになっています。しかし好子出現に限っていれば(つまり、パチンコであれば、何回でもタダで玉を打つことができて、外れてもすでに獲得した賞球が減らされることが無いという条件に限定して考えてみれば)、パチンコを打てば打つほど、その行動回数に応じて好子獲得量も増えていきますので、これは変時隔ではなくて変比率で強化されているであろうと考えるわけです。

 もっとも、実験動物の場合もギャンブルの場合もそうですが、
  • もともと用意されていた強化スケジュールがどういう数学的基準で行動を強化しているのか【手続的な視点】
  • 実際に行動している人間や動物が、ローカルな場面や文脈の中で、何に影響されて強化されているのか【制御変数的視点】
という2つの視点は区別する必要があります。さらには、こちらで公開されているような、もっと大きな、微視的理論と巨視的理論という大きな問題があります。

変動比率スケジュールと変動時隔スケジュールの比較検討 : 強化随伴性の時間枠をめぐる微視-巨視論争

なお、この要旨でも言及されていますが、人間と人間以外の動物では、実質的に行動を制御している変数には違いがあるようです。人間以外の動物では、もっぱら、行動と強化のあいだの接近的な関係(接近性変数)が影響を及ぼしているのに対して、人間では少なくとも部分的に、より巨視的な相関関係が行動に影響を与えているようです。

 余談ですが、上掲の論文では「変比率」や「変時隔」の代わりに「変動比率」、「変動時隔」という呼称が用いられていました。また、「定比率」や「定時隔」は「固定比率」や「固定時隔」となっていました。文字数は増えますが、このほうがイメージしやすいというメリットがあるかもしれません。【さらに日本語らしくするには、「比率変動」、「時隔変動」、「比率固定」、「時隔固定」とするとさらに分かりやすいように思います。】

次回に続く。