じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



04月のインデックスへ戻る
最新版へ戻る

 文法経1号館と2号館の間の中庭花壇にチューリップ、ブルーデージー、ユリオプスデージー、オステオスペルマム、芝桜などの花が咲いている。文学部中庭(1号館北側)のチューリップと同様、事務職員のボランティアの方々の手で植えられたもの。ちなみに、私がボランティアで世話をしているチューリップはこちら


2014年4月12日(土)

【思ったこと】
140412(土)長谷川版「行動分析学入門」第1回(3)原因にもいろいろある(2)

 前回、毒入りカレー殺人事件(あくまでフィクション)を例に、被害者のお一人が亡くなった原因は、複合的であると申し上げました。にも関わらず、通常は、犯人が毒を混入させたことが主要な原因であると見なされます。それはなぜかというと、この部分だけが社会的にコントロール可能であり、犯人を逮捕してしっかり処罰すれば、同種の事件の再発は防げるに違いないと期待されるからです。亡くなったお一人だけが高齢であったとか、体調を崩していたというのも亡くなる原因の1つではありますが、それは偶発的に複合されたものであって再発を防ぐことはできません。(もちろん、町内会でハードな山登りを計画していたという場合は、万が一の事故に備えて、高齢者や体調の悪い人の参加をお断りするという手立ては可能です。) もう1つ、犯罪に使われた毒物が倉庫から盗まれたという原因は、その倉庫の防犯・管理体制が不十分であった場合には、過失責任を問われる可能性があります。

 いずれにしましても、日常生活で「何が原因でそれが起こったか?」という問いに答えるには、その現象を起こさせたあらゆる原因(=「十分原因」と呼ばれます)をすべてを挙げる必要はありません。通常は、種々の複合的な原因の中で、要するにそれがあれば起こるが、それが無ければ起こらないという部分(=「必要原因」と呼ばれます)のうち、原因探索のニーズに合致したものを取り出して「原因を見つけた」と言っているにすぎないのです。

 もう1つ、「腕時計をハンマーで叩いたらガラスが割れた」という事例を考えてみましょう。通常、ガラスが割れた原因はハンマーで叩いたことにあると見なされます。事実、ハンマーで叩かれなければ割れることはありません。他人の腕時計を故意に叩いた人が居れば当然、犯人として裁かれるでしょう。しかし、異なるニーズのもとでは、全く別のところに原因が求められる場合もあります。例えば、その腕時計が耐衝撃仕様になっていて、ハンマーで叩いたぐらいでは割れないということをセールスポイントにしていたとします。となると、もし、ハンマーで叩くという製品検査の途中にガラスが割れたとしたら、その原因は、叩いたこと自体ではなく、製造工程に欠陥があるというように見なされます。要するに、同じ現象が起こったとしても、器物破損事件として扱うのか、製品の耐衝撃テストとして扱うのかによって、原因のとらえ方が異なってくることが考えられます。

 以下にお話しする「行動の原因」についても、どういうニーズでその行動をとらえるのかによって見方が変わってくる可能性があることにご留意ください。

 原因にもいろいろあるということについては、複合性やニーズとは別に、レベルの異なる4つあるいはそれ以上の原因を考えていく必要があります。このことを本格的に説いたのは古代ギリシアの哲学者アリストテレスです。アリストテレスは次の4通りの原因を考えました(「四原因説」)。
  • 質料因 material cause (hyle)
  • 形相因 formal cause (eidos)
  • 作用因 efficient or moving cause (arche)
  • 目的因 final cause (telos)
 行動分析学で考える「行動の原因」は、このうちの3番目「作用因」が中心となりますが、何人かの著名な行動分析学者は、4番目の目的因も研究の対象にすべきだと論じています。(例えば、Howard Rachlin)。

 不定期ながら次回に続く。